「困難な問題を抱える女性への支援に関する法律」(以下「本法」という)にかかる「都道府県基本計画等」(以下「基本計画」という)に盛り込むべき内容について、以下のとおり、要請する。
1、要請に至る経緯
NPO法人移住者と連帯する全国ネットワーク(移住連)は、日本社会で暮らし働く移民や外国ルーツをもつ人々の生活と権利を守り、自立への活動を支え、よりよい多民族・多文化共生社会を目指す個人、団体による全国のネットワーク組織である。移住連女性プロジェクトは、移住連内のサブネットワークとして、移民(外国人)女性の権利と尊厳を守るための活動に取り組んでいる。
2022年末現在、日本には、中長期在留に限定しても約307万5千人の外国人が在留しており、その約50%は女性で、その在留資格は永住者、家族滞在、技能実習など多様化している。また、何らかの事情で在留資格を失った外国人も多く(2023年の推計で約7万人)、 その相当数が女性である。さらに、国籍は日本であるが、外国にルーツを持つ女性(子どもに限らない)も相当数いる。
これら、日本に在留する外国人女性及び外国にルーツを持つ女性(以下「外国人女性」という)の多くは、在留資格の有無に関わらず、後記のような困難を抱え、支援を必要としている。
しかるに、本法及び基本方針には後記の懸念があり、このままでは外国人女性が具体的支援を受けられない恐れが強い。
そこで、外国人女性の抱える困難を理解し、それに応じた最適な支援を基本計画に盛り込んでいただきたく、本要請に及ぶ。
2、「基本方針」についての懸念
(1)本法7条に基づいて国が本年3月に定めた「基本方針」には、「法は、そもそも、女性が、女性であることにより、性暴力や性的虐待、性的搾取等の性的な被害に、より遭遇しやすい状況にあることや、予期せぬ妊娠等の女性特有の問題が存在することの他、不安定な就労状況や経済的困窮、孤立などの社会経済的困難等に陥るおそれがあること等を前提としたものであり、このような問題意識のもと、法が定義する状況に当てはまる女性であれば年齢、障害の有無、国籍等を問わず、性的搾取により従前から婦人保護事業の対象となってきた者を含め、必要に応じて法による支援の対象者となる。」との記載がある。
しかしながら、基本方針の他の箇所には、外国人女性を念頭においた記載は殆どなく、僅かに、女性相談支援センターにおける「一時保護」の対象として「⑤ 出入国管理及び難民認定法(昭和26年政令第319号)第2条第7号に規定する人身取引等により他人の支配下に置かれていた者として保護することが必要と認められる場合(法施行規則第1条 第4号)」との記載がある程度である。
この記載ぶりが外国人女性への支援を上記「人身取引被害者の一時保護」に限定する趣旨でないことは推認できるとしても、現在既に日本に暮らしている外国人女性についての言及が殆ど皆無である状況は、本法及び基本方針が外国人女性への支援に関心が薄いことを示している。しかし、後記のとおり、外国人女性には日本人女性にも増して困難な事情があり、その事情に応じた最適な支援が必要であるところ、このままでは、外国人女性が具体的支援の対象から事実上除外されてしまうことが強く懸念される。
(2)また、基本方針には、「困難な問題を抱える外国人女性」が、様々な理由から在留資格を有しない状態となっている場合、本法による支援を受けることができるかどうかについて記載がない。そのため、本法2条の定義に該当する状況にあるにも関わらず、在留資格を有しないという理由で、外国人女性が本法による支援から排除されるのではないかとの懸念がある。
しかし、本法は、「人権の尊重」「女性が安心してかつ自立して暮らせる社会の実現」等を目的とし、「抱えている問題及びその背景、心身の状況等に応じた最適な支援を受けられるようにする」「人権の擁護」等の基本理念を掲げているのであるから、本法2条の定義に該当する外国人女性(性的な被害、家庭の状況、地域社会との関係性その他の様々な事情により日常生活又は社会生活を円滑に営む上で困難な問題を抱える女性(そのおそれのある女性を含む。))に対しては、在留資格の有無に関わらず、最適な支援を提供すべきであり(在留資格取得に向けた支援もその一つである)、その旨を基本計画に明記すべきである。
この点、「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等のための施策に関する基本的な方針」(内閣府ほか、2013年12月26日・2020年3月23日最終改正)には、「職務関係者による配慮/外国人等の人権の尊重」として、「法が対象としている被害者には、日本在住の外国人(在留資格の有無を問わない。)や障害のある者等も当然含まれていることに十分留意しつつ、それらの被害者の立場に配慮して職務を行うことが必要である。」「出入国管理及び難民認定法においては、「正当な理由」がある場合を除き、所定の期間内に住居地の届出をしないことや、配偶者の身分を有する者としての活動を6月以上行っていないことが在留資格取消事由とされているが、外国人である被害者が配偶者からの暴力を理由として避難したり、又は保護を必要としている場合は、「正当な理由」がある典型的な事例として、在留資格の取消しを行わないこととされている。」「なお、被害者が不法滞在外国人である場合には、関係機関は地方出入国在留管理局と十分な連携を図りつつ、加害者が在留期間の更新に必要な協力を行わないことから、被害者が不法滞在の状況にある事案も発生していることを踏まえ、事案に応じ、被害者に対し適切な対応を採ることが必要である。また、国においては、被害者から在留期間の更新等の申請があった場合には、被害者の立場に十分配慮しながら、個々の事情を勘案して、人道上適切に対応するよう努める。」との記載がある。
DV被害者は脆弱な立場におかれた女性の典型の一つであるが、脆弱な立場におかれる女性はDV被害者に限定されない。この指針は、日本人のDV被害者と同等(場合によりそれ以上)の脆弱性を持つ外国人女性に対しても、同様の保護と支援がなされるべきことを示していると言うべきである。
(3)都道府県・市町村の基本計画を策定する際には、これらの懸念と以下に述べる外国人女性の抱える特殊な困難を十分に理解のうえ、困難な問題を抱える外国人女性に対して最適な支援を行うための具体的施策が規定されるべきである。
3、以下は、外国人女性の抱える特殊な困難の一端とその事例である(プライバシー保護のため本人が特定されないよう記述した)。
(1)「在留資格」という不安定要素
日本に定住する外国人女性は、2000年までは国際結婚などによる結婚移民が多数を占め、出入国管理及び難民認定法別表第二の身分に基づく在留資格である「日本人の配偶者等」、「永住者の配偶者等」、「永住者」、離婚して子どもを監護養育している場合には「定住者」などで在留していた。結婚による定住女性も、その法的地位が日本人配偶者等に依存していることなどから複合的に脆弱な立場に置かれ、DV被害を受けても暴力から逃れにくく、心身共に過酷な状況に置かれてきた。
その後、定住する外国人女性の数はさらに増加し、出入国管理及び難民認定法別表第一の活動に基づく在留資格の女性の数の増加が顕著である。2022年末の在留外国人統計の外国人女性の在留資格別内訳では、多い順に「永住者」の522,844人、「家族滞在」の147,739人、「特別永住者」の146,248人、「技能実習」の134,666人、「留学」の132,615人、「定住者」110,567と続く。定住する女性の在留資格が多様化するなかで、外国人女性がDV被害を受けた場合でも、就労系の外国人の配偶者である「家族滞在」の場合や、「留学」の場合などは、被害から逃げた後、DV防止法の一時保護の対象にはなるものの、その後の自立支援の社会福祉制度の適用対象外とされていることから、実質上は行政による一時保護が受けられない。DVから逃れ夫と別居したことから在留期限の更新も認められず、帰国を強いられるなど、より深刻な事態も生じている。
DV以外にも、後述するとおり、技能実習生など別表第一の在留資格の外国人女性が妊娠すると適切な保護が受けられず帰国させられるような人権侵害も生じている。このように在留資格という不安定要素により、外国人女性は日本人女性より一層、困難な状況に陥りやすいという特徴がある。
【A】在留資格「家族滞在」のDV被害女性
ネパール人女性Aさんは、就労の在留資格で働く同国人の夫の配偶者として在留資格「家族滞在」で日本に滞在していた。しかし、夫からの身体的暴力や言葉の暴力などが続き、保護などを求めて何度か関係機関に相談したが、女性相談員から「シェルターに保護しても1週間しかいられません。その後は本国に帰ってください」と言われた。公的保護を事実上拒否されたAさんは、友人宅に避難し、週28時間の制限のなかで就労しつつ、ぎりぎりの生活をしている。離婚係争中だが、離婚した女性はコミュニティから差別的扱いを受けるため、母国に戻る場所はない。入管に相談したが「DV被害者ということだけで日本にいることはできない。「特定技能」などの他の在留資格をとるしかない」と言われている。
【B】在留資格「家族滞在」のDV被害女性
中国人女性Bさんは、同国人の夫と中国で結婚し子どもを出産した後、来日。夫は「技術・人文知識・国際業務」で就労しており、Bさんと子どもは「家族滞在」の在留資格である。来日直後から暴力が始まり、今に至る。夫が家で暴れるため近隣からの110番通報も頻繁にあり、警察の通告で児童相談所も関与している。区役所にも複数回相談したが、「在留資格の制限で生活保護等の福祉制度が使えず、自立支援の見通しがたたないのでシェルター等への保護は難しい」と対応してもらえない。中国の実家同士が近隣のため帰国も困難であり、10年近くDVを耐え忍んでいる状況である。
【C】在留資格「留学」を失ったDV被害女性
2021年3月に名古屋入管収容施設内で痛ましい死をとげたスリランカ女性のウィシュマ・サンダマリさんは、在留資格「留学」で入国したが、パートナーと同居するようになった後に学校に行けなくなり、在留資格を失った。その後も同居のパートナーからの暴力に苦しみ、2020年8月にわずかな所持金で家を追い出されたことから、交番に助けを求めたが、DV被害者として保護される前に、入管法違反で逮捕され、翌日名古屋入管に移された。入管収容施設では仮放免も許可されることなくDV被害者としての適切な保護や支援も受けられないまま、体調が悪化して亡くなった。
【D】離婚後、収入が少なく在留期間1年が続く外国人シングルマザー
同国人夫からのDVが原因で離婚したDさん。母子生活支援施設で二人 の子どもと生活再建を目指す。在留資格「定住者」に変更はできたものの、生活保護受給中ということで在留期間は1年ごとの更新。施設から公営住宅に転居し生活保護を抜けた後も、母子3人に見合う収入がなく、生活が不安定との理由で、在留期間1年のままが続く。 これによって就労、進学、携帯電話等の契約で制約を受けている。
(2)「在留資格」による生活保護制度からの排除
「健康で文化的な最低限度の生活」(憲法25条)を保障すべき生活保護制度は、「日本国民」のみを対象としている(生活保護法1条・2条)。厚労省の通達により、一定範囲の外国人(永住者、定住者、永住者や定住者の配偶者、日本人の配偶者の在留資格で在留する者、難民認定された者など)には準用されているが、それ以外の在留資格で在留する外国人には準用されない。
しかし、日本に在留する外国人の在留資格は多様化し、「家族滞在」「技能実習」「留学」「技術・人文知識・国際業務」などの在留資格の女性も各々10万人を超えているが、いずれも生活保護法準用の対象外とされており、最低限の生活の保障がされていない。
【E】在留資格「家族滞在」で滞在するDV被害女性
「技能実習」の在留資格で来日したEさん。実習先の工場で知り合った同国人男性との結婚で在留資格が「家族滞在」となった。結婚直後から夫のDVに苦しめられ、子どもの出産前に夫が家を出ていき、その後、夫が一方的に離婚の手続きをし、Eさんは行き場を失ってしまう。友人の協力で民間シェルターに入所でき、その後公的な支援窓口で粘り強く交渉し、母子生活支援施設に入所することができた。しかし、どんなに困窮しても在留資格「家族滞在」では生活保護の対象にはならず、週28時間の就労で生活費を稼ぎださなければならない。乳幼児を抱えて異国でシングルマザーが働き続けることは並大抵ではない。
【F】コロナ禍でアルバイト収入に減少により生活が困窮する留学生
ベトナムからの留学生のFさん。来日費用や入学金等のため約60万円の借金をして来日し、日本語学校に通う傍ら、生活費用と借金返済のために、週28時間の制限一杯コンビニとホテル清掃のアルバイトを掛け持ちして働いてきた。しかし、2020年3月からはコロナウィルス感染拡大の影響で、アルバイトのシフトが減らされ、借金返済はおろか、アパート家賃の支払いや食費にも困るようになった。役所に相談したが、生活保護は在留資格上対象外であり、支援は難しいと言われた。そのため民間団体からの食糧支援や給付金支援などで最低限の生活をつないだが、対面授業もなくなり、孤立したなかで先行きが見えず、追い詰められ鬱症状を発症した。
(3)医療からの排除
日本国内に住所を有する外国人女性は、原則として国民健康保険の被保険者となる(加入できる)。ただし、在留期間が3か月未満の場合や超過滞在の場合などは、加入できない。そのため、高額の医療費を負担しきれず、医療を受けること自体が抑制されている。
【G】子ども達を育てながら高額の医療費に苦しめられる仮放免中の女性
非正規で滞在する中で出会った日系人夫との間に二入の子どもをもうけたGさん。子ども達は「定住者」の在留資格を持つものの、Gさんは非正規のまま。夫はGさんへのDVに加えて子ども達にも性虐待も行い、Gさんは子ども達の単独親権を得て離婚。日本で生まれ育った二人の子ども達とともに日本で暮らしたいとGさんは強く希望し、在留特別許可を求めているが、その最中に癌を発症し、手術を受けた。健康保険に加入できないため、約200万円の医療費の請求がきた。
【H】子どもに障害がある仮放免中の母子
Hさんの両親は本国で離婚し、父親(日系人)は日本へ。母親は別の男性と結婚したが、義父となった男性から性的虐待を受けたHさんは、父を頼って来日する。日本で出会った同国人男性との間に子どもを産むが、事情により、現在は母子ともに在留資格を失い、仮放免中。子どもには障害があり特別支援学校に通っている。Hさんもメンタルクリニックに通うが、健康保険に加入できず、10割負担。
(4)言葉の問題
ア、公的支援・福祉サービスへのアクセスの困難
市民が行政サービスを利用するためには、自主的な申請が必要とされ(申請主義)、公的支援・福祉サービスの利用についても同様である。
しかし、外国人女性にとっては、特に言葉の問題から、公的支援や福祉サービスの申請のハードルは高く、本来受けられる公的支援や福祉サービスを受けることができない場合が少なくない。自治体によっては、多言語による周知や関係機関に通訳人を配置しているところもあるが、地域による格差が著しい(基本指針は「地域によって困難な問題を抱える女性への対応に大きな格差が生じるべきではなく、支援対象者が全国どこにいたとしても必要十分な支援を受ける体制を全国的に整備していく必要がある。」としている
イ、第一言語による相談体制が不十分
上記申請に限らず、他の様々な事項についても、外国人女性が第一言語で相談できるホットライン等の開設が必要であるが、これも地域格差が大きい(基本指針は「特に、行政機関に支援を求めることができない、あるいは求めない女性の存在に留意し、アウトリーチ等を積極的に行う民間団体とも連携した支援対象者の早期発見への取組を進めることが必要であること。」としている)。
ウ、子どもの教育にも支障がある
言葉の問題があり、外国人女性(親)が日本の学校制度を十分に理解できず、また子どもの学校での様子もわからないことが多い。プリント類も読めないことから、学校との連絡の不備や宿題の補助ができない等の問題が生じ、さらには低学年の頃から子ども自身に学校のことを任せてしまう傾向がある。高校受験や大学受験は子ども達が社会で自立していくための大事な関門であるが、親の制度の理解不足や情報不足のため、子ども任せの状況が生まれ、子ども達の教育を受ける機会が実質的に制限されている。
エ、子どもと親双方への支援が必要
子ども達は家と学校とでは言葉も文化も違うことがあり、どちらに順応するか、幼少期から強いストレスの中で右往左往し、迷ったり悩んだりしながら生活していることが多い。親子が対立し、断絶する場合さえある。そうした状況を踏まえ、地域にある社会資源と連携しながら、学校においても、子どもと親への支援が必要である。
(5)住居確保に伴う困難
ア、外国人女性は、在留資格取得申請、在留期限の更新申請、アパートの賃借など、さまざまな場面で「身元保証人」を求められる。しかし、日本に頼れる親族や友人・知人がいないことが多く、安定した収入のある日本国籍者で身元保証人になってくれる人を探すのも困難で、身元保証人確保のハードルは非常に高い。やむを得ず有償で日本国籍者に身元保証人になってもらうこともあるが、中には、外国人女性のこの窮状を利用して搾取を企てる日本人もいる。
【I】住居がないため就職もできない女性
フィリピン人女性Iさんは本国に一時帰国したところ、コロナ禍のため日本に戻れず、家賃滞納で住居を失ってしまった。ホームレス状態となり友人の家等を転々としている間に、手持ち資金がなくなり、困窮。離婚した夫に預けていた子どもと住む家がほしいが、住居がないため仕事ができず、仕事ができないので住居を借りることができない。
【J】家族に追い出されホームレスになった女性
日系フィリピン人親の家から追い出されてホームレスになったJさん。聴覚障害があるが働けるので働きたいが、住居がなく、仕事も決まらない。
イ、外国人の親の中には、母国での教育制度やジェンダーの考え方に基づいて、子育ての方法、家族間の役割分担、子どもの進路などを考えるものがいる。そのため、日本育ちの子どもの中には、教育や進路の希望が親と対立し、望まない進路を強要されたり、親からヤングケアラーの状況を強制されたりすることがある。しかし、信頼できる相談先、頼れる大人、受け入れ先となってくれる大人などを日本国内で探すことは困難な場合が多い。
【K】通学できる住居が確保できない高校生
日系ブラジル人父と在日フィリピン人母の間に生まれたKさん。国籍はブラジル、在留資格は「永住者の配偶者等」。父母が離婚し、母・妹・弟と生活していたが、ヤングケアラーの状態だった。Kさんは学習意欲があり、学習支援団体の教師が支援していたが、母と同居していると高校中退の危険があり、母との別居を検討した。しかし、シェルターはDV委託専門の場所しかなく、外出不可が入所条件で、通学が確保できないため、入所に至らなかった。Kさんにとって通学しながら安全な住居を確保するという点が問題となった。
(6)無国籍、在留資格なし、不就学・不登校の子ども達
ア、外国人親からの虐待やネグレクト、親の非正規滞在などの理由から、子の出生届出がなされず、無国籍状態となっている子ども達が相当数いる。しかし、その実態の把握は不十分である。
また、外国人親から虐待等を受け、児童相談所で保護されている外国籍の(と思われる)子ども達の中にも、国籍や在留資格を有しない子ども達が相当数いると思われる。国籍や在留資格は子ども達の法的地位に直結する重要な問題であって、早期に対処する必要性が高く、子ども達を保護した時点で、まずはこれらの確認を行うべきである。国籍取得が確認できない場合には、民間団体や弁護士などとも連携し、出生証明書の取得・本国大使館への届出手続きなどの支援を行う必要がある。
イ、仮に本国大使館への子ども達の出生届出が未了であっても、日本の市町村役場に子どもの出生届があれば、市町村はその市町村の住民としての登録を行い、住民票を発行するなどし、予防接種、就学案内などを含め、日本国籍者あるいは在留資格のある外国人住民と同様のサービスを提供することとし、そのための案内が届くような対応を求める。
なお、不就学や不登校になっている子ども達が成人になりつつあり、(母)親が亡くなったあとの子ども達(成人も含む)は、頼れる家族や親族が日本に殆どいない場合が多く、行政により自立支援やその他の適切な支援のための介入が必要である。
【L】国籍の証明ができない子ども達
妻フィリピン国籍・夫日本国籍の夫婦間に子どもが3人(いずれも日本国籍)、妻の連れ子2人(いずれもフィリピン国籍)。これらの子5人は親からの虐待を疑われ、児童相談所に保護された。その後に夫婦にできた子ども1人(日本国籍)も父親からの性的虐待を疑われ、児童相談所に保護された。妻はうつ病、夫は統合失調症を発症、いずれも子ども達の引き取りは不可能な状態が続き、子ども達は養護施設で成人を迎え、施設を出て自立した。しかし、フィリピン国籍の子ども2人は、在留カード上は「フィリピン国籍」となっていても、フィリピンの出生証明書等を持たず、国籍の証明ができない。子どもたちがパスポート申請、婚姻や帰化申請を希望しても、フィリピン国籍の母からの適切な協力を得られず手続きが難航している。
(7)妊娠・出産をめぐる困難
ア、活動に基づく在留資格をもつ外国人女性に対し、所属機関などが妊娠や出産を禁じたり、妊娠や出産によって退職、帰国を迫ったりするケースがしばしば起きている。技能実習生の場合、政府は男女共同参画基本法にもとづき、そうした禁止や制約が不適切であるとの通知を複数回発しているが、現実には、送り出し機関、監理団体、受入企業の関係者から、「妊娠したら中絶か帰国」を求められることは珍しくない(2022年に出入国在留管理庁が実施した「技能実習生の妊娠・出産に係る不適切な取り扱いに関する実態調査」によると、「監理団体等から不適切な発言(妊娠したら仕事を辞めてもらう等)を受けたことがある技能実習生は26.5%)。また「強制帰国」を怖れて、孤立出産や出産した子どもの遺棄に追い込まれるケースが相次いでいる。さらに留学生が、妊娠のため日本語学校から退学を求められたケースや、国家戦略特区で働く家事労働者など他の就労系の資格でも妊娠により退職を迫られたケースがある。こうした活動に基づく在留資格をもつ女性は、その資格が日本での活動に結びついているため、日本に滞在できなくなることを恐れて、所属機関による不利益取扱いに従わざるを得ない現実がある。
イ、技能実習生の場合、日本で出産した子どもに安定した在留資格が定められておらず、日本における出産、子育てが想定されていない。
ウ、仮放免者を含む在留資格のない外国人女性は、住民登録がないがゆえ、国民健康保険に入れず、出産の際に利用できる制度が非常に限られている。病院や自治体で、担当者が利用できる制度を知らず利用できていない場合があること、また、非正規滞在が発覚することの恐れや費用負担の問題から未受診・飛び込み出産となりリスクが高い場合もある。
【M】母子手帳の交付が拒否された女性
フィリピン国籍の非正規の単身女性Mさんは、妊娠し、市役所で母子手帳の交付を求めた。母子手帳の交付については、令和3年8月10日付、総務省自治行政局外国人住民基本台帳室、総務省自治行政局長事務連絡の通知に母子保健サービスの中にあげられている。しかし、Mさんは住民票がないからと断られた。支援者が同行して交付はされたが、タガログ語版があるにもかかわらず、費用がかかっているので非正規の人には渡せないとの理由で、タガログ版の交付が拒否された。
【N】来日後、妊娠に気付いた女性
技能実習生Nさんは自国に夫と子ども二人を残し来日。実習を始めて間もなく、妊娠に気付いた。しばらくの間一人で悩み、何とか母語での相談に漕ぎつけたが、立ちはだかる困難に、帰国を決意。帰国後無事出産はしたものの、生活苦についての苦情がSNSで寄せられる。
(8)孤立しがちで居場所が必要
外国人女性は、地域に親族や頼れる友人等が少なく、孤立しがちであるが、孤立している外国人女性からの相談やアウトリーチ活動として、地域の外国人コミュニティの役割が大きい。外国人コミュニティは、外国人支援団体や公的支援機関へのアクセスが困難な外国人女性にとって、相談しやすく、理解してもらえる居場所になっている。問題が一時的に解決した後にも、そのような場所があれば、被害者回復支援や日本語学習などの生活/就労支援につながる。
【O】DVが解決しても精神的ダメージが残る女性
DV被害の解決が見えても、Oさんは精神的なダメージからぬけられないでいる。どれだけ深い傷を受けたかは支援者にも分からない。Oさんは夫からの暴力や暴言で自分がだめな人間だと思い込み立ち直れない。生活保護を受給し、仕事はなく、精神的に不安定な状態が続く。ただ、子どもを連れてコミュニティ活動には参加している。
4.基本計画に明記すべき外国人女性に必要な支援
(1)外国人女性を支援する民間団体、外国人コミュニティと連携協力し、必要に応じて活動資金を拠出すること。支援調整会議の構成員として、外国人女性を支援する民間団体、外国人コミュニティを加えること。
(2)国籍や在留資格の有無・種別に関わらず、困難な問題を抱える女性であればすべて支援の対象となることを明らかにし、これを多言語で周知すること。
(3)公的支援・福祉サービスについての情報を多言語化すること。
女性支援センターだけでなく各関係機関に通訳人を配置。
(4)在留資格、公的支援・福祉サービスの利用、子どもの就学、等に関わる相談を実施し、必要な支援をすること(在留資格の取得に向けた支援を含む)。
(5)無国籍・未登録児童、不就学・不登校の子ども達の実情を把握し、必要な対応を行うこと。
(6)外国人女性及びその子ども達の抱える困難について、関係機関の職員に向けた実効性のある研修を実施すること。
以上
要請書についての問い合わせ先
e-mail: sewmisisters@gmail.com