(その他のステークホルダーへの質問について)
1. Progress in relation to the protection of migrant workers’ rights at the national level
(国レベルでの移住労働者保護に関する進展について)
(1)日本における一時的労働移民制度の変遷
さまざまな国際機関から人権侵害を指摘され続けてきた技能実習制度は、日本における一時的労働移民制度の典型である。しかし、技能実習制度以前から存在してきた「研修制度」においても、実質的に労働者としての活用がなされてきていた。
1950年代から始まった「研修」は、本来は知識や技能等を習得する活動であるが、人手不足を背景に、実質的に労働力の活用となる実態が指摘されてきた。こうした建前と実態の乖離をなくすため、労働者として認める技能実習が1993年に導入された。当初は、「研修1年+技能実習1年」という制度とされたが、その後、1997年には「研修1年+技能実習2年」=計3年間の制度とされ、定着した。
しかし、研修は労働ではないため労働法の適用はなく、技能実習において指摘されるような人権侵害も続いてきた。そこで、2010年からは、研修は公的研修等に純化され、技能実習と切り離された。他方、技能実習制度では人権侵害が引き続いたことから、2017年には技能実習法が施行されることとなり、制度管理にあたる外国人技能実習機構も設立され、制度的には整えられた。このように一つの在留資格に対して、固有の法律が制定された例は、他にない。それほど、放置できない問題の存在が明らかとなったのである。
しかし、その後も人権侵害の実態に変わりはなく、技能移転を通じた国際貢献という制度目的と労働力としての活用という実態との乖離は大きかった。このように日本における一時的労働移民制度における制度目的と実態との乖離は、長らく続いてきている。
(2)技能実習から育成就労への転換
こうした中、2024年に技能実習制度の改善を目指した育成就労法が制定され、2027年までには施行されることとなった。
しかし、技能実習制度における人権侵害の基盤的な要因となってきた「転職の自由なし」「多額の手数料等の支払い」について、若干の改善の方向は示されたが、根本的な改善には程遠いものにしかならなかった。
① 育成就労法においては、育成就労外国人が一定の条件を満たしていれば、自らの意思での転籍が可能とされたが、転籍先にも多くの条件が課されており、両方の条件をクリアして育成就労外国人が実際に転籍することは容易ではない。
すなわち、3年間の受入れである育成就労であるが、分野別に1年以上2年以内の転籍制限期間が設けられ、日本語試験及び技能試験への合格も必要とされる。また、転籍先が受け入れることができるのは、在籍する育成就労外国人数の3分の1等に限定される方向で検討されている。さらに転籍先は、転籍元の負担した初期費用の多くも負担しなければならない。現在、1年で転籍した場合、転籍先が6分の5も負担する方向で検討されている。
② 育成就労法において手数料等の支払い上限は省令で定めることとされたが、現在、「日本で受け取る月給の2か月分まで」とする方向で検討されている。これでは、比較的支払額が低い国に対しては、現状より多くの支払いを認めることともなりかねない。また、送出し機関以外のブローカー等については、規制の対象外となっている。国際基準であるゼロ・フィーには、程遠い。日本は、ILO第181号条約を批准しており、本来、手数料を労働者が負担すること自体が認められないはずである。
なお、2022年に公表された入管庁調査では、技能実習生の送出し機関等への支払い費用総額は、平均で54万円強であり、最も多いベトナムでは、69万円弱である。しかし、移住連が相談に応じて支援した技能実習生の実態としては、ベトナムについては100万円ほどというケースが多く、母国での年収の数年分にも及ぶものとなっている。
2. Key human rights challenges faced by transnational migrant workers
(多国籍の移住労働者が直面している主な人権課題について)
技能実習制度における他の主な人権問題としては、技能実習生の意に反する強制帰国、建設業や製造業の一部で頻発する暴力、労使間の力の格差が非常に大きいことを背景にあらゆる産業で起こりやすいパワハラ・セクハラ、受入れ機関が監理団体に支払う監理費の多さを一つの要因とする低賃金・賃金不払い、長時間労働等がある。
これらは、技能実習制度において顕著であるが、同じく一時的労働移民制度である特定技能など他の在留資格でも発生している。新たな育成就労制度では、特定技能との一体的な運用が想定されるので、より問題点の継続する可能性が高い。
強制帰国については、7において指摘する。
暴力は、一部の産業で頻発してきたが、建設業や製造業の一部では日本人に対しても暴力がみられる産業であることもあり、あまり大きな問題として取り上げられることは少なかった。しかし、2022年に私たち支援団体が関わったケースで、技能実習生が暴力の実態を写した映像を含めて外国人特派員協会での記者会見を行ったことから、大きく取り上げられ、政府も通達を出し啓発を行う対応がなされた。入管庁に対しては、その産業を担当する国土交通省などとも連携して特別な対応をとるよう要請しているが、実現していない。
パワハラ・セクハラは、日本人に対しても日常的に頻発していることもあり、政府による特別な対応はなされていない。しかし、過去には、労働契約関係ということへの理解の薄い農業分野において、数十回に及ぶ性暴力が行われたケースもあり、事態は深刻である。
技能実習生は技能実習法上、日本人の賃金と同等以上の賃金を与えられなければならないことになってはいる。しかし、厚生労働省の調査によれば、2024年度の技能実習生の所定内賃金は182.7千円となっており、日本人を含む全体平均330.4千円と比較して大幅に少なくなっている。技能実習生の賃金は、実際には各都道府県別の最低賃金になっていることが多い。
賃金不払いは、長時間労働とも関連して残業時間における不払いが極めて多くなっている。日本人にも結構みられることではあるが、低賃金の技能実習生にとっては、より深刻な結果を招いている。
4. Specific intersectional risks and challenges faced by migrant workers, such as migrant women
(移民女性などの移住労働者が直面する特有の交差的リスクや課題について)
交差的リスクとして取り上げるべきものとしては、一時的労働移民制度の外国人労働者であり、かつ女性であることによる、女性技能実習生の妊娠・出産に関する問題がある。すなわち、妊娠・出産に対する厳しい制約、その結果としてのやむを得ない孤立出産や死産、また、その後の嬰児への対応に対する刑事犯罪化などがある。
日本政府は、長年こうした問題への取組みをせず放置してきたが、入管庁が2022年に受入れ機関への実地検査時に技能実習生から直接聴取する調査を初めて実施し、同年12月に公表した。
その調査結果によれば、監理団体や受入れ機関、送出し機関から「妊娠したら仕事を辞めてもらう」などの「不適正な発言」を受けたことがある技能実習生の割合は、26.5%に及んだ。そのうち73.8%が送出し機関からで、監理団体が14.9%、受入れ機関が11.3%であった。また、「妊娠したら仕事を辞める」などの内容の「不適正な契約」を締結させられていた技能実習生の割合は、5.2%であった。そのうち、70.3%が送出し機関で、監理団体が21.6%、受入れ機関が8.1%であった。
孤立出産が刑事犯罪として問題化されたケースは、2018年末頃からマスコミ等でも取り上げられるようになり、その翌年には国会でも問題とされるなどして、日本政府としても対応を迫られることとなった。妊娠・出産に対する制約が、労働法規に反することの周知もなされたが、容易には解決に結び付かなかった。2019年に孤立出産して生まれた嬰児を他人の住居に置いてきたケースでは、執行猶予付きの有罪判決が出された。他方、死産した嬰児を、寮の自室の棚に置いていたケースでは、最終的に最高裁で無罪判決が出された。
しかし、その後も類似したケースが犯罪とされ、裁判所での争いとなっているなど、技能実習生の妊娠・出産問題は継続している。
5. Positive practice examples of businesses upholding the rights of all migrant workers
(すべての移住労働者の権利を守るために行われている企業による良い取り組みの例)
日本でのビジネスと人権に関する取組みは、2010年代の後半から徐々に広がってきたが、しばらくの間、形だけの表面的な取組みにとどまり、あまり具体的な成果が感じられない状況であった。しかし、2020年代に入り、各企業や企業団体の取組みが深化してきており、実効性もみられるようになってきている。
帝人フロンティアグループのゼロフィー・プロジェクト
帝人フロンティア(株)は、2011年にCSR戦略プロジェクトを立ち上げ、CSR調達の推進を始めた。そして、2019年度からは、技能実習生が負担する高額な手数料の問題をなくすため、手数料を受入れ企業が負担するゼロフィー・プロジェクトをスタートさせた。それ以前にはグループ内各社がそれぞれで選定していた監理団体を、信頼のおける監理団体に一本化してゼロフィーを実現し、技能実習生には母国で手数料を支払っていないことについて文書で確認することとしている。
比較的小規模な企業グループではあるが、企業が主導してゼロフィーを実現していることは画期的なことである。
6. Positive practice examples from our organization’s work in safeguarding and promoting the rights of all migrant workers
(すべての移住労働者の権利保障のために自団体が行っている良い取り組みの例)
「移住者と連帯する全国ネットワーク(移住連)」は、外国人・外国人労働者の支援にあたる全国の団体・個人により1997年に設立されたNGOである。移住連を構成する団体・個人は、日常的な相談活動を継続しながら、必要に応じて交渉(あるいは労働組合による団体交渉)を行なったり、公的機関への同行などによる支援を行い、個別救済を実現している。また、外国人・外国人労働者向けに定期的に相談会を開催して、問題の掘り起こしをしているほか、そうした問題点を整理して制度改革に向け関係省庁との定期的な交渉を持ったり、国会議員等に働きかけて外国人・外国人労働者の権利や尊厳が保障される制度の確立を目指している。
7. Examples of policies and practices taken by Governments that have had an adverse impact or proved to be ineffective in relation to enhancing the protection of migrant workers’ rights, especially in a cross-border context?
(特に国境を越えた文脈で、移住労働者の権利保護を強化する上で効果的ではない、または、悪影響を与えている政府の取り組みや政策の例)
(1)強制帰国に対するチェック
技能実習生は、その正当な権利を主張したり、労働環境に不満を述べたりすると、「そんなことを言うなら、帰国してもらうぞ」と脅されたり、実際にその意に反して強制的に帰国させられてしまうことがある。
日本政府は、2017年に施行された技能実習法を定める際も、同法において強制帰国に関する規定を設けなかった。しかし、私たちNGOが国会議員に働きかけ、同法を審議する2016年の通常国会の法務委員会において強制帰国の問題を取り上げてもらった結果、技能実習の期間途中で帰国する技能実習生に対するチェックが同年9月から始まった。すなわち、帰国時に、多言語による「意思確認票」により、その意思に反する強制帰国であるかどうか、申告を受けることとしたのである。
しかし、年間1万数千人に及ぶ途中帰国者がいる中、毎年の申告件数は10数件(スタートから2023年までに計70件)にとどまり、あまり有効な強制帰国防止策となっていない。これは、技能実習生が強制帰国される場合に、監理団体などが「素直に帰国すれば、来日までの費用負担を大幅に減額する」と虚言を述べたり、送出し機関が母国の家族に圧力をかけたり、強制帰国を実施する監理団体などが本人に「自らの意思で帰国する」旨の文書にサインさせたりなど、様々な手段で申告を妨げているからである。しかし、入管庁は、これまで有効な対策を打てていない。
(2)実地検査の実態
外国人技能実習機構が実態把握のため行っている監理団体や受入れ機関に対する実地検査は、監理団体に年1回、受入れ機関に3年に1回という数値目標を実現しているが、その検査内容は不十分なことが多い。
技能実習制度では、技能移転による国際貢献を目的としているため、職種別に定めた必須業務を少なくとも技能実習時間の半分以上実施することを義務付けている。しかし、ほとんど必須業務を実施していないケースでもチェックできていないことがあるなど、現場でのチェックの甘さは否定できない。