さる11月18日、「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律案」(以下、技能実習法案)が参議院本会議で可決・成立しました。この法律に対し、移住連は、外国人実習生権利ネットワークとの連名で、本日付で以下の声明を発表いたしましたので、お知らせいたします。
移住連、外国人実習生権利ネットワークでは今後とも、技能実習制度の根本的な見直しを求めて活動を継続していきます。
2015年3月6日に国会提出された「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律案」(以下、技能実習法案)は、ふたつの通常国会を経て2016年11月18日、臨時国会において一部修正の上、可決成立した。衆議院及び参議院の法務委員会を中心に展開された国会論議において、深刻な技能実習制度の実態が数多く指摘され、制度の問題状況については、与野党を問わず一定の共通認識が形成されたものと言えよう。その一端は、長文の附帯決議にも現れている。
しかし、新たに制定された技能実習法が、真に技能実習制度の改善に結びつくものと評価することはできない。
私たちは、これまで技能実習制度に関して、「発展途上国等の人材育成に協力するという“国際貢献”の建前と、人手不足の中小零細企業で“極めて安価で安定的な労働力”として使われる実態との大きな乖離=矛盾を抱えており、その結果、多くの人権侵害が集積している」と指摘してきた。同法の成立と並行して、介護分野での技能実習に道が拓かれようとしていることを見ても、労働力政策としての技能実習制度の本質に何らの変更がないことは明らかである。
技能実習法は、従来の技能実習制度の基本構造を維持したまま、外部的な規制により改善を図ろうとする一方、大幅な制度拡大を実現しようとしている。確かに、規制策として、実習実施計画の認定制、監理団体の許可制、罰則の整備、外国人技能実習機構の設立、政府(当局)間取決め等、従来にない手法を採り入れている。
しかし、かかる規制策には、高卒初任給をはるかに下回る低賃金構造を改善するための客観的合理的な基準が設定されないこと、問題があるときに実習先を移動する自由が十分に担保されないこと、技能実習生の意思に反する強制帰国に対して罰則規定がないことを含め保護策が想定されていないこと、政府(当局)間取決めに法的拘束力がないこと、送出し機関に対する罰則規定がないこと等大きな欠陥があり、その実効性は欠如していると言わざるを得ない。
他方、技能実習制度の拡大策に関しては、技能実習法において歯止めがかかっていない。すなわち、技能実習3号(2年間)の創設こそ法文に明記されているものの、拡大策のほとんどは主に関係省令に委任されており、特に3号への移行要件となる「優良」の判断基準や受入れ人数枠の拡大については、省令への白紙委任に等しい。対象職種の拡大にいたっては、法令事項ですらない。
その結果、不十分な規制のまま、制度の拡大策だけが推し進められることも懸念される。少なくとも「制度の活用」=制度の拡大は、「徹底的な改善」が実現された後に、はじめて実施されるべきである。
このように技能実習法の成立によって技能実習制度の本質的な改善は望めず、制度の建前と実態との乖離を解消することは全く困難である。まやかしの積み重ねで作られている技能実習制度は廃止して、職場移動の自由を含む労働権を十全に保障した形で、外国人労働者を正面から受け入れる制度を構築すべきである。
以上
2016年11月25日
特定非営利活動法人 移住者と連帯する全国ネットワーク
外国人技能実習生権利ネットワーク