4月8日、自民党・公明党からヘイトスピーチに関する法案( 「本 邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律案」)が参議院に提出されました。
この法案に対し、移住連から本日付で以下の声明を発表しましたので、お知らせいたします。
ヘイトスピーチに関する法案(与党案)に対する声明
去る4月8日、与党である自民党・公明党から、ヘイトスピーチに関する法案(「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進 に関する法律案」/以下、「今法案」)が参議院に提出され、13日に法務委員会に付託された。19日に審議が行なわれることが発表されている。
近年、ヘイトスピーチ問題が大きな注目を集め、昨年5月には野党から人種差別撤廃施策推進法案が参議院に提出され、継続審議となっている。与党 からも今法案が提案されたことは、日本において人種差別問題に取り組むという意思表明が国会議員の総意として示されたという点で、画期的なことで ある。
私たち「移住者と連帯する全国ネットワーク(移住連)」は、日本に住む移住者の権利を守り、その自立への活動を支え、多民族・多文化が共生する 日本社会を作るために1997年に発足し、活動を行なってきた。その立場から、今法案が人種差別問題に対して実効力をもつために、特に以下の点を 指摘したい。
第一に、今法案は前文で、外国出身者又はその子孫に対する「不当な差別的言動は許されないことを宣言するとともに、更なる人権教育と人権啓発な どを通じて……不当な差別的言動の解消に向けた取組を推進すべく」としているが、差別を扇動する言動の禁止を明確に宣言すべきである。この点は、 2014年7月の国連自由権規約委員会の総括所見、同年8月の人種差別撤廃委員会による総括所見でも、日本政府に対する勧告として明確に指摘され ている。最近では2016年3月、女性差別撤廃員会からも、人種的優位や憎悪を唱える性差別的スピーチや宣伝を禁止する法律の制定が勧告された。 ヘイトスピーチが許されないことは既に政府も宣言し、啓発活動を行なってきた。にもかかわらず、ヘイトデモ・街宣活動は、「沈静化したとはいえな い」(2016年3月公表の法務省の委託調査結果より)状況にある。
第二に、「不当な差別的言動」が向けられる対象を「適法に居住するもの」としている点は、かえって国や地方自治体が、外国人に対する不当な差別 的言動にお墨付きを与えるという致命的な問題を孕んでいる。人種や民族等を理由とした差別は誰もが受けてはならないものであり、入管法・入管特例 法に規定される滞在許可の有無によって区別する合理的理由は、全く見いだせない。2009年4月に蕨市在住の非正規滞在一家に対して激しい差別デ モが行なわれたが、今法案では、このような言動を容認するというのだろうか。また政治的混乱や迫害のなか日本に逃れてきた、在留資格を有しない難 民申請者に対する差別的言動は放置してもかまわないというのだろうか。国が行なうべきは、まさにそうした在留資格を有さない者に対する不当な差別 扇動を当然許さないための施策を行なうことである。したがって、今法案の「適法に居住するもの」という限定は削除すべきである。
第三には、第二の点と同様に、対象を「本邦外出身者」とすることで、日本国籍を持つアイヌや沖縄などの先住民族、あるいは被差別部落出身者に対 するヘイトスピーチを今法案では対象外としている点も問題である。さらに外国出身者と言っても、日本人と外国人の両方を親に持つ者や、日本人の両 親の下で生まれたが長年海外で暮らし外国籍を取得した者など、主体は多種多様であり、この定義は混乱をもたらす可能性がある。人種差別撤廃条約の 第1条にあるように、対象を人種、皮膚の色、世系もしくは社会的身分、または民族的もしくは種族的出身を理由とするほうが明瞭となる。
その他にも改善すべき点はあるが、今法案について国会での審議や与野党間の協議が十全に行なわれ、上記の指摘等が反映された修正法案が今の通常 国会で成立するならば、日本のなかで人種差別を撤廃するための国内法制度整備の第一歩となろう。どのような出自を持つ者であろうと対等で自由な関 係で結ばれた多民族・多文化共生社会が実現することに国会が責任を果たすことを強く望む。
2016年4月18日
NPO法人 移住者と連帯する全国ネットワーク(移住連)