2021年2月19日付で、国連の特別報告者4名から日本政府に対して、学生支援緊急給付金に関する共同書簡が送付されました。これに対し、日本政府は、2021年4月19日付で共同書簡への回答を送付しましたが、国連からの指摘に対して誠実かつ正確に答える回答は示されていなかったことから、移住連から以下の通り反論します。
なお、今回の共同書簡は、IMADR(国際人権NGO反差別国際運動)が、移住連を含むNGOからの声明や政府に対する要請の結果をもとに国連の特別手続きに対して報告を行ったことを受けて発表されたものです。
2021年2月19日付で、国連人権特別報告者4名は、学生支援緊急給付金(以下「給付金」)に関して、a)留学生にのみ成績上位などの追加的要件(additional criteria)が設定されていること、b)各種学校である朝鮮学校(Korea University)が対象外とされていることに対して、社会権規約や人種差別撤廃条約に違反するのではないかとの懸念を示す共同書簡を送った。
加えて、共同書簡は、以下4点についての情報提供を日本政府に求めている。
1)特別報告者のもとに寄せられた申立てに関する追加情報やコメント
2)給付金制度の運用と、留学生やマイノリティ学生が学んでいる高等教育機関での学びの継続を促進するための措置に関する情報
3)マイノリティの権利保障と良質な教育への平等なアクセスを確保するために日本政府がとっている措置についての詳細な情報
4)高等教育を受けている学生の諸権利(教育、労働、社会保障、健康その他の関連する生活諸分野に対する権利)にコロナが及ぼす影響に対処するために実施・検討された追加的措置に関する情報
これに対して、日本政府は、4月19日付で回答を送付したが、残念ながら、廃案となった改定入管法案に関する共同書簡への対応と同様、国際人権条約を軽視した不誠実なものであった。ここでは、上記1)に対する日本政府の反論を示したい。
政府回答1-1)
この回答の前半部分は正しいが、後半部分は不正確である。
文科省が示した給付金の要件は、以下の通りで、日本人学生や留学生以外の外国人学生については①~⑥を、留学生については①~⑤及び⑦を満たすことが求められている。今回懸念の対象となった⑦の要件は、留学生以外の学生に対する⑥の代替要件である。
① 家庭からの多額の仕送りを受けていない
② 原則として自宅外で生活をしている
③ 生活費・学費に占めるアルバイト収入の割合が高い
④ 家庭の収入減少等により、 家庭からの追加的 支援 が期待できない
⑤ コロナの影響でアルバイト収入が減少している
⑥ JASSO等の既存の奨学金を受給している
⑦ 成績評価係数が 2.30 以上、1か月の出席率が80%以上等
政府は、JASSOの高等教育の修学新支援制度、及び第一種奨学金(無利子貸与型)も、成績要件があると主張している。
しかしながら、高等教育の修学支援新制度は、学びたい気持ちを応援するものであり、主たる要件は世帯収入である。成績に関しては「学修の意欲や目的、将来の人生設計等が確認」できれば支給対象となる。支給継続にあたって、学業成績や出席率が著しく悪い場合には停止になることもあるが、その基準は、修得単位数が標準単位数の5割以下、出席率が5割以下など、今回の給付金制度で留学生に示されている要件よりも極めて低いものである。
第一種奨学金(無利子)についても、「学修意欲があり、特に優れた学習成績を修める見込み」があれば、成績要件を必要としていない。
そもそも本給付金制度は、コロナ感染拡大による経済的影響に対して「学びの継続」を支援することが目的であり、コロナ以前の経済状況は関係ないはずだ。加えて、在留資格「家族滞在」や「特定活動」、「公用」などの外国人はJASSO奨学金の対象外であるため、当該要件は一部外国人学生にとって不利なものであることを勘案すれば、要件⑥と⑦は、削除されるべきである。
文科省は、上記の要件を満たさなかったとしても、大学等が経済的困難に直面していると認めれば支援対象となっているとも主張している。だが、当該給付金は、JASSO第一種奨学金の受給実績に基づいて、大学等ごとに人数枠が設定されているため、同じように困窮している学生を、大学等が選別・排除することになり、その判断において、文科省が示した要件を参照する大学等も多いと推測される。最終判断を大学に委ねるのであればなおさら、要件⑥と⑦は不要のはずである。
政府回答1-2)
より高いハードル(要件)が設定されているにもかかわらず、留学生の支給率が高いのは、留学生の方が経済的に困窮している現実を示している。
共同書簡は、留学生の経済的困窮と学業成績は関係ないと指摘するとともに、JASSOの「2017年度私費外国人留学生実態調査」によれば、私費留学生の75%がアルバイトをしており、アルバイト収入が全収入のおよそ50%を占めていることを参照している。
これに対して、日本政府は、JASSOの当該調査から単純にそのような結論を導き出すことはできなと主張しているが、これは、JASSO調査を信頼に足りないとみなしているのであろうか。
しかしながら、文科省は、給付金対象者数43万人を算出するにあたって、JASSOの「2016年度学生生活調査」を参照しており、この点において、当局の説明は矛盾している。
政府回答2)
政府は、給付金の対象は、日本人、外国人を問わず、大学、高等専門学校、専修学校(専門課程)、日本語学校に通う学生であり、各種学校や高等学校、専修学校(高等課程と一般課程)は対象外であると説明したうえで、朝鮮大学校(Chosen Dai-Gakko)は、各種学校であり、大学(University)ではないという屁理屈を展開している。一方で、外国大学日本校も支給対象に含めているが、それには言及していない。
一条校ではない日本語学校や外国大学日本校が対象とされているにもかかわらず、外国大学日本校と同様に大学院入学資格が認められている朝鮮大学校を対象外とした合理的な説明は、政府回答ではなされていない。
「『学びの継続』のための学生支援緊急給付金」(文科省HP)
2020年5月25日 「学生支援緊急給付金」に関しすべての困窮学生への給付を求める声明」(移住連)
2020年5月29日 「学生支援緊急給付金」に関する文科省要請報告(移住連)