人権侵害を誘発する制度として多くの批判にさらされてきた外国人研修制度は、2010年7月に新たな「技能実習」を中心とする制度に改編された。しかし、この制度変更は、政府自らが言うように「研修生・技能実習生への保護の強化のため早急に対応すべき事項について措置した」にすぎず、「制度の在り方の抜本的な見直しについて、できるだけ速やかに結論を得る」こととされている。今回の改善策は、現象的に表われてきた問題点への対応を目指したものにとどまり、制度の本質=構造的な問題に踏み込んだものとはなっていない。言わば、枝葉の部分の改善にとどまり、制度の根幹に変更をもたらすものではない。
外国人研修・技能実習制度は、本来、「我が国で開発され培われた技術・技能・知識の開発途上国等への移転を図り、当該開発途上国等の経済発展を担う人づくりに寄与することを目的として創設された」ものである。しかし、制度の現状は、かかる国際貢献の理念から遠く離れ、海外との厳しい競争関係にある技術レベルの高くない分野や労働条件が劣悪な分野に存在する、絶対的な労働力不足を補うものとして、すなわち労働力の確保策として実施されている。実際、研修・技能実習を実施している企業の8割近くが50人未満規模であり、中小零細企業の労働力不足対策であることは明白だ。
こうして国際貢献という建前と、労働力対策という実態との乖離の狭間で、外国人研修生・技能実習生に対する人権侵害が頻発し、「外国人研修生は現代の奴隷である」という批判も受けている。国際的にも、国連からは2008年自由権規約委員会、2009年女性差別撤廃条約委員会、2010年人身売買に関する特別報告者、2011年移住者の人権に関する特別報告者などにより、また、アメリカ国務省・人身売買報告書でも2007年以降毎年、労働搾取や人身売買の観点から研修・技能実習制度に対する懸念が表明され続けている。
改定入管法では、新たに「技能実習」という在留資格を創設し、従来の実務研修段階でも労働法を適用することとなった。他方「研修」資格は、「公的な研修」と「非実務のみの研修」に限定された。その結果、2012年末時点で在留する外国人研修生は、1,804人にまで減少している。他方、同時点での技能実習生は、151,477人に及んでいる。
新たな「技能実習」では労働法が適用され、従来よりも権利保護が拡大するとされている。しかし、従来の技能実習段階にも労働法は適用されていたが、権利侵害は後を絶たなかったのであり、労働法の適用が当然に制度改善をもたらす訳ではない。
実際に制度改定後も、禁じられている保証金はさまざまに名目を変えて存在し続けているし、名義貸しも減少していない。二重契約も多く、残業代も最低賃金以下のままである。強制貯金に加え、通帳、印鑑やキャッシュカードの取上げも続いている。強制帰国やセクシュアルハラスメントも、相変わらず報告されている。こうした病理現象は、技能実習制度自体がもたらしているモラルハザードの結果である。
また、新たな制度では、これまで制度劣化の元凶であった団体監理型を、技能実習の基本類型として認めることになった。そして、その中心的役割を果たしてきた受入れ団体を、「監理団体」として制度の適正な運用を図る上で中核的な機能を負わせている。しかし、2013年4月に発表された総務省の行政評価でも、監理団体による監査がほとんど機能していないことが明らかにされた。ここには、新たな制度設計の矛盾が端的に表れている。他方、「受入れ団体についての許可制」や「JITCOの抜本的見直し」などの改善策は、先延ばしにされた。
私たちは、外国人技能実習制度の本質は、転職がなく帰国措置を担保できる「管理された極めて安価で安定的な労働力」として外国人を活用する、最大3年間の「日本型短期ローテーション政策」=外国人労働力政策にほかならないと考えている。そして、「短期ローテーション政策」を維持するために、技能実習生を縛る管理=人権侵害が横行している。制度が建前のとおりに実施されていないことに問題があるのではなく、制度設計そのものに問題の核心がある、と言うべきである。
本来、国際貢献を理念とする制度は、労働力政策とは全く目的を異にするものであり、別個に設計されるべきである。私たちは、純粋な外国人研修制度は維持しつつも、労働力政策としての外国人労働者の導入は、別途「労働」ビザの発給によるべきであると考える。こうした国際貢献と労働力政策を厳格に分離する枠組みが、今後の制度的基盤となるべきである。
また、技能実習制度では、「労働」でありながら職業選択の自由(他企業への移動)が認められず、技能実習生は労働者として不完全な立場におかれている。このことが、技能実習生の正当な権利主張を妨げ、受入れ機関及び送出し機関等による様々な人権侵害行為を誘発している。従って、「技能実習」という特殊な形態は廃止し、「労働者」としての在留を認めていくべきである。こうした制度的な整理をした上で、国際研修協力機構(JITCO)は、廃止すべきである。
そして、外国人労働者の導入策においては、職業選択の自由を含む労働権の保障、労働市場の健全な機能の確保を図りながら制度設計が考案されなければならない。その際、韓国における雇用許可制度の状況を、問題点を踏まえながらも参照すべきである。すなわち、韓国の雇用許可制度では、送出し国と二国間協定を結び、送出しと受入れを政府・公共機関が行い、労働市場テストを課して国内労働市場に対する補完性を確保するとともに、総量規制も取り入れ、限定的ながら職業選択の自由も認める3〜5年のローテーション方式としている。
人権侵害の集積場である技能実習制度を廃止するためにも、各方面からの本格的な外国人労働者政策の検討が求められている。
<技能実習制度に対する当面の対応策>
技能実習制度に対しては、長時間労働、賃金不払い、強制貯金、低賃金に象徴される劣悪な労働条件や、保証金・違約金の定め、パスポート取上げ、強制帰国、携帯電話の所持禁止、外泊の禁止、過労死、セクシュアルハラスメントなど、さまざまな人権侵害が指摘されて続けている。これらを改善するため、当面の対応策について以下のとおり提言する。
(1) 技能実習制度全体を掌握し、責任をもって一元的に対応する政府機関を設置すべきである。少なくとも、当面、「外国人技能実
習制度関係省庁連絡会議」を設置し、制度の適正な運用及び制度の抜本的見直しに向けて実効ある政策を打ち出すべきである。また、
継続的に技能実習制度の問題点を分析・整理して政策的な提案をしたり、制度の根幹に関わる問題が起こった場合に関係省庁を統一的に
指揮して対応することができる「技能実習オンブズマン」を設置すべきである。
(2) 技能実習制度が様々な深刻な問題点を有することに鑑み、制度の問題点を規制するため、下記のとおり技能実習に関わる法整備
を進めるべきである。
(3) 技能実習制度が適正に運用されるよう、日本政府自体が、送出し国側との2国間協定の締結などを含め外交交渉を行い、送出し
機関への監視・規制を強めて技能実習制度の運用の改善を図ること。また、保証金・違約金を定めたり、生活上の制約(外出・外泊・
遠出の禁止、携帯電話の所有禁止、労組加入の禁止など)を定めるなど制度趣旨に反する行為については、2国間協定により送出し国
においても違法行為とするとともに、かかる送出し機関からの技能実習生の受入れは3年〜5年間停止する制度とすべきである。
(4) 技能実習生は監理団体や実習実施機関によって、社会から隔離状況に置かれている場合がある。したがって、入管局や労働基準
監督機関は、技能実習の実情や技能実習生の生活実態を把握するため、監理団体や実習実施機関への抜打ち調査、技能実習生からの母語
での直接の事情聴取などを実施する必要がある。特に、労働基準監督機関は、技能実習を行っている全実習実施機関への立入り調査を実
施すべきである。その結果、技能実習基準や労働法規違反があった実習実施機関については、その名称及び違反内容を公表すべきである。
また、技能実習生が、その属する又は属した監理団体や実習実施機関に関して、かかる調査内容の情報公開を求めた場合、入管局や労働
基準監督機関はその調査内容を情報開示すべきである。
(5) 技能実習生の権利保護のため確実な権利告知の措置を採るとともに、技能実習生が気軽に相談でき、問題解決できる権限・機能を
有する公的相談窓口や公的監督機関などを設置するとともに、万一の場合に備えて24時間対応の緊急連絡先(フリーダイヤル=技能実
習生ホットライン)を設置し、技能実習生に告知すべきである。
また、技能実習生が困難な状況に置かれた場合に一時的に避難することのできるシェルターを、公的機関が設置すべきである。併せて、民間シェルターの設置及び運営に対して、財政的な援助をすべきである。
さらに、監理団体や実習実施機関等が途中帰国を強制するのを防止するため、技能実習生の途中帰国の際は、公的監督機関に事前届出を義務づけ、監理団体や実習実施機関等の関係者を除外して公的監督機関により直接本人への意思確認を行うとともに、入管局における出国手続においてもチェックするべきである。
(6)近年、技能実習先が倒産したり、不正行為認定を受けたりした場合、既に来日している技能実習生については、新たな受入れ先
への移動が可能となってきている。しかし、適当な実習先の確保は主に監理団体側に任されており、移動先が見つからず帰国を余儀なく
されることも多い。移動先の紹介や未払い賃金の確保、強制貯金の返還など、技能実習生の権利保護に関しては、法務省入管局及び厚生
労働省労働局が責任をもって対応すべきである。