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さる2月20日に法務省入国管理局によるチャーター機による6回目の非正規滞在 者の一斉送還がおこなわれました。
法務省への事実確認などの上で、移住連を含む7団体の連名で以下の声明を発表 しましたので、お知らせいたします。
法務省入国管理局は、2017年2月20日、タイ人32人、ベトナム人10人、アフガ ニスタン人1人の計43人をチャーター機で一斉送還しまし た。チャーター機によ る一斉送還は、2013年7月6日(フィリピン人75人)、同年12月8日(タイ人46 人)、2014年12月18日(スリ ランカ人26人、ベトナム人6人)、2015年11月25日 (バングラデシュ人22人)、2016年9月22日(スリランカ人30人)に続く6回 目 になります。
これまでの送還においては、送還を忌避する人が多数であったのに対し、今回 の送還では、送還を希望する人が半数を超えました。非正規滞在者の就 労が厳 しく禁止されていることもあり、送還を希望しながら帰国費用が工面できないた めに収容を続けられている場合が多く見られます。しかしなが ら、法律上は国 費送還が原則であり(出入国管理及び難民認定法52条3,4項)、人身の自由を奪 う収容がそのような経済的理由で続けられることは 法律上も人道上も看過でき ません。その意味で、今回、相当数の送還希望者を国費で送還したこと自体は評 価すべきであると考えます。
他方、以下の理由から、私たちは度重なる非正規滞在者の一斉送還に、引き続 き強く抗議します。
送還を忌避する外国人の強制送還について、私たちは、これまで、さまざまな 人権人道上の問題を指摘してきました。過去の5回のチャーター機によ る一斉 送還では、被送還者のなかに、日本にパートナーや配偶者や子など家族がいる 人、15年以上の長期にわたり日本に定着している人、難民申請し たものの不認 定とされた庇護申請者など、様々な事情を抱えて母国に帰ることができない人た ちがいました。彼・彼女らは突然の強制送還後、生活の基 盤もなく支援もない ままに送還先に放置されている実態も明らかになりました。また、被送還者の選 定基準の不透明さや送還プロセスにおける人権侵害 についても問題を指摘して きました。しかしながら、日本政府はこうした私たちの問題指摘や抗議にも誠実 に答えることなく、6回目の送還が強行され ました。
法務省によると、今回の一斉送還では、2歳から61歳までの男女43人が送還さ れ、そのうちの14人が送還忌避者でした。43人の中には、日本 に15年以上の長 期滞在者が7人含まれ(最長者は滞在25年9ヶ月)、また日本に法律婚をした家 族を残している人が7人、日本で庇護を求め、過去 に難民申請をしていた人が 2人、就学前の子どもが2人含まれていたとのことです。彼・彼女らは、一斉送 還の直前に収容され、あるいは送還を告知さ れ、家族や代理人にも連絡がとれ ないまま送還されました。
また、今回送還された庇護希望者の中には、異議申立棄却又は却下処分の告知 を受けてから24時間以内、あるいは6ヶ月以内に送還された人が含ま れていま した。難民の異議申立てに対する棄却決定に対しては、その告知から6ヶ月間、 裁判所に訴え出ることができ、異議棄却決定の際、難民申請者 に対してもその ような説明がされているにもかかわらず、法務省入国管理局は、棄却決定の告知 からわずか24時間以内に送還するなどにより、被送還 者から難民不認定処分取 消訴訟を提起する機会を奪いました。これは憲法第32条で難民申請者にも保障さ れる「裁判を受ける権利」を剥奪するもので あり、また、裁判所による最終判 断が下されていないにもかかわらず、難民である者もしくは帰国すれば拷問等受 ける可能性のある者を送還する点で、 難民条約第33条及び拷問等禁止条約第3 条の定める「ノンルフールマン原則」に反するものであり、憲法上、国際条約上 到底許されるものではありま せん。
過去のチャーター機による一斉送還においても、この「裁判を受ける権利」の剥 奪が繰り返し大きな問題となっています。2014年12月のスリランカへの一 斉送 還では、29人の庇護希望者のうち26人が、また2016年9月22日のスリランカへの 一斉送還においても、25人の庇護希望者のうち22人 が、異議申立棄却又は却下 の告知から24時間以内に強制送還された事実が明らかになっています。遠く庇護 を求めてきた人に対し、裁判への道を遮断 し、行政の一存で判断の告知と同時 に送還する行為は、自由や人権という価値を信奉し、立憲主義を採用する日本の 地位を貶めるものであり、恥じるべ きものであるといわざるを得ません。
法務省は、また、送還のプロセスにおいて「送還を安全かつ確実に実施するた め、必要最低限の手錠を使用した」と説明しています。今回の送還にお いて は、送還希望者29人にも送還忌避者と同様に手錠が使用されたという事実が明ら かになりました。
手錠の使用は、使用をされた者が犯罪者としての取扱を受けたのと同様の屈辱 を受けるもので、自由権規約7条及び拷問等禁止条約が禁止する品位を 傷つける 取扱に当たります。このような、人の身体に対する直接の強制力の行使は必要最 小限でなくてはならないことは当然であり、法務省の内部通達 (2013年12月12 日法務省入国管理局長通達 法務省管警第254号「戒具の使用要領について(通 達)」)においても、逃走、暴行又は自損等 護送任務の遂行に支障を来すおそ れがあると認められるときに限って手錠などの戒具使用が可能とされています。
送還忌避者全員についてこれらのおそれが一律に認められるというのはおよそ 想定し難く、まして、送還を希望していた者について、これらのおそれ がある とは考えられません。不必要、不相当な人権侵害が行われたものです。これま で、送還希望者の個別送還の際にも、航空機への搭乗前まで手錠が 使用されて きたという実態があります。しかしながら手錠使用それ自体が上述した「品位を 傷つける取扱」であり、かつ送還希望者に対して一律に手錠 を使用すること は、上記の通達が挙げる「護送任務の遂行に支障を来すおそれがあると認められ る」という要件を無視した運用がなされていることが明 らかです。このような 送還希望者に対する手錠使用の運用実態も改められる必要があります。
私たちは、チャーター機等による、適正手続が保障されない強制送還が行われ ていることに強く抗議します。今回送還された者に送還希望者を含んで いるこ とは、チャーター便送還の上記問題点を何ら緩和するものではありません。ま た、日本政府に対し、非正規滞在の外国人に対する施策を根本的に 見直し、 彼・彼女らの家族との結合や日本での定着性、保護の必要性などが十分に考慮さ れ、合法化が検討されることを強く望みます。さらに、航空会 社においては人 権を尊重し、人権侵害に加担しないという企業の社会的責任を果たすよう求めます。
2017年3月15日
特定非営利活動法人 移住者と連帯する全国ネットワーク
カリタスジャパン
全国難民弁護団連絡会議
難民・移住労働者問題キリスト教連絡会
特定非営利活動法人 難民自立支援ネットワーク
日本カトリック難民移住移動者委員会
RAFIQ(在日難民との共生ネットワーク)
イエズス会社会司牧センター