昨年9月に移住連が発出した抗議声明(クリックすると抗議声明本文にとびます)に対し、12月13日に週刊現代担当部署から添付の通り回答が移住連事務局に届きました(回答の公表は週刊現代から了承をいただいています)。
移住連は、週刊現代からの回答を受け、1月24日に下記の通り見解を公表いたしました。
去る2024年9月10日、移住連は『現代ビジネス』9月4日に配信された記事に対し、抗議文を送付しました。
この抗議に対し、2024年12月13日、同記事を配信した株式会社講談社から、伊東陽平編集長名において、移住連あて「回答書」が返送されました。
回答書は、指摘を受けた記事がシンクタンクの調査レポートと介護問題に詳しいジャーナリストへの取材などに基づき「現行の介護保険制度が抱える問題点を指摘することを主眼に置いた」もので、「特定の外国人の文化や生活を問題視するものではない」と断りつつ、根拠とするデータの取り扱いに不適切な部分があったこと、記事のタイトルや見出しにも行き過ぎた表現があった、としています。
また、制度を利用する外国人が悪いのではなく、あくまでも制度が抱える問題を伝えることを目的としていたが、「結果として誤解を招く表現になった」ことへの謝罪の意が述べられています。
なお、該当記事についてどのような対応をとったのか、については明記がありませんでしたので、移住連側で確認したところ、記事自体がすでに削除されていました。
『現代ビジネス』記事の発行元である講談社が、今回の記事が不適切であったことをはっきりと認め、謝罪の意を示したこと自体は率直に評価し、その意思を正面から受け止めていきたいと考えています。
その一方で、今回記事の回答書を見る限り、講談社側が問題の認識を「データの取り扱いに不適切な部分があった」、あるいは「記事のタイトルや見出しにも行き過ぎた表現があった」というところにとどまっていることに、私たちは危うさを感じています。
問題の本質をとらえないことにより、差別は再び繰り返されます。今回の謝罪表明を受け、なぜこのような記事が書かれたのか、また、記事を書いた側の姿勢のどこに問題があったのか、について改めて指摘しておきたいと思います。
「現行の介護保険制度が抱える問題点を指摘することを主眼に置いた」はずの記事が、なぜこんな差別的な内容になったのか、その理由は以下の2点にあると考えます。
1. 「外国人に付け入るスキを与える」という問題設定により、介護保険制度の諸問題を単純化していること。
少子高齢化が進むいま、介護保険制度のあり方については、様々な問題が指摘されていることは事実です。しかし今回記事においては、現行介護保険制度のさまざまな現実や課題を一切無視し、問題の所在を外国人の制度利用に単純化し、しかも「外国人に付け入るスキを与える」という、何の根拠もない言説にこじつけようとしています。
読み手に「外国人は悪者」という考えを植え付けることは、現状の不満への「うっぷん晴らし」にしかなりません。そして、「制度が抱える問題点を指摘する」どころか、問題の本質から目をそらし、社会の分断という最悪の結果をもたらします。介護保険制度の持つ様々な課題に真摯に向き合うことなく、その原因を外国人の存在に単純化して記事を書けば、「特定の人(外国人)の文化や生活を問題視する」結果となるのは、むしろ当然の帰結である、とも言えます。
2. 「利用者バッシング」の手法を用いて、制度の問題点を指摘していること。
今回の記事は、「利用者バッシング」の手法を用いて構成されています。「これまで納税や保険料の支払いが十分でない外国人が少ない滞在期間で高額な介護保険サービスを受けられてしまう。」等の表現がそのことを物語っています。
バッシングは「相手をたたきのめす」「相手の存在を否定する」といった性質を持つ手法です。バッシングは「特定の層」をターゲットに行われることが常ですが、その「特定の層」も含め、ほとんどの人がまっとうに制度を利用している事実が隠され、事実と異なる情報と偏見だけが拡大していきます。
もちろんどんな制度にも改善すべき課題はあります。しかし制度利用者のバッシングで制度が改善された例はありません。むしろバッシングは制度利用者全体の「利用抑制」を生み出し、あるいは現在制度を利用している人たちのスティグマ(恥の烙印)を助長していきます。そのことは、いわゆる「生活保護受給者バッシング」の例を見ても明らかです。
今回、回答書は以下のように表明しています。
「弊誌は、社会におけるいかなる差別に対しても断固反対の立場であることは言うまでもありません。また、多様性は絶対に尊重されなければならず、同時に社会が分断されることも決してあってはならないと考えております。」
このスタンスは、移住連も基本的には同じです。そして、『現代ビジネス』に限らず、すべてのメディアがマイノリティーや人権の課題を語るとき、これと同じ視点に立って報道がなされることを、私たちは願っています。
そして、メディアの報道が社会の分断を引き起こさないためにも、個人をたたくことにより制度の問題を語る手法は、(記事としては売れるかもしれませんが)メディアとしては、もうやめにしていただきたい、と思っています。
「外国人」―移民・難民の国内在住期間の長期が進む中で、高齢化も加速しています。移民・難民も、介護制度のユーザーであり、かつ担い手でもあります。偏狭なナショナリズムに駆られて、移民難民の制度利用を敵視し排除するのではなく、介護保険も含めた公的介護制度を、移民難民を含めた社会全体の構成員が支えていく、そして、だれ一人取り残さない制度となるよう知恵を出し合い、力を尽くしていく、それが市民社会の使命である、と私たちは考えています。
2024年9月10日
移住連は、9月4日付の週刊現代の記事(下記の<該当記事>)について抗議声明を発表し、週刊現代編集部へ送付しました。<該当記事> ※2025年1月24日更新:下記該当記事は週刊現代によりすでに削除され閲覧ができなくなっています。
週刊現代2024.9.4
日本の介護保険がおいし過ぎる!「外国人“タダ乗り”」がとうとう介護保険サービスにも…いま増えている外国人利用者「日本語が全く話せない人も」
https://gendai.media/articles/-/136655
「このままでは日本が「中国人高齢者の“姥捨て山”に」…!海外の介護難民が日本に押し寄せる、介護保険の外国人「タダ乗り問題」の闇」
2024.9.10 特定非営利活動法人 移住者と連帯する全国ネットワーク
国内の大手週刊誌である『週刊現代』は、2024.9.4のネット記事(『現代ビジネス』)において「日本の介護保険がおいし過ぎる!「外国人“タダ乗り”」がとうとう介護保険サービスにも…いま増えている外国人利用者「日本語が全く話せない人も」、「このままでは日本が「中国人高齢者の“姥捨て山”に」…!海外の介護難民が日本に押し寄せる、介護保険の外国人「タダ乗り問題」の闇」という、二つの無署名記事を掲載しました。
この記事は、「これまで納税や保険料の支払いが十分でない外国人が少ない滞在期間で高額な介護保険サービスを受けられてしまう。」とし、保育制度にも同様の問題があるとして、外国人に「付け入るスキを与える」制度に問題がある、という内容ですが、その大半が事実に基づかない、あるいは事実を曲解したフェイク記事であり、差別を拡散しかねないものとなっています。なお、主に中国人を誹謗中傷の標的にしているところも特徴です。
記事では、2024年4月に行われた三菱UFJリサーチ&コンサルティングによる『外国人高齢者の「助けて」に寄り添う~「外国人高齢者に関する調査」報告書~』(以下「調査レポート」とします)を引き合いにして、「渋谷区の少数の事例ではあるが、外国人利用者の約半数が中国人・台湾人で、これは高齢者の国籍別の割合16%より多い比率だ。しかも外国人利用者の1/3以上が日本語での意思疎通が全くできない人だという。日本での在留期間が短い人がいることも示唆される。」としています。
しかし、渋谷区で中国、台湾籍の介護保険利用者が多いからといって、それが全国的な傾向であるとは限りません。国籍の分布は地域によって違いがあり、2021年に愛知県が行った外国人高齢者に関する調査では、介護事業所を利用している外国人高齢者の国籍(事業所件数)は、ブラジルが32%とトップで、中国はその次(31%)となっています。少なくとも「調査レポート」における特定の地域の介護保険利用者の国籍数のみをもって「中国人が介護保険のただ乗りを狙っている」ということの証明にはならないはずです。
同じことは「日本語での意思疎通」にも言えます。日本語の習得状況は、その方の置かれている様々な環境に影響されるものであり、在留期間の長短だけで決まるものではありません。「調査レポート」においても、「言語に関する問題」として、「元々日本語を話せた人であっても、日本人コミュニティとの接点の少なさや認知機能の低下等を背景として、日本語によるコミュニケーションが難しくなることがある。と指摘しています。滞日期間については「日本に長年住んでいた」が 15 人(78.9%)であるのに対し、「日本に来て間もなかった」は 3 人(15.8%)であることが示されています。
この記事は、調査レポートにおける都合の悪い記述やデータを完全に無視しています。少なくとも、外国人利用者の1/3以上が日本語での意思疎通が「全くできない人」という結果のみをもって、在留期間が短い人がいることも「示唆される」とし、「中国人による介護保険の悪用」をイメージづけるやり口は、「調査レポート」本来の趣旨や成果を踏みにじるものであり、意図的な曲解であると断じて差し支えないと考えます。
「日本語が話せない人は在留期間が短い人が多い」という理屈(こじつけ)は、そのあと以下のように展開されます。
「問題は、これまで納税や保険料や税金の支払いが十分でない外国人が少ない滞在期間で高額な介護サービスを受けられてしまう点だ。」
「高齢になって健康や介護にリスクを抱える外国人による、“狙い撃ち利用”は、問題ない時にお金を貯め、万が一に備える「保険」の意味を成さず、公的保険制度の根幹に関わる。」
何となく「もっともらしく」聞こえますが、この主張には、介護保険制度に関する誤った理解がいくつも含まれています。
まず、介護保険における負担と給付の関係を取り違えています。40歳以上の国内居住者が支払う介護保険料は、健康保険料や国民年金保険料と同じく、将来のための「貯金」ではなく、「いま」介護を受けている人のサービス費用に充当されるという制度設計になっています。したがって国内に居住していない時期の介護保険料を払っていないからといって、介護保険制度の負担を免れている、ということにはなりません。
次に、納税実績や保険料の納付期間を、介護保険サービス給付を左右するものとして捉える発想自体が間違っています。こんな理屈がまかり通れば、非課税世帯、あるいは40歳となった直後に脳血管疾患を発生し要介護認定を受けた人は、日本人外国人を問わず、介護サービスを受けるのはおかしい、ということになってしまいます。仮にそういった利用を制限する仕組みをつくろうものなら、社会の構成員すべてが能力に応じて負担し、必要に応じて給付を受ける、という社会保険制度の根幹を揺るがしてしまいます。
もうひとつ、介護保険料は介護サービスの利用の有無を問わず、65才を過ぎた高齢者も支払う義務があります。また、介護サービスを利用した際は原則1割の自己負担が発生します。たとえ介護利用をする前の保険料納付期間が短かったとしても、国内在住期間あるいは亡くなるまでの間は介護保険料を支払いつづけ、かつ、サービス利用をした場合はその1割を支払いつづけるわけですから、自身が利用する介護サービス分も含め、「いま」必要とされている費用に対し相応の負担をしていることになります。入国してから間もなく介護保険制度を利用する外国人を「ただ乗り」呼ばわりするのは、あきらかに不当な「言いがかり」です。
この記事には他にも、読者の危機感をあおるような記述があちこちに見受けられます。 「介護保険が使われると毎月15万円の支出」では、再び先の調査レポートを引き合いにして、利用の多い介護サービスである訪問介護、訪問看護費用の試算を「介護ジャーナリスト」に語らせています。それによると、最も介護度の低い要介護1でも年間200万円、介護期間を亡くなるまでの平均7年として、日本滞在が認められている限り、少なくとも1400万円の公金が投入されていることになる、としています。
しかし、いったいこの試算のどこが「納税や保険料や税金の支払いが十分でない外国人が少ない滞在期間で高額な介護サービスを受けられてしまう」ことを示しているというのでしょうか。実に悪質な印象操作です。
同じことが、介護保険ではありませんが、「外国人高齢者が利用するビザに“目的外利用”の懸念」のくだりにも見受けられます。「政府統計の「在留資格別 年齢・男女別 在留外国人」(2023年6月)によれば、80歳以上の特定活動資格での在留者は930人、外国の宗教の布教を目的とした「宗教」の在留資格が80歳以上で85人おり、こちらも“目的外利用”をされていないか、懸念がある。」としていますが、これも単なる「こじつけ」です。介護保険の問題とは全く関係がない事柄を持ち出し、あたかも高齢の外国人が宗教者を装って国内に侵入し、国内で介護サービスを利用しようとしている、という印象を植え付ける、たちの悪いデマゴーグであるといえます。
この記事は全体として、独自の取材に基づかず、他者に語らせることで、読者を一定の方向に誘導しようとしています。例を挙げると以下の通りです、
「外国人が治療を目的に何らかのビザで来日し、健康保険加入の直後に高額医療を受けるなど、実質的な「健保のタダ乗り」が問題となっていた。これが今度は、日常的に利用され、一人あたりに対する公費負担分がより高額となる介護保険サービスも同様にターゲットになりつつある。」(ある介護ジャーナリスト)
「現在、中国では長年の一人っ子政策の影響で急ピッチに高齢化社会が進んでおり」「日本に行けば格安で魅力的な介護サービスが受けられると分かれば、“予備軍”がどっと押し寄せる可能性がある。」「こうした情報は今や、SNSなどで一瞬で広まってしまいます。何か手を打たないと、日本の介護サービスは中国人高齢者の姥捨て山のように使われてしまいかねません。」(中国事情に詳しいジャーナリスト)
「家族帯同における『家族』の範囲は配偶者と子どもですが、今後、『日本が外国人から選ばれやすくなるため』などとして、親に対象が拡大される可能性はあるかもしれません。そうなれば外国人の高齢者もドッと日本に押し寄せるはずです」(全国紙社会部記者)
「外国人の子育て世帯からは、自国で専業主婦や、高額なベビーシッターを雇ったり託児施設に預けるくらいなら、『日本ではタダ同然で保育園に預けられて働くことができる』と人気です。外国人が多い地域では、すでに園児の半分以上が外国人という保育園もある」(同)
ここで語られているのは、すべて根拠のない「邪推」でしかありません。しかも「デマ」と思われるものすら含まれています。さらにいえば、「ただ乗り」とは真逆の、本来外国人高齢者が介護サービスにアクセスしにくい現実を明らかにしたはずの「調査レポート」を、「ただ乗り」主張の根拠に使う厚顔無恥ぶりには、怒りを通り越してあきれるばかりです。他人の主張や成果に「ただ乗り」し「悪用」しているのは、いったいどこのどなた様なのでしょうか。
確かに、少子高齢化が進むいま、介護保険制度は大きな岐路に立っています。介護保険料の負担増、あるいは人手不足による介護サービスの供給不足への対策が政策的課題となる中で、将来の介護制度に対する不安が、日本社会全体に広がりつつあることも事実です。
その「不安」を背景にして、具体的な根拠を示さず、何らかの現象や、伝聞、さらには邪推を適当につなぎあわせることで、移民を悪者に仕立て、「介護保険制度ただ乗り」が存在するかのように見せかける、それがこの週刊現代記事の本性です。そして、こうやって作り上げられた「デマ」は、またたく間に拡散し、差別と排外主義、そして社会の分断と暴力をもたらします。それは関東大震災の時の朝鮮人大虐殺も含め、多くの歴史が物語っていることでもあります。
私たちは、差別と分断をもたらしかねない週刊現代の記事に強く抗議し、謝罪と検証記事の掲載を求めます。
<該当記事> ※2025年1月24日更新:下記該当記事は週刊現代によりすでに削除され閲覧ができなくなっています。
週刊現代2024.9.4
日本の介護保険がおいし過ぎる!「外国人“タダ乗り”」がとうとう介護保険サービスにも…いま増えている外国人利用者「日本語が全く話せない人も」
https://gendai.media/articles/-/136655
「このままでは日本が「中国人高齢者の“姥捨て山”に」…!海外の介護難民が日本に押し寄せる、介護保険の外国人「タダ乗り問題」の闇」
https://gendai.media/articles/136656/
<調査レポート>
三菱UFJリサーチ&コンサルティング(2024)
外国人高齢者の「助けて」に寄り添う~「外国人高齢者に関する調査」報告書~
https://www.murc.jp/library/report/seiken_240322/
<関連調査>
愛知県(2021)
外国人高齢者に関する実態調査報告書~ともに老い、ともに幸せな老後を暮らすために~
https://www.pref.aichi.jp/uploaded/life/413005_1835837_misc.pdf
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