いまの日本社会には、健康保険がないために必要な医療が受けられず、悲惨な状況に置かれている移民・難民がたくさん存在します。また、こうした人たちを支える医療機関やNGOの負担は大きく、コロナ禍で限界に達しています。
日本がすべての人の人権を尊重する社会として成り立つために、そして緊急医療を要する移民・難民の命とそれを支える医療機関を守るため、日本政府に対する要請を行います。ぜひ署名にご協力ください!!
2021年3月、名古屋出入国在留管理局の施設に収容されていたスリランカ出身のウィシュマ・サンダマリさんは、入管職員から受診を拒否され、苦しみの末に亡くなりました。
収容施設の外でも、これと同じことが日常的に起きています。カメルーン出身のマイさんは、収容中に身体を壊したものの1年間治療されずに放置され、症状の悪化により収容は解かれたものの、「仮放免」の身では健康保険には入れないため、満足に病院にかかることもできず、3年後にがんのため、41歳の生涯を終えました。
健康保険がなく高額な医療費が負担されない、生命に危険がある状態と診断されながら医療機関での受け入れを断られる…。日本には、このような悲惨な状況に置かれている移民・難民(外国人)がたくさん存在するのです。
急病となった移民・難民、そしてそれを支える医療機関や民間NGOによる「自助」「共助」はもはや限界に達しています。国際社会共通の目標で日本も採択している「SDGs」(持続可能な開発目標)では、「すべての人に健康と福祉を」が目標の一つとされ、「すべての人が、お金の心配をすることなく基礎的な保健サービスを受ける」ことが具体的ターゲットとして挙げられています。日本がすべての人の人権を尊重する社会として成り立つために、そして緊急医療を要する移民・難民の命とそれを支える医療機関を守るためには、国籍や在留資格を問わず、健康保険や生活保護の権利を認めることが不可欠ですが、それが達成されるまでの「待ったなし!」の施策として、日本政府に対し、以下の政策の実施を早急に実現するよう求めます。
1.
医療を必要とする被仮放免者が、仮放免期間中に医療が受けられるよう、健康保険に加入できる在留資格を出してください。在留資格が出せない場合であっても、治療を必要とする場合は「被収容者処遇規則」30条の適用対象を拡大し、入管庁がその医療費を負担してください。
2.
健康保険資格を得られない移民難民及びコロナ禍における帰国困難者の医療を保障するため、未払補填事業の整備拡充を図ってください。
1)一部の自治体が行っている「外国人未払医療費補填事業」について、どこに住んでいても、どの医療機関にかかっても対応できるよう、国全体の制度として実施してください。また、現在定められている補填の対象を、期間、補填金額ともに大幅に拡充してください。
2)国立病院・自治体病院を含む公的病院も未払医療費補填事業の対象としてください。
3)新型コロナウイルスの流行による帰国困難者についても同様の措置を実施してください。
4)無料低額診療事業を行う医療機関が、高額な治療費を要する無保険者を受け入れたときは、医療費の健康保険負担相当分(7割)を補填する仕組みを作ってください。
3.
医療機関が、健康保険のない移民・難民の医療費を高額に設定することをやめさせてください。無保険であっても生活困窮者であれば、一点10円で計算された医療費で治療を受けられるようにしてください。
4.
日本語を母語としない人が適切な医療を受けられ、医療費や生活の相談ができるようにするために、欧米諸国同様の公的医療通訳制度を整えてください。
呼びかけ人
青木理恵子(CHARM)井上孝義(信愛病院 医療ソーシャルワーカー)大川昭博(移住者と連帯する全国ネットワーク)大澤優真(北関東医療相談会)大平路子 (耳原総合病院 医療ソーシャルワーカー)荻津守(栃木県医療社会事業協会)小久保哲郎(弁護士・生活保護問題対策全国会議)沢田貴志(港町診療所医師・NPO法人シェア=国際保健師協力市民の会 副代表理事)庄司修(大阪民主医療機関連合会)竹本耕造(埼玉協同病院 医療ソーシャルワーカー)中井雅人 (弁護士)仲佐保(シェア=国際保健協力市民の会)長澤正隆(北関東医療相談会)觜本郁(移住者と連帯する全国ネットワーク)プラーポンキワラシン(CHARM)増永哲士(埼玉協同病院事務長)松浦悟郎(カトリック司教・外国人住民基本法の制定を求める全国キリスト教連絡協議会)柳田月美(東葛病院 医療ソーシャルワーカー)山野内倫昭(カトリック司教・日本カトリック難民移住移動者委員会)吉本和人(耳原総合病院 事務次長)
事務局
NPO法人移住者と連帯する全国ネットワーク(移住連)
HP: migrants.jp
失職して在留資格をなくした技能実習生、生活困窮で授業料が払えず退学となる日本語学校の学生、重い病に罹患した状態で仮放免されている難民申請者…
日本では、在留資格が3か月以下の人、何らかの事情で在留資格を失っている人は、皆保険制度の対象になりません。医療費の支払いが困難なため、医療機関から受診を拒否され、あるいは治療が遅れて重篤化し、死に至る人もいます。そして重症患者の「たらいまわし」が横行し、救急医療の現場は混乱します。重症化した患者を見るに見かねて受け入れた病院の負担はさらに大きくなります。
保険がなく医療費の支払いが困難な移民・難民に対しては、これまでも小・中規模の病院や診療所が、医療者、医療機関としての使命感に立脚し、あるいは無料低額診療事業を活用しつつ、患者の受け入れに力を尽くしてきました。また、大規模病院においても、中小の病院では対応できない重症患者について、未収金覚悟で受け入れる医療機関もありました。そして、医療支援を行う民間NGOは、高額な医療費の支払いを抱えた移民・難民を物心両面から支援すべく、必死の努力を重ねてきました。
しかし、このような努力に対する公的な支援がこれまで何一つ用意されないまま、新型コロナウイルス感染症のまん延が、移民・難民の命を脅かしています。健康保険のない移民・難民を受け入れる医療機関が急速に減る一方で、海外富裕層をターゲットにした「医療ツーリズム」を背景に、民間のみならず公的な医療機関すらも「外国人」であるというだけで、健康保険のない人の医療費を、診療報酬1点 10円計算ではなく、1点 20円から50円につりあげて請求するところが増えています。
EU加盟国では救急医療が人権であるという認識により、経済的に困窮した移民・難民に対し在留資格に関わらず緊急医療を提供できる制度の構築を進めています。
こうした制度を欠いた日本において、海外からの渡航者も含めた移民・難民の急病患者が、診療忌避によって死亡する事件が起これば、日本は、国籍や在留資格、そして支払い能力により「いのちを差別する国」として報道され、人権や生命を軽視する国として、国際的信用を完全に失うことにもなります。少なくとも、病を抱えた被収容者を、医療保障の手立てを奪ったまま地域に放り出すような「棄民政策」は、直ちに改められるべきです。
~みなさまのご支援をお願いいたします!~
仮放免(かりほうめん)
入管法違反により収容されていた人について、請求により又は職権で一時的に収容を停止し、身柄の拘束を仮に解く措置のことです。仮放免となった人は、在留資格が与えられないため、仕事もできず、健康保険資格も得られず、過酷な生活を強いられます。
在留資格(ざいりゅうしかく)
外国人が日本への上陸許可を受けるときに、日本国内での活動を指定するものです。「身分系(居住系)」「就労系」、「その他」の3つに分けられます。「就労系」「その他」の資格は認められる活動の範囲が極めて狭く、失業や病気をきっかけに在留資格を失う人もいます。
難民申請者(なんみんしんせいしゃ)
日本の難民認定は出入国在留管理庁が審理しますが、審理期間が長いこと、認定の範囲が極めて厳しいことが指摘されています。そのため、申請中に適法な在留資格が与えられず、極限に近い生活困窮下で認定結果を待つ人が多数存在しています。
無料低額診療事業(むりょうていがくしんりょうじぎょう)
社会福祉法を根拠として、低所得者や生活困窮者、ホームレス、DV被害者、人身取引被害者等の医療を受けにくい人に対して、無料もしくは低額な料金で診療を行う社会福祉事業です。
1点10円計算(1てんじゅうえんけいさん)
すべての医療行為については点数化されており、1点10円で計算される診療報酬が、健康保険から、あるいは公費から医療機関へ支払われます。それ以外の場合は医療機関が「自由」に設定できることになっています。
医療ツーリズム(いりょうつーりずむ)
医療の格差を背景に、富裕層などが海外で高度な医療サービスを受ける目的で渡航することを指します。近年日本では成長戦略の一環として医療ツーリズムの育成政策が推進されました。しかし、医療の公共性を壊す恐れがあるとして反対する意見も根強くあります。
外国人未払医療費補填事業(がいこくじんみはらいいりょうひほてんじぎょう)
健康保険に加入できない外国人の重病人が急増した1990年代初めに、医療機関を救済する目的で作られた地方自治体の制度です。1年以上繰り返し本人に請求しても支払えない理由がある場合に損失の一部が補填されます。予算化している自治体は少なく、入院2週間・医療費総額100万円以内、国公立病院は対象とならない等多くの制限があります。
医療通訳(いりょうつうやく)
患者と医療機関の間でのコミュニケーションを支援することができる専門的な技能を獲得した通訳者のことです。欧米各国では、患者負担なく医療通訳を確保することを医療機関側に義務付ける国が多数ですが、日本の場合は、医療通訳は必須の医療でないとして医療機関が自由に価格を決めて患者に負担を求めてよい、というのが厚生労働省の見解です。