入管法及び技能実習法の改定法施行に伴う政省令案及び告示案に対する意見
特定非営利活動法人 移住者と連帯する全国ネットワーク(移住連)
共同代表理事 大川昭博 鈴木江理子 鳥井一平
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私たち移住連は、2024年の通常国会で成立した育成就労法について、基本的に下記のとおり認識している。
転籍制限は、技能実習生の権利主張を抑制することにつながるため、奴隷労働と言われる大きな要素ともなってきた。
育成就労では、一定の要件があれば本人意向による転籍が認められることとなった。しかし、1年以上2年以下の範囲内で転籍制限がかかること、技能や日本語能力が一定の水準に達する必要があることなど、他の労働者にはないさまざまな制約が課されている。そのため、育成就労外国人における「転職の自由」の保障はまったく不十分なものとなってしまった。
また、技能実習制度においては、手数料等により多額の債務負担をすることが多く、債務奴隷とも言われる事態を生み出してきた。この点、育成就労では、「送出機関に支払った費用の額が……主務省令で定める基準に適合していること」とされ、法的に債務負担を許容するものとなっている。これは、明らかにILO第181号条約に反することと言わざるを得ない。
さらに、受入れ機関によるさまざまな費用負担を転籍先が分担する制度も採り入れられる。これでは、費用分担を通じて、結果的に労働者を売買するというにも等しい事態を招いてしまう。
以下では、政省令案及び告示案に関連して、入管法及び技能実習法の改定法施行に伴う「法務省・厚生労働省関係省令の整備及び経過措置に関する省令案」の「別紙」を中心に意見を述べる。
15 送出し機関に支払った費用の額の基準(「別紙」第2 育成就労計画に係る規定の整備、以下同じ)
技能実習生は来日までに手数料、事前研修費、渡航費などの名目で多額の債務を負担することが多く、技能実習制度において債務奴隷とも言うべき事態を生み出す最大の要因となっている。
この点について、育成就労法では第9条1項11号においては、「送出機関に支払った費用の額が……主務省令で定める基準に適合していること」とされている。
しかし、送出し国側において送出し機関にたどり着く前に、ブローカー的な機関が関与することも多い実情を考えると、これらが規制の対象とならない点をどうするのか見通せなければ、送出し機関への規制だけで多額の債務問題が解決することにはならない。したがって、主務省令の射程範囲内で、どこまで効果的な対応ができるか、おぼつかないと言えよう。送出し機関以外の関係機関への支払いについてどのように対応するのか、さらなる検討が求められる。
今回パブコメに付されている施行規則案では、「育成就労計画に記載された報酬の月額に2を乗じて得た額を超えないこと」としている。他方、日本は1999年にILO第181号条約(民間職業仲介事業所条約)を批准しており、同条約第7条1項では「民間職業仲介事業所は、労働者からいかなる手数料又は経費についてもその全部又は一部を直接又は間接に徴収してはならない」とされている。
したがって、かかる規定を設けることは、明確にILO第181号条約に反する事態を許容するものと言わざるを得ない。あくまで労働者から手数料等を徴収することは、許されないものとすべきである。
22 法9条の2第4号ハの主務省令で定める基準
(1)ア 転籍者の割合が、育成就労外国人の総数の「3分の1を超えることとならな
いこと」
労働条件や就労環境が良い受入れ機関に人気が集まる場合、それは育成就労の制度趣旨に適合した受入れ機関でもある。したがって、受入れ機関ごとの受入れ人数枠(13 育成就労外国人の数)による限界付けにとどめ、転籍者の割合そのものを限定する必要はない。
(1)イ 都市部の場合、非都市部(指定区域)からの転籍者の「占める割合が6分の
1を超えることとならないこと」
技能実習生は地方の足の便もよくない地域に所在することも多いことを考えると、育成就労外国人についても都市部以外において就労するケースが多いことを想定する必要もあろう。そうした場合、転籍先の都市部の受入れに焦点を当てるばかりでなく、転籍元の都市部以外の育成就労外国人数をも考慮要素に加えるべきではないか。すなわち、都市部以外の育成就労外国人がかなり多い場合には、都市部での転籍受入れ可能数があまりに限定されることは、転籍の自由が実質的に制約を受けることとなりかねない。
したがって、受入れ機関ごとの受入れ人数枠による限界付けにとどめ、非都市部からの転籍者の割合そのものを限定する必要はないものと考える。
この点に関連して、育成就労法「施行規則の施行に伴う法務省・厚生労働省告示案について(概要)」において、都市部に該当するかどうかが、市町村ごとに指定されている。しかし、このような指定方法は、労働者にとってはもちろんのこと、事業者にとっても混乱を招く危険性がある。
そもそも労働力が「都市部」に流出すること自体が、客観的に立証されていない現時点においては、このような告示を定めるべきではなく、さらなる議論を深めるべきである。仮に定めるとしても、本告示案のように、市町村ごとの指定をするべきではない。
(6)転籍する「育成就労外国人の取次ぎ及び育成就労に係る費用として法務大臣及び厚生労働大臣が告示で定める額に6分の5(1年6月以上2年未満の場合にあっては3分の2、2年以上2年6月未満の場合にあっては2分の1、2年6月以上の場合にあっては4分の1)を乗じて得た額を」転籍元の「育成就労実施者に支払うこととしていること」
かかる取次ぎ及び育成就労に係る費用の分担は、結果的に労働者を売買するというにも等しくなってしまい、極めて不当な事態を招いてしまうことになる。そもそもこの制度以外で働く外国人労働者や日本人労働者の場合には、どのようなタイミングで転籍しても転籍先がかかる負担をすることは一切ない。育成就労において、こうした費用の分担を認めることになれば、その悪影響は大きい。かかる費用分担は、やめるべきである。
*その他
<転籍制限の継続期間について>
転籍制限の継続期間については、2023年11月の有識者会議の最終報告書においては、基本的に「期間が1年を超えていること」とした上で、「当分の間、受入れ対象分野によっては1年を超える期間を設定することを認めるなど、必要な経過措置を設けることを検討する」としている。あくまで新たな制度への移行期間に「必要な経過措置」として設けるものであり、1年を超える期間が継続することは想定されていない。
また、2024年2月の関係閣僚会議決定では、「1年を目指しつつ」「当分の間」という限定も付されていたが、育成就労法には何らの規定もない。一応、国会答弁でも「政府方針(関係閣僚会議決定)に従って対応してまいりたい」とはされているものの、具体的にどのように「1年を目指」すこととするかは明らかでない。また、「当分の間」についても、国会答弁では「制度施行後の人材育成や転籍に係る制度の運用状況等を踏まえて、見直しの要否を判断する必要があると考えております」というものにとどまり、定かな方向性はみえない。
そもそも労働基準法第137条においては、「期間の定めのある労働契約を締結した労働者は、……民法第628条の規定にかかわらず、当該労働契約の期間の初日から1年を経過した日以後においては、その使用者に申し出ることにより、いつでも退職することができる」とされている。この趣旨を踏まえるならば、1年を超える労働契約の継続を強制することは許されることではない。
以上