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玉木雄一郎(国民民主党)@tamakiyuichiro Feb 15
「今朝のウェークアップでも指摘しましたが、外国人やその扶養家族が、わずか90日の滞在で数千万円相当の高額療養費制度を受けられる現在の仕組みは、より厳格な適用となるよう、制度を見直すべきです。」
https://x.com/tamakiyuichiro/status/1890615567171637460
読売テレビニュース【ウェークアップ】
【激論・高額療養費制度】長妻昭×玉木雄一郎 日本の医療保険制度をどう維持していく?
https://www.ytv.co.jp/wakeup/
国民民主党玉木雄一郎代表(役職停止中)は、2025年2月15日までに自身のX(旧ツイッター)を更新し、「今朝のウェークアップでも指摘しましたが、外国人やその扶養家族が、わずか90日の滞在で数千万円相当の高額療養費制度を受けられる現在の仕組みは、より厳格な適用となるよう、制度を見直すべきです。」「現役世代が苦労して支払う社会保険料は、原則、日本人の病気や怪我のために使われるべきです。」と主張しました。
この投稿は、玉木氏が2025年2月15日の日本テレビ系『ウェークアップ』(土曜午前8時)に出演したときの発言が基になっています。この番組は、玉木氏と立憲民主党代表代行である長妻昭衆議院議員との対談という形で行われています。両者には政府案に対するスタンスの違いはあるものの、高額医療費が増加している原因は、薬剤費の高騰や入院期間の長期化にあること、今の保険料負担のしくみが資産を考慮しないため、富裕層に有利な仕組みが温存されている、という見解ではおおむね一致しています。長妻氏が、保険料に保有資産額を反映させる仕組みを作ることや、累進課税の強化によって財源を生み出すことを提案しているのに対し、玉木氏は「『103万の壁』を178万円までに上げるなど、保険料負担と税負担をセットで考えていくことが必要。インフレの中で働いている方の手取りを増やす政策をセットでやっていくことが、痛みを和らげる上でも必要」と主張しています。
ところがこの直後に、玉木氏のとんでもない発言が飛び出してきます。「多少改善されましたが、3カ月日本にいれば外国人でもこの高額療養費制度が使えます。外国人の扶養家族もですね。こういったところは一定の見直しが行われて来ましたけれども、じゃあ数万円を払ったら1億6000万円の治療を受けられるというのはね、私は日本の納税者の、あるいは社会保険料を払っている人の感覚からすれば、どうなんだと。そういうところの踏み込んだ見直しも必要」という発言です。日本の健康保険財政危機の原因が、あたかも外国人の保険制度利用にあるかのような印象を植え付ける差別的、排外主義的な発言です。
■「90日間日本にいれば、高額療養費制度が使えてしまう」のではない。
そこで、玉木氏の投稿にある「外国人やその扶養家族が、わずか90日の滞在で数千万円相当の高額療養費制度を受けられる現在の仕組みは、より厳格な適用となるよう、制度を見直すべきです。」という主張から検証してみます。
まず、「90日間日本にいれば、高額療養費制度が使えてしまう」という主張についてです。
健康保険(被用者保険)のしくみについて見てみましょう。外国人の場合、日本人と同じく健康保険適用事業所に雇用されていれば対象となります。適用事業者であれば、従業員を健康保険に加入させる義務が生じ、保険料は労使折半で負担します。滞在期間実績は一切関係ありません。
国民健康保険はどうでしょうか。外国人に対する国保資格は、①住民基本台帳に登載される3か月を超える在留資格を有する者、➁在留期間が3か月以内の興行、技能実習、家族滞在、特定活動資格については、活動の内容を証明する資料により3か月を超えて在留すると認められるもの、③すでに国民健康保険資格を有している者であって、3か月以下の在留資格となっているもの、と定められています。なお、医療ツーリズム利用者に付与される特定活動(いわゆる「医療滞在ビザ」)は、国民健康保険資格の対象から除外されています。(国民健康保険法施行規則第1条、平成24年〔2012年〕1月20日厚労省告示第23号)
いかがでしょうか。玉木氏が言うところの「わずか90日の滞在」実績をもって、健康保険資格が得られる、というわけではないのです。健康保険、国民健康保険ともに、国内で雇用関係にある、あるいは一定期間在留する見込みのある外国人は、「入国の時点」で加入手続きを行い、保険料(税)を納める義務が発生する仕組みとなっています。言い方を変えれば、入国時点で3か月を超える在留資格があれば、結果として何カ月あるいは何年在留するかしないか、に関わらず、あるいは病気になるかならないか、に関わらず、外国人にも保険料を納付する義務が発生する仕組みになっています。これは、「逆選択(病気になってから保険に加入すること)」を防止するとともに、国家が国内の居住者をすべからくカバーし、保険料を強制的に徴収するために不可欠なしくみです。その対極で、保険料を払わせておきながら、在留期間が短いことをもって被保険者への給付サービスを保険者が切り下げることも、公的医療保険の原則に反する行為です。
玉木氏は『ウェークアップ』の場でも、「多少改善されましたが、3カ月日本にいれば外国人でも扶養家族も、この制度を使えます」と主張しており、不勉強ぶりを露呈しています。「改善」を求めるのであれば、そして国政政党の代表であれば、公的保険制度の仕組みをよく調べてから、発言してほしいと思います。
■外国人の制度利用が保険財政を圧迫している、というデータはない。
もう一つ指摘したいのは、短期間の滞在(少ない保険料納付実績)で、「数千万円相当(『ウェークアップ』では1億6000万円)の高額療養費制度を受けられる現在の仕組み」という発想です。
玉木氏は、「外国人やその扶養家族が、わずか90日の滞在で数千万円相当の高額療養費制度を受けられる現在の仕組みは、より厳格な適用となるよう、制度を見直すべきです。」としています。しかし入国して90日程度の間に高額な医療費を有する病気となる外国人が、一体どれだけいるというのでしょうか。「数千万円相当」という表現にも、現実離れした誇張が含まれています。おそらく、長期の治療を必要としているがん患者の医療費の例を通算した額を、単純にここに持ってきただけなのでしょう。実に悪質な印象操作です。
そもそも、健康保険制度における医療の給付は、保険料の対価ではありません。皆保険制度は、社会の構成員すべてから、国家が強制的に保険料を徴収し、医療を必要とする人たちの費用に充てる、という「再配分」のしくみで運営されています。負担の「公平性」は所得に応じた保険料の設定によって担保されます。払った保険料の額や期間に給付内容が左右されるものではありません。公的な保険制度の根幹を踏まえることなく、「不公平感」を演出する主張は、「アンフェア」のそしりを免れないと思います。
現実問題として、外国人の高額療養費制度利用が保険財政を圧迫している、という事実やデータは、まったくといっていいほど存在していません。また、高額療養費制度を利用するため在留資格を偽って入国した外国人の事例は過去に1件も確認されていないことを、厚生労働省が認めています。
国内の移民・難民を支援するNGOは、重篤な病気になり、高額な医療費を背負わされている外国人を多数支援しています。そのほとんどが数年間にわたり国内で居住し、健康を害した人ばかりです。経済的理由から適切な医療を受けられず、重篤化したケースも多く報告されています。このような実態に即していうならば、かりに国内居住期間の短い外国人を、高額医療費制度から排除したところで、日本の医療保険財政の悪化にはつながりません。むしろ、高額療養費の給付から排除されることにより、医療費を支払えない患者がさらに増え、医療機関に多額の未払いが残る、つまり負担が他に転嫁されるだけです。そして、医療機関による外国人の診療拒否がさらに増えるでしょう。そんなすさんだ社会の実現を、玉木氏は望んでいるのでしょうか。
なお、「多少改善されましたが、3カ月日本にいれば外国人でも扶養家族も、この制度を使えます」という主張の中にある、「多少改善されましたが」というくだりについて少し補足しておきます。
「多少の改善」とは、2020年の健康保険法改正により、被扶養者の国内居住要件を定めたことと、2019年から厚労省がはじめた、「不適切な在留資格の取得」によって、高額医療費や出産一時金の請求をする外国人の情報を、厚労省を介して入管に通知する、という制度のことを指していると思われます。しかしこれらの制度自体が、日本に来た外国人が出身国に在住する家族親族を健康保険の被扶養者にしてしまう、あるいは、書類の偽造などにより国保に入れる在留資格を得て、高額療養費等を請求する、という数年前に流布されたフェイクニュースに踊らされて創設されたものです。健康保険被扶養者の国内居住要件を定めた効果は何一つ実証されていませんし(もともとあり得ない想定なのですから、当然と言えば当然ですが…)、国保の通知制度においても、これにより国保資格や在留資格が取り消されたケースは、現在に至るまで1件も発生していません。こんな無意味な「改善」を、「成果」のように述べる態度は、怒りを通り越してあきれるばかりです。
■外国人が苦労して支払う社会保険料を、日本人のために使え!とは…
ここまで玉木氏の主張が、いかに今の制度を理解していない、あるいは曲解していることを指摘してきました。しかし私たちがそれ以上に見過ごせないのは、「数万円を払ったら1億6000万円の(高額薬の)治療を受けられるというのは、日本の納税者の、社会保険料を払っている人の感覚からすれば、どうなんだと。そういうところの踏み込んだ見直しも必要」、そして「現役世代が苦労して支払う社会保険料は、原則、日本人の病気や怪我のために使われるべきです。」という主張です。
まず、玉木氏が言うところの「現役世代」の中には、外国人も数多く含まれています。そして外国人は「納税者」でもあります。日本人と同じく公共サービスを受ける権利を有するのは当たりまえのことです。税金だけ取って、公共サービスの利用を制限したら、外国人から税金を取る理由がなくなります。その結果税収が減り、国家財政に悪影響を及ぼします。また制度や公共サービスから排除された人の貧困や生活困窮が拡大し、さまざまな社会問題を引き起こす結果となります。生命にかかわる健康保険制度においてはなおさらです。それがゆえに、国際人権規約では、社会保障制度の内外人平等が定められているのです。1981年に日本は難民条約に加入し、1986年までに生活保護を除くすべての社会保障制度の国籍要件を撤廃しました。ゆえに、玉木氏の主張にある国籍や在留の在り方を理由に社会保障の権利をはく奪するやり口は、国際的なルールに反します。それとも玉木氏は、国際人権規約や難民条約を破棄する「覚悟」があって、こういう発言を行ったのでしょうか。そして、玉木氏の言う通りの「政策」が実現し、外国人が苦労して支払う社会保険料が、原則、日本人の病気や怪我のために使われることになったとしたら、日本に住む外国人の人は、いったいどう思うのでしょうか。
■外国人への反感をあおり、市民の賛同を得ようとする態度を私たちは許さない。
番組を通して見た限り、『ウェークアップ』で玉木氏が主張したかったのは、「いまは現役世代の保険料を下げる努力が必要である。そのためには一定の負担能力がある人には負担をお願いすることが政治の責任である。その一方で、「103万円の壁」を178万円までに引き上げ、現役世代の税負担を軽減することによって、税負担と高額療養費の負担のバランスをとることができる。」ということであったのではないかと思います。
しかしこの主張の後に続く、「数万円を払ったら1億6000万円の(高額薬の)治療を受けられるというのは、日本の納税者の、社会保険料を払っている人の感覚からすれば、どうなんだ」という主張はあまりに唐突かつ乱暴です。そもそも、税負担と高額療養費の負担のバランスをとることと、外国人の制度利用を制限することとの間に、いったい何の関係があるというのでしょうか。繰り返しになりますが、外国人による健康保険制度の利用が保険財政を圧迫しているという事実もデータも存在していません。高額療養費、現役世代の負担増の問題を、「入国90日たてば高額療養費制度が使える」という誤った認識にすりかえ、何の解決にもならない外国人排除、外国人の制度利用を否定するかのような言説をテレビ番組で言い放つのみならず、ご丁寧にもその部分だけをSNSで強調して、外国人への反感をあおることによって、市民からの賛同を得ようとする姿勢、そして何よりも「現役世代」である外国人も払っている社会保険料を、日本人のためだけに使うという発想、これを排外主義、そして差別と言わずして何と言ったらよいのでしょうか。
私たち移住連は、今回のウェークアップでの発言に対する玉木氏の謝罪を強く求めます。
そして玉木氏自身が、国内に住む外国人への差別を助長し、社会の分断を招くX(旧:ツイッター)の投稿を削除することを求めます。