移住労働者と連帯する全国ネットワーク(以下、移住連)は、日本で暮らし、働いている移住労働者とその家族の権利を守り、自立への活動を支え、多民族・多文化が共生する社会をつくること目指して、1997年に結成された、NGO や労働組合、市民のネットワークです。構成団体の多くは、10年から20年余に亘り現場での人権支援に当たってきました。この経験から、移住労働者やその家族が日本で直面する問題をとらえ、多民族・多文化共生社会に向けてどのような施策が必要かを提言してきました。
かつての自民党政権下では、少子高齢化による労働人口の減少という現実に直面して、「外国人労働力」受入れが取り沙汰されましたが、その一方で外国籍者の出入国や在留に対する管理・取り締まり強化施策が突出先行させられていました。わたしたちは、外国籍住民人口の急増が避けられない時代を迎えて、鳩山政権が、官僚に主導されていた前政権の政策を精算し、新しい政権の持ち味を生かした移民政策を打ち立ててくださるよう願っています。
2009年3月に移住連が刊行した『多民族・多文化共生社会のこれから』は、2002年以来3次にわたって行ってきた政策提言をまとめたものです。新政権の各省庁がこれを参考にしてくださり、外国籍住民が日本社会を共に構成する隣人として受け入れられるための総合政策を早急に立ててくださるよう要望します。
1.外国人人権基本法や人種差別撤廃法などの外国人にかかわる基本法制を整備されたい。
外国籍住民人口の増加が避けられない時代に、日本社会を共に構成する隣人であり納税者でもある人々の基本的権利を保障する法制を具備することは不可欠であると思われます。これに関し、次のことをお願い致します。
(1)生命・財産の権利、働く権利、家族を構成する権利、教育を受ける権利、社会保障の権利、住民としての権利など、日本国憲法及び国際人権諸条約の保障する権利が、外国籍住民にも適用されることを明記した「外国人人権基本法」(仮称)を制定してください。
(2)外国籍者・民族的マイノリティーに対する差別を禁止すると共に、被害者を有効に救済するため政府から独立した機関を設置することを定める、「人種差別撤廃法」(仮称)を制定してください。
2.総合的移民政策を策定されたい。
総合的な移民政策を策定することは、日本の将来にとって緊急の課題です。新政権が設置した国家戦略室は、これまで各省庁がばらばらに行ってきた外国籍住民受入れ政策を統合して、総合的な移民政策を立てるにふさわしい機関と思われます。国家戦略室に移民政策担当部門を置き、早急に作業にかかってください。
3.移民政策の執行機関を設置されたい。
前記の総合的施策の執行機関として、また、そこに至るまでの外国人施策の統合的執行機関として、これまでのような単なる連絡調整ではない専門機関の設置が必要と思われます。これに関し、以下のことを要望します。
(1)内閣府に『多民族・多文化庁』(仮称)を設置してください。
(2)当面の間、内閣府の定住外国人施策推進室を国家行政組織法上の行政組織に格上げし、諸課題の対応に当たってください。
1 人道的な観点から非正規滞在者の合法化措置を実施されたい。
2 難民の人道的な受入れを促進されたい。
3 国連「すべての移住労働者とその家族の権利保護条約」に加入すると同時に人種差別撤廃条約および子どもの権利条約の留保宣言を撤回されたい。
4.ゼノフォビア(外国人嫌悪)の根絶に努められたい。
旧政権は、日本社会に反外国人感情が広がるのを放置してきました。とりわけ、警察当局が先頭に立ち、メディアを通して「外国人犯罪」キャンペーンを長年に亘って展開し、ゼノフォビアを煽ってきました。近年は「テロ対策」という名目で、「テロリスト」は当然外国人であるかのような前提で入管政策の強化が行われてきました。
このような外国籍者を危険視する政策は、多民族・多文化共生社会とはまったく逆の方向であり、人種差別を増大させるものと憂慮されます。これに関し、以下のことを要望します。
(1)「外国人犯罪」の存在をことさらに強調し、ゼノフォビアを煽るような統計の出し方、及び公表の仕方を見直してください。
(2)日本社会に広がっている「不法滞在者が犯罪の温床である」という偏見を取り除くため、事実に基づいた適切な啓発・広報の方法を考えてください。特に警察官・入管職員をはじめ、公務員に対する研修を行ってください。