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2020.01.20 声明・意見

「国連の恣意的拘禁作業部会による国別訪問手続 (カントリー・ビジット)を直ちに実現するよう求める共同声明」を発表しました

本日(2020年1月20日)、移住連は、入管収容分野、精神医療分野、刑事拘禁分野の問題に取り組む弁護士、市民団体らとともに、「国連の恣意的拘禁作業部会による国別訪問手続(カントリー・ビジット)を直ちに実現するよう求める共同声明」を発表しました。

日本政府はこれまでも恣意的拘禁作業部会から国別訪問手続(カントリー・ビジット)の要請を過去2回にわたって受けているにもかかわらず、いまだに実現していません。入管収容の現場で起きている「恣意的拘禁」に係る状況への解決に向けて、まずは日本政府が同作業部会の国別訪問手続の要請に早急に応じること、あらためて強く求めます。


国連の恣意的拘禁作業部会による国別訪問手続 (カントリー・ビジット)を直ちに実現するよう求める共同声明


2020年1月20日

日本国 

内閣総理大臣     安倍晋三  殿

外務大臣       茂木敏充  殿

法務大臣       森まさこ  殿

厚生労働大臣     加藤勝信  殿

国家公安委員長    武田良太  殿

出入国在留管理庁長官 佐々木聖子 殿

 

第1 趣旨

1 日本政府は、国連恣意的拘禁作業部会(WGAD、The UN Working Group on the Arbitrary Detention)による国別訪問手続(カントリー・ビジット)を直ちに実現すること

2 日本政府は、同手続に全面的に協力すること

3 日本政府は、同手続において国連恣意的拘禁作業部会から勧告が出された場合は、勧告に従い国内の恣意的拘禁にかかる人権侵害を解決すること

以上、要請する。

 

第2 理由

1 私たちは、日本の入管収容、刑事拘禁、精神医療の各分野における恣意的拘禁にかかる人権侵害に取り組む市民・法律家・学者・医療従事者等である。

2 現在、日本では入管収容、刑事拘禁、精神医療の各分野において恣意的拘禁にかかる人権侵害が深刻化している。これらの人権侵害は、いずれも国際人権基準に違反するものであり、これまで国連の人権理事会および各国連人権条約機関からも再三にわたり、人権侵害を是正するよう勧告が出されているが、一向に人権侵害の改善が見られないどころか、以下のとおり、近時において、全ての分野での人権侵害が悪化の一途を辿っている。

3 入管収容の分野では、かねてより収容/釈放(仮放免等)にかかる司法審査の不存在、退去強制令書による収容期間に定めがなく無期限となっていること、難民申請者など収容の必要性がない者まで収容されていることについて批判がなされていたが、ここ数年は収容期間の長期化が顕著となり、被収容者の健康状態の著しい悪化が危惧されている。2019年6月には、大村入国管理センター内でナイジェリア国籍者が餓死するという、収容施設でおよそ起きてはならない悲惨な事件が発生した。2019年8月8日には日本弁護士連合会も、収容をめぐる状況が悪化していることを懸念し、速やかな対応を求める声明を公表している(https://www.nichibenren.or.jp/document/statement/year/2019/190808.html)。

  また、収容中の処遇についても、職員による暴行や医療不提供が繰り返し報じられており、直近では東日本入国管理センターにおいて、2019年1月に薬の処方を求めた被収容者を6名前後の職員が「制圧」し、首を押さえつけ後ろ手に手錠を掛けるなどの暴行をしたケースや、被収容者が睾丸の痛みを訴えていたのを3か月半放置した結果、2019年9月の釈放後に精巣がんと判明して精巣を摘出したケースが報じられている。

  2019年10月10日には、収容の長期化に対してハンガーストライキで抗議していた難民申請者2名が、3年以上の長期収容の末、仮放免の許可後わずか2週間で再収容されたことについて恣意的拘禁作業部会に対して個人通報を行っている。

4 刑事拘禁の分野では、まず、警察留置と未決拘禁の分野では代用監獄の存続と長期間・長時間にわたる警察取調べの継続、取調べに対する弁護人立ち会いの否定、起訴前の保釈制度の不在、不明確な罪証隠滅を理由とする勾留の容認、裁判所による家族友人との外部交通を禁止する接見禁止処分の容認、施設内医療の不在、社会的な活動を不可能にする過酷な保釈条件といった人権侵害がある。これにより、虚偽の自白に起因する多くのえん罪が生まれてきた。

さらに、刑事施設における拘禁については、広範な独居拘禁の存在、施設内医療の独立性の欠如、些細な規則違反を理由とする過酷な規律秩序維持のための措置、1800人の無期懲役受刑者のうち年間10名に満たない者に対してしか仮釈放が認められない状況といった人権侵害があり、被拘禁者の心身を傷つけてきた。

これら処遇は、いずれも自由権規約7条、9条、10条、14条に反するものである。

このような状況の悪化を受け、日本弁護士連合会は、2019年10月4日、弁護人を取調べに立ち会わせる権利の確立、刑事手続における身体拘束制度の改革(身体不拘束原則の徹底、勾留に代わる住居等制限命令制度の導入、起訴前保釈の導入、身体拘束期間の短縮、取調べ時間の規制など)等を求める人権擁護大会宣言を採択している(https://www.nichibenren.or.jp/document/civil_liberties/year/2019/2019_1.html)。

2019年1月には、米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設への抗議活動に伴い、器物損壊罪などに問われた反対派リーダーである山城博治氏に対する刑事施設における約5ヶ月にわたる長期拘留が、自由権行使の結果として生じたものであり(カテゴリー2)、かつ市民活動家に対する差別(カテゴリー5)であるとして、恣意的拘禁に該当するとの見解が恣意的拘禁作業部会から出されている。

しかし、何らの改善は見られず、かえって、2019年3月及び5月には、会社法違反(特別背任)などの罪で逮捕・起訴された日産自動車前会長カルロス・ゴーン氏の家族が、長期勾留および保釈条件について恣意的拘禁作業部会に対して個人通報を行っている。さらに、2019年7月8日にも、恐喝未遂罪・業務妨害罪などの罪でのべ77人が逮捕・起訴された全日本建設運輸連帯労働組合関西地区生コン支部の一部組合員らが、労働権侵害の不当勾留および長期勾留について恣意的拘禁作業部会に対して個人通報を行っている。

5 精神医療の分野では、強制入院の要件の広汎性、自由剥奪についての司法判断の欠如、患者の権利救済手続の不備、入院を回避する代替手段の不備による不必要な入院の長期化などが恣意的拘禁を生み出している。精神障害による自傷他害のおそれを要件とする措置入院は、都道府県知事の決定に基づき開始され、その要件は極めて広範に解釈運用されている。同意能力の欠如を要件とする医療保護入院は、民間病院の管理者の決定で行われ、いずれの強制入院においても治療が不必要な者を入院させている事例が少なくない。また、入院患者からの退院請求を審査する都道府県知事のもとにある精神医療審査会が退院を認める例は極めて乏しい。さらに、国が入院を回避するための社会資源の開発を進めないため、多くの患者が入院治療の必要性がないのに入院を継続させられている。これらの問題は自由権規約委員会、拷問禁止委員会からも改善すべき点として指摘されている。

  2018年4月19日には、コーラ1本の窃盗未遂をきっかけとして強制入院となった統合失調症の男性に対する精神科病院における約6ヶ月にわたる長期収容が、法的根拠を欠き(カテゴリー1)、かつ障がい者差別(カテゴリー5)であるとして、恣意的拘禁に該当するとの見解が恣意的拘禁作業部会から出されている。更に2019年1月16日にも、滞在中のホテルのベッドを誤って汚してしまった女性に対する精神科病院における約2年以上にわたる長期収容が、同様に恣意的拘禁に該当するとの見解が恣意的拘禁作業部会から出されている。

6 日本は、2017年から国連人権理事会の理事国となっており、2019年10月17日には再選され、2020年1月から3年間、理事国を務めることとなる(https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/press4_007933.html)。理事国である日本が、国連人権理事会の恣意的拘禁作業部会からの見解や各人権条約機関からの勧告を無視することは許されず、見解や勧告を真摯に受け止め、近年特に悪化の一途を辿る日本の入管収容、刑事拘禁、精神医療の各分野における拘禁の問題に積極的に取り組み、人権侵害状況を改善することが求められる。そのためには拘禁問題の国際的な専門家組織である恣意的拘禁作業部会の国別訪問手続(カントリー・ビジット)を受入れ、同作業部会による実態調査を踏まえた勧告・助言を受けることが必要不可欠である。

  しかるに、日本は、これまで恣意的拘禁作業部会からの国別訪問手続(カントリー・ビジット)の要請を、少なくとも2015年4月15日および2018年2月2日の2度にわたり正式に受けているにもかかわらず、未だ日本への国別訪問は実現していない。

恣意的拘禁作業部会は国連人権理事会の特別手続であるところ、国連人権理事会の理事国である日本は、2011年3月1日に表明し、誓約した「すべてのテーマ別特別手続に関する恒常的な招待(スタンディング・インビテーション)」および2016年の理事国選出の際に行った「人権理事会への積極的参加」「特別手続の役割を重視」「特別報告者との有意義かつ建設的な対話の実現のため、今後もしっかりと協力していく」との自発的誓約(https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000175307.pdf)を遵守・履行するため、恣意的拘禁作業部会の国別訪問手続の実現を阻むあらゆる障害を全力で取り除き、国別訪問を直ちに実現すべき責務がある。

7 よって、私たちは、日本政府に対して、声明趣旨記載のとおり、

(1)国連恣意的拘禁作業部会による国別訪問手続(カントリー・ビジット)を直ちに実現すること

(2)同手続に全面的に協力すること

(3)同手続において国連恣意的拘禁作業部会から勧告が出された場合は、勧告に従い国内の恣意的拘禁にかかる人権侵害を解決することを要請する。

以 上

 

 全国難民弁護団連絡会議

   特定非営利活動法人 移住者と連帯する全国ネットワーク(移住連)

 特定非営利活動法人 監獄人権センター

 医療扶助・人権ネットワーク

 特定非営利活動法人 ヒューマンライツ・ナウ

 入管問題調査会

 関東仮放免者の会

 ハマースミスの誓い

 関西生コンを支援する会

 日本カトリック難民移住移動者委員会

 

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