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2024.10.04 声明・意見

【団体賛同72】国際人権条約に違反する「永住資格取消制度」を廃止すべきである ~人種差別撤廃委員会への日本政府回答書の欺瞞~

72団体から賛同をいただきました!

この声明への賛同を呼びかけたところ、72団体から賛同をいただきました。
11月5日付で、団体賛同とともに法務大臣へ再度声明を提出いたしました。

国連人種差別撤廃委員会(CERD)から日本政府に提出された「永住資格取消制度」に関する書簡に対し、日本政府は9月25日に回答を発表しました。これをうけ、本日10月4日、NPO法人移住者と連帯する全国ネットワークは下記の声明を出しました。

国連人種差別撤廃委員会から日本政府へ出された書簡本文、日本政府からの回答本文は、下記をご参照ください。
永住許可取消し制度について、国連人種差別撤廃委員会(CERD)から日本政府に対して、見直し・廃止を含む緊急措置を求める書簡が出されました!
https://migrants.jp/news/office/0701.html

法務省HP:人種差別撤廃委員会からの情報提供要請に対する日本政府の回答について(令和6年9月25日)
https://www.moj.go.jp/isa/03_00096.html 



国際人権条約に違反する「永住資格取消制度」を廃止すべきである
~人種差別撤廃委員会への日本政府回答書の欺瞞~


●人種差別撤廃委員会の懸念と是正勧告、それに対する日本政府回答の齟齬

「在留カードの常時携帯義務を履行しないなど入管法に違反した時/ 税金や社会保険料を滞納した時/ 軽微な法令違反をした時、永住資格が取り消される。これは、永住者の日本での安定した生活基盤を奪うことになる。永住者の数は891,569人で在日外国人の約26%であり、永住資格取り消しの潜在的な対象の人数規模はかなり大きい。永住者の人権、とりわけ人種差別撤廃条約の下で保護される諸権利に及ぼしうる不均衡な影響を憂慮する。委員会は締約国に対し、8月2日までに、改定内容の見直し、または廃止するためにとられた措置に関する情報を含む回答を提示するよう要請する」(人種差別撤廃委員会の書簡要約)

 今年4月、私たち移住連は、国連の人種差別撤廃委員会(以下「委員会」)にあてて「早期警戒・緊急アクション手続き」によって、永住取消法案の問題点と危険性について通報した。それを受けて委員会は、追加情報を移住連に求めるなど熟議して、6月25日、日本政府に上記の書簡を送った。

 これに対して日本政府は9月25日、回答書を国連の人権理事会事務局に送った。

 しかしこの回答書では、永住資格取消制度の核心的問題にはいっさい触れず、「人種差別撤廃条約の下で保護される永住外国人の権利に不均衡な影響を及ぼすものではない」として、新制度の表面的な説明に終始している。

 

●根拠薄弱な立法事実と立法目的

 政府回答書で立法事実として唯一挙げているのは、「現状、一部の永住者において、永住許可後に公的義務を適正に履行しない場合がある」という箇所だけである(回答書4-2)。つまり、「公租公課の支払能力があるのにあえて支払をしない」「入管法上の義務を遵守しない」永住者の数や割合を、いっさい示していない。政府としてはそれを具体的に示すことができないほど、それがごく「一部」だからである。

それは衆・参法務委員会の法案審議でも明らかである。法務省が公租公課の未納について全国1,741自治体のうちヒヤリングをした自治体はわずか7自治体である。また法務省答弁では、永住者の親が実子の永住許可申請をしたケース1,825件(2023年1月~6月)のうち、住民税未納や国民健康保険未納、国民年金未納の件数を出したが、いずれも永住資格を取り消すほどの数値ではなく、永住取消条項をわざわざ設ける根拠とはなり得ないものであった。

 また政府回答書は、立法目的として「現行の入管法においては、永住許可後に在留審査をする手続がないため、そのような[公的義務を適正に履行しない]永住者に対して適切な在留管理を行うことができない」から、としている(回答書4-2)。そして、永住者であっても「外国人である以上……在留資格の取消や退去強制手続等の入管法による在留管理の対象」だとしている(回答書4-1)。

 しかし、日本がすでに加盟している国際人権規約や人種差別撤廃条約において、その条約実施監視機関である各委員会は、外国人の法的地位と権利についてその解釈基準を次のように明示している。

≪各締約国は自由権規約上の権利を 「その領域内にあり、かつ、その管轄の下にあるすべての個人」 に対して確保しなければならない。……規約で定められた権利は、相互性とかかわりなく、かつ、その国籍または無国籍にかかわりなく、すべての人に適用される。したがって、規約の各々の権利が市民と外国人との間で差別されることなく保障されなければならない。……規約は、その保障する権利に関しすべての保護を外国人に与えており、締約国は、その要求を法令および実行において適切に遵守すべきである≫(自由権規約委員会「一般的意見15」)。

≪人種差別に対する立法上の保障が、出入国管理法令上の地位にかかわりなく、市民でない者[外国人]に適用されることを確保すること、および立法の実施が市民でない者に差別的な効果をもつことがないよう確保すること≫(人種差別撤廃委員会「一般的勧告30」)。

 したがって「入管法上の在留管理」も、これらの国際人権基準によって制約されるのであり、本来は条約加入時に、入管法をはじめとする外国人法制度が抜本的に改正されなければならなかったのである。それどころか、政府は、外国人に対する加重罰となりかねない永住資格取り消しを盛り込んだ改悪を行ったのである。それに対して、人種差別撤廃委員会は、人種差別撤廃条約および同委員会が採択した一般的勧告30の「法律の施行が市民でない者に対して差別的な影響を及ぼさないこと」(パラ7)などに基づき、見直しの可能性を問いかけたのである。

 しかし、政府の回答は、冒頭から「人種差別にあたらない」と反駁し、あたかも入管法が国際人権基準より上位に位置しているかのように、改定内容の「正当性」を強弁している。

 このように政府回答書は、永住取消制度改定の立法目的も立法事実も根拠薄弱のうえ、立法過程についても、意図的に言及していない。すなわち、現在89万人となる永住者およびその家族からのヒヤリングも一切なく、諸外国における永住資格付与後の取消制度も示すことなく法案が作成されたのである。おそらく政府は、諸外国の同制度を数年かけて調査したものの、公租公課未納で永住資格を取り消す制度をもつような国を見つけられなかったのであろう。

 

●法務省・入管庁の自由裁量のもとでの“適切な運用”という欺瞞

 政府回答書では、「在留カードの携帯や有効期間の更新を単に失念した場合」や「病気や失業など、本人に帰責性があるとは認めがたく、やむを得ず公租公課の支払ができないような場合」は、永住資格が取り消されることはない、としている(回答書3―2、3)。しかし改定条文には、「正当な理由がある場合は除く」という例外規定がまったくない。現行の入管法の在留取消条項には、この例外規定が置かれているのにかかわらず、である。つまり永住資格を取り消すかどうか、すべて法務省・入管庁の判断、自由裁量にかかっているのである。

 また政府回答書は、「仮に在留資格の取消事由に該当する場合であっても、直ちに『永住者』の在留資格を取り消して出国させるのではなく、原則として『定住者』等の在留資格に変更し、引き続き安定的に我が国に在留させる」としている(回答書3―5)。しかしここでも、改定条文には「原則として……」の規定が全くなされていない。したがって、「定住者」などの在留資格変更にするのか、国外退去を迫るのか、すべて法務省・入管庁の自由裁量による運用次第なのである。そして政府回答書には、法律ではなく「政府の自由裁量による運用」について一言も触れていない。

 さらに政府回答書は、公租公課未納に対する国家公務員や地方公務員の通報について、条文上は「通報することができる」と規定し、「報告を義務付ける制度とはしていない」としている(回答書3―6)。だが、すでに現行法では、退去強制にかかわる違反行為を発見した時の公務員の通報義務を定めていて、その運用においては「通報義務を履行すると当該行政機関に課せられている行政目的が達成できないような例外的な場合には……通報するかどうかを個別に判断する」という例外規定が置かれている(2003年11月17日入管局長通達)。それにもかかわらず、退去強制事案だけではなく、公租公課未納まで拡大して公務員に通報させることは、本末転倒である。なぜなら、国税庁も年金機構も地方自治体も、滞納者を通報することが業務ではないからである。本来の業務とは、倒産・解雇・大病などで国民健康保険料を払えなくなった永住者に対しては、これまでと同様に「保険料の減免措置」を、国民年金では「年金保険料免除制度」を適用することなのである。

 したがって、永住取消条項を拡げたこと、さらに公務員による未納者通報まで設けたこと自体、悪意に満ちた立法であり、人種差別撤廃委員会が指摘するように「国際人権条約の下で保護されるべき永住者の諸権利」を侵害するものである。

 

●日本政府と国会がすべきこと

 政府回答書の最後は、「永住者の置かれている状況に十分配慮する」旨の条文の一部修正、「永住者の利益を不当に侵害することのないよう……特に慎重な運用に努める」という国会での附帯決議を引用し、人種差別撤廃委員会の懸念について「既に適切な措置がとられている」と結んでいる。

 しかし、これまで見てきたように政府回答書は、委員会の懸念と是正勧告に何一つ答えていない。

 この改定法の実施は3年以内、つまり2027年6月21日までに施行するとなっている。政府および国会は、改定法、とりわけ今回増設した永住資格取消条項をただちに廃止すべきである。

 そして国会は、2009年改定入管法の際、与野党が一致して、附則第60条第3項「永住者の在留資格をもって在留する外国人のうち特に我が国への定着性の高い者について、歴史的背景を踏まえつつ、その者の本邦における生活の安定に資するとの観点から、その在留管理の在り方を検討するものとする」と追加し、さらに参議院では附帯決議で「永住者の在留カードの常時携帯義務およびその義務違反に対する刑事罰の在り方、在留カードの更新等の手続き、再入国許可制度等を含め、在留管理全般について、広範な検討をおこなう」としたのである。したがって、永住者の在留資格の安定化こそがいま求められているのである。

2024年10月4日
NPO法人 移住者と連帯する全国ネットワーク(移住連)

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