移住連は、移民のかかえるさまざまな課題について、テーマ毎に取り組みをしています。
外国人技能実習生権利ネットワークは、技能実習生から日常的に相談を受け、問題解決に当たっている全国の個人・団体から構成されています。
毎月、定例会を行いさまざまな情報交換をしながら、年に数回ニュースを発行し、時にはシンポジウムなどを開催しています。また、関係省庁などと定期的に話合いの場をもつなどロビイング活動も行っています。さらに、国連の人権関係委員会や米国国務省などに情報提供し、国際的にも取り組んでいます。社会的な関心の高まりもあり、テレビや新聞・雑誌などの取材も多くなっています。
1993年 技能実習制度の施行 | 技能等の移転という国際貢献を目的とする外国人研修制度に接ぎ木する形で、「研修+技能実習」として1993年にスタートしました。 |
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2010年 在留資格の追加 | 多くの技能実習生が来日することとなったため、2010年には「技能実習」という新たな在留資格が設けられました。 |
2017年 技能実習法施行 | 国内外からさまざまな問題点が指摘され続けたことから、制度の改善を目指して2017年11月から新たに技能実習法が施行されました。 |
しかしながら、構造的な問題は、まったく変わっていません。
国際貢献のためとされている技能実習制度ですが、その実態は人手不足の中小零細企業等における安価な労働力を受け入れる制度として機能しています。
技能実習生の送出し国には送出し機関があり、日本国内には監理団体という技能実習生の紹介・斡旋・監理を行う機関が介在し、受入れ企業等で技能実習生が実習に従事します。
公正な受入れ制度にするために
外国人技能実習生権利ネットワークは、こうした技能実習制度を、移民の権利が保障される公正な受入れ制度に切り替えていくことを目指しています。
入管法対策プロジェクトは、出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」)が改定されるたびに、外国人管理や排除が強化されることに対する問題意識から始まりました。
入管法とは名称にあるように外国籍者の出入国を管理することを目的とした法律のことです。 しかし、移民の日本での安定した生活を奪うことにつながる条項もあり、彼・彼女らの日本での暮らしにも様々な制約をもたらしています。
このプロジェクトでは、定期的な会議のほか、ロビイングやアドボカシー活動、自治体へのアンケート、セミナーやシンポジウムの開催などを行なっています。これらの活動を通して、国籍や民族ルーツにかかわらず、同じ社会に生きる人々が平等な権利を保障されるための制度的基盤を構築することを目指しています。
医療・福祉・社会保障プロジェクトは、「すべての外国人に医療保障を」求める市民運動の中から生まれました。日本国内で暮らす人が、出身国や入国の経緯、そして在留資格にかかわらず、適切な医療を受けることができるようになること、そして誰もが健康で文化的な生活を送り、幸せに生きる権利を享受できる社会を実現すること、それが、医療・福祉・社会保障プロジェクトの目標です。
移民が非正規滞在の状況に置かれると、病気になっても治療もできず、健康と暮らしが破壊され、すべての人が享受できるはずの「健康で文化的な生活を送る権利」も奪われてしまいます。
適切な医療を受ける権利を奪われているのは、非正規滞在者に限りません。多くの移民は、「言葉の壁」を抱えています。ゆえに適切な医療が提供されるためには、「医療通訳」の存在は不可欠です。しかし、医療通訳を用意している医療機関は少数で、日常生活の中で、「いつでも」「だれでも」「どこでも」通訳を利用できる体制からは程遠いのが現状です。
医療・福祉・社会保障プロジェクトでは、このような状況を少しでも変えていくため、各地で様々な支援活動が行われています。
支援の事例を持ち寄り、情報、ノウハウ、意見の交換を行い、一人でも多くの移民が、健康に生きる権利を取り戻すことができるようサポートしています。また、支援に携わるスタッフの人的交流を通して、支援活動の層を厚くしていくことも目指しています。
活動によって得られた成果や課題をもとに、移民を排除する医療、福祉、社会保障制度を改めていくことを目指し、省庁や地方自治体へのロビイング活動も行っています。
女性プロジェクトが発足したのは、1999年、国際結婚が増える中でDVや離婚、地域での孤立などのさまざまな問題が全国で顕在化してきた時期でした。移民女性は、移民であることと女性であることから複合的な差別を受けやすく、さまざまな困難に直面します。プロジェクトは、日本各地に点在する地域の移民女性支援団体と専門家を結ぶネットワークとして、支援情報の共有や支援の連携、移民女性の暴力に関するホットラインやDV施策にかんする調査などを行ってきました。また国際結婚女性の支援や暴力対策、離婚後シングルマザー家庭の支援に関する法制度などの改正を求めてロビイングやアドボカシー活動をしてきました。
さらに、2010年代に入り、JFC母子や留学生といった新たな形の人身取引の課題や、技能実習生の女性のセクハラや労働問題、家事労働者や介護労働者の問題などにも取り組んでいます。
移民女性への包括的な支援法を目指して
移民女性への権利侵害があとをたたない現状の背景には、移民女性の権利を保障し支援するための包括的な法律がないことが大きな要因としてあります。そこで、定住する移民女性への包括的な支援法をめざして「日本型多文化家族支援法制定にむけた調査と政策提言」プロジェクトにも取り組んでいます。
日本には、アジア、ラテンアメリカ、北アメリカ、ヨーロッパ、アフリカの国々から140万人を超える移住労働者(移民)が働いており、その数は年々増加しています。移住労働者の仕事は、私たちの生活に密接に結びついています。コンビニエンスストアでは店員だけでなくお弁当や総菜を作る工場で、また宅配便の荷物の仕分け、クリーニング工場、建設現場に解体現場、造船、町工場、スーパーマーケットの裏方、ホテルの清掃、レストラン・居酒屋、農業、学校の教室と、ありとあらゆるところで移住労働者が働いています。
日本政府は、慢性的な人手不足を移住労働者で補う一方で、彼・彼女らの権利侵害には目を背けたままです。また社会でもまだまだ移民の存在が認識されていません。そうした状況のなか、低い労働条件の差別的な処遇がまかり通り、人身取引すら横行しています。
移民労働者の生活と権利確立のために
移住労働者が労働者として声をあげ、存在を可視化することで、このような現状を変え、移住労働者の権利が保障される社会をつくる--これが、この活動が目指していることです。
外国につながる子ども・若者プロジェクトは、移民ルーツの子ども・若者が直面する困難、とりわけ教育の課題について各地域で相談活動や啓発活動などを行うとともに、地域を越えた情報交換のほか、議員や省庁へのアドボカシー活動も行っています。
外国につながる子どもたちは、全国平均と比較して進学率が低く、中退率や非正規就職率が高いなど教育格差に直面しています。
日本語指導の必要な高校生 | 全国平均 | |
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公立高校の生徒の中退率 | 9.61% | 1.27% |
高卒後上級学校への進学率 | 42.19% | 71.24% |
就職者のうち非正規就職率 | 40.00% | 4.62% |
進学も就職もしていない者の率 | 18.18% | 6.50% |
出典:文科省速報値(平成29年度)
高校生の中退率・進路状況と同時に、こうした子ども・若者がおかれている状況は地域によって大きな違いがあります。文部科学省が行った「日本語指導が必要な児童・生徒」の小・中・高の在籍状況をもとに、「中学校在籍を1としたときの高校在籍割合」(高校進学率の推定値)を計算してみると、都道府県によって大きな違いがあることがわかります(表2参照)。そこでプロジェクトでは、地域を越えた情報交換や取り組みの学び合いなどによって、平等な教育機会を保障するための取り組みを行なっています。
小学校在籍 | 中学校在籍 | 高校在籍 | 中学校在籍を1としたときの高校在籍割合 | |
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愛知 | 6681 | 2295 | 265 | 0.1 |
神奈川 | 3395 | 1098 | 642 | 0.6 |
東京 | 2364 | 1005 | 606 | 0.6 |
静岡 | 1996 | 712 | 230 | 0.3 |
出典:2016年度文科省の調査(抜粋)を元に作成。小学校在籍1500名以上の都道府県。人員数は外国籍、日本国籍も含む。
外国につながる子ども・若者のために
地域での取り組みと国政レベルでのアドボカシー活動をつなげることによって、外国につながる子ども・若者たちの置かれている困難や教育格差を是正することが、プロジェクトの目標です。
貧困対策プロジェクトは、移民の「貧困」をめぐる課題にアプローチしているプロジェクトです。具体的には、移民が差別され、社会の底辺に固定化されがちな社会・歴史的背景を明らかにするため調査を行うとともに、シンポジウムや出版などを通じて社会に問題を発信しています。
経済的な理由で、自分のなかに潜在的にある力や可能性を引き出せない状態をいいます。また、海外の最貧国のように1日1ドルで生活しなくてはならないというような「絶対的貧困」だけが貧困ではありません。 同じ社会で暮らす他の人が当たり前に実現できることが、経済的な理由でできない状態も「相対的貧困」として解決すべき問題として国際社会で認識されています。
誰でも同じように将来の夢を構想して実現できる社会に
移民の場合、「移民/外国人だから」という理由で、進学や就職において、さまざまな可能性が閉ざされたり、制限されたりしがちなのが現状です。移民・移民ルーツをもつ人びとにとって、自分のやりたいことを実現するチャンスは日本人よりも限られています。 移民/外国人でハンデがあるのだから日本人よりがんばらなくちゃ」、というのではなく、国籍やルーツにかかわりなく、誰でも同じように将来の夢を構想して、実現できるような社会にする。これが貧困対策プロジェクトの目的です。
国境を越える移民をめぐる課題への取り組みは、日本国内だけにとどまらず、国際的な連携、および国際社会に働きかけることも重要なアクションです。その仲介役として移住連では国際人権部を設けています。
国連が採択し日本も加盟国になっている国際人権条約の監視委員会が数年ごとに日本政府の実施状況について審査する際、日本の移民の直面する人権課題に関してNGOレポートとして情報提供することです。さらに、実際の審査の場に出向いて、委員と直接対話する場合もあります。国際人権基準に基づき、移民の権利が保障される必要があるからです。
これまでに、国際人権規約(自由権規約、社会権規約)や人種差別撤廃条約、女性差別撤廃条約、子どもの権利条約などの審査の際に、情報提供をしてきました。審査の後、各委員会は総括所見をまとめ、懸念と勧告を具体的にあげるのですが、移住連が提供した課題も多く盛り込まれています。
国際人権部のもうひとつの主要な役割として、とりわけアジア地域で活動する移民の当事者および支援に取り組む、また政策提言を行うさまざまなNGOとの経験交流を行うことがあります。移住連は、アジア地域の17ヵ国・地域のNGOが加盟する「アジア移住者フォーラム」(Migrant Forum in Asia)のメンバーとなり、国際会議に参加するとともに、情報交換を行っています。