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声明・意見voice

2014.07.24 声明・意見

外国人建設就労者受入事業に関する告示案に係る意見

私たち移住労働者と連帯する全国ネットワーク(移住連)は、この社会で暮らし、 働く移住労働者とその家族の生活と権利を守り、自立への活動を支え、よりよい多民族・多文化共生社会を目指す個人、団体による全国ネットワークです。外国人技能実習生権利ネットワークは、全国各地で特に外国人研修生、技能実習生の個別の問題解決に取り組んできたネットワークです。それぞれの地域での活動をつなぎ合わせ、技能実習生の権利保障と制度の見直しを求める活動を行ってきました。

移住連は、さる3月19日、「建設分野における外国人材活用に係る緊急措置への提言」、そして4月24日には「建設分野における外国人材活用に係る緊急措置に対する声明」を発表しました。今回、「外国人建設就労者受入事業に関する告示案」に係るパブリックコメントの募集を受け、以下のように意見を述べます。

 

1.基本的立場

政府は、国内外から批判が絶えない現在の技能実習制度の継続と拡大を前提として「緊急措置」を決定している。制度創設以来、同制度では労働基準の破壊と人権侵害が横行しており(最近の一例として、2014年6月28日付新聞記事参照)、その要因は制度設計そのものに問題の核心がある。同制度が人身売買、奴隷労働の温床との疑念は、国連の人権条約機関等からの勧告としても表されている。また、そもそも「外国人建設就労者受入れ」と開発途上国への技術移転を目的とする技能実習制度は縁もゆかりもない。この度の緊急措置は同制度と完全に切り離して制度設計すべきである。

その上で、外国人労働者に対しては当然日本人と同等に労働者としての権利を現場で確実に担保する対策を講じなければならない。職業選択の自由は基本的な人権であるが、緊急措置では少なくとも外国人労働者の同業種内での移動を自由にし、在留資格もそれを可能とする設計にすることは、権利擁護の観点から最低限必要なものである。

さらに今回の緊急措置は、労働力不足を補うため、いかに外国人を「活用」するかという視点で議論されている。外国人を人たる労働者として受け入れるという観点、人権の視点が欠落しており、また外国人の権利を保証する法整備の必要性すら議論されていない。緊急措置が震災からの復興、東京五輪開催が契機であるならばなおさら、人権および多民族・多文化共生社会を保障する政策を今こそとるべきである。使い捨ての労働力ではなく、ともに働きともに暮らす、この社会を支える一員を迎えるために。


2.「告示案」に対する具体的問題点

(1)外国人建設就労者受入事業は、建設分野での労働力不足を補うため、「緊急かつ時限的な措置として即戦力となる外国人建設就労者の受入れを行う」ものである。

これまで建設関係で技能実習を修了した者が約5万人いるとされているが、帰国後も建設関係で働き続けている元技能実習生は、その3〜4割と推定されている。建設関係で長らく働いていない元技能実習生らは、とても即戦力とは言えないし、そうした労働者の受入れは、現場において極めて危険性が高いものとならざるを得ない。

したがって、現在、建設関係で働いていない元技能実習生は、基本的に受入れ対象とすべきではない。少なくとも過去1年以上、建設分野で働いていない労働者は受け入れるべきではない。

また、国土交通省は、過去の元技能実習生のリストを持っていないとしている。それでは「外国人建設就労者」が元技能実習生であったことについて、どのようなデータで確認することができるのか、疑問である。

(2)建設分野は、もともと深刻な労働災害が多発する分野であり、かかる分野での外国人労働者の受入れは、極めて慎重に行われるべきである。

現に、2013年の労災での死亡者数1030人のうち、建設業が最も多く342人と全体のほぼ3分の1に及び、2番目に多い製造業201人の1.5倍近くになっている。また、技能実習生における建設業での労災発生率(休業4日以上・千人率)は、建設業の全労働者での5.2に対して、9.9と大きく上回っている(2011年度)。

したがって、建設分野に受け入れる外国人労働者は、少なくとも現場でのコミュニケーションが十分に取れるような日本語能力を有していることが必要である。そこで、告示案第3「外国人建設就労者の要件」に、一定の日本語能力を有することを日本語検定で確認できた者という要件を入れるべきである。

また、十分な安全衛生環境を有する企業のみを「受入建設企業」とすべきである。具体的には、告示案第5の2(1)「受入建設企業」の要件として下記を満たしていることを求めるとともに、この判断に当たっては厚生労働省との連携を強化すべきである。

  • 適正に労働安全衛生教育が施されることが確保されている
  • 労働安全衛生規則に基づく、建設現場の安全対策、従事する作業に必要な資格の取得、健康

確保のための保護具の使用を確実に行っており、これらについて過去に重大な違反行為が無いこと

  • 過去の労災発生状況が平均水準以下であること
(3)現在の建設労働者の「公共工事設計労務単価」は全国全職種平均で1日1万6190円(月額30万円を大きく上回る)であるが、
他方、技能実習生(2号)の「予定賃金額」は月額12万9494円(2012年度)であり、その差は極めて大きく、ゆうに2倍を超えている。

告示案第5の2(4)では、適正監理計画の認定要件として「報酬予定額が同等の技能を有する日本人が従事する場合の報酬と同等額以上であること」とされているが、日本人労働者との平等待遇を実現するためには、具体的にどのような指標で「同等額以上」と評価するのかを明示すべきである。もしこの指標が曖昧であると、低賃金労働を誘発してしまう可能性が高い。

 

(4)国土交通省は、外国人建設就労者受入事業で受け入れる場合、技能実習とは異なり「受入建設企業」間での雇用先の移動を自由にするとしている。
この点は、基本的に評価するが、実際に移動の自由を確保するためには、適切な機関が職業紹介機能を発揮する必要がある。厚生労働省との連携を密にして、
全国に存在する公共職業安定所において外国人建設就労者向けの職業紹介窓口を設けるべきである。
(5)国土交通省は、緊急措置での受入れは「優良な」監理団体・受入れ企業に限定するとしてきており、告示案第4で「特定監理団体の認定」
要件を定めている。しかし、過去5年以内に不正行為を行っていないこと、暴力団員を含まないこと、保証金・違約金を取らないことなどとされ、
むしろ最低限守られるべき要件にとどまり、およそ「優良な」とはほど遠い要件となっている。積極的に「優良な」要件を定めるのでなければ、
外国人建設就労者受入事業における適正な実施に対する姿勢が疑われざるをえない。


しかも、実際のところ不正行為に関する法務省入管局の調査能力は、実態解明にはほど遠く、極めて限定されたものでしかない。基準省令による不正行為の類型として「旅券・在留カードの取上げ」「保証金の徴収」が挙げられ、技能実習生の意に反する強制帰国は「著しく人権を侵害する行為」という類型に該当するとされている。しかし、新たな入管法が施行された2010年7月以降において、この3類型に該当する不正行為の認定は毎年ゼロとなっていた。2013年には、僅かに「旅券・在留カードの取上げ」が1件、「保証金の徴収」が2件、「著しく人権を侵害する行為」が2件、不正行為認定されているだけである。

これは、このような不正行為が少ししか存在していないことを意味しているのではなく、広汎に存在する不正行為を法務省入管局がほとんど把握できていないことを意味している。現に、裁判で強制帰国が確認された事例でも、入管局は不正行為を認定せず放置している。参考資料に付した新聞記事の事例のように、不正行為はまさにこの瞬間も引き続き起こっているのに、である。

このように、そもそも不正行為を適切に認定することができていないのであるから、不正行為がないことをもって監理団体や受入れ企業が「優良」とすることはできない。

 

(6)告示案では第6で「特定監理団体」による監督・指導を行うこととするとともに、第7で「適正監理推進協議会」を設置して
「建設特定活動の適正な実施」を確保することとしている。

しかし、2013年4月に勧告された総務省による行政評価では、「監理団体の監査において、一定の利害関係がある実習実施機関に対する公平・公正な監査を確保するための枠組みが未整備。また、監理団体の監査能力も不足」と指摘されている。具体的には、法務省入管局が不正行為認定した事例の中で、同時期に監理団体が監査していたものの不正行為を指摘できなかった事例が、不正行為認定された83機関中81機関にも及んでいた。こうした監理体制を前提として監理強化をうたっても、その実効性は確保できない。

このように問題の集積する現行の技能実習制度を前提とした制度設計では、屋上屋を重ねることになるだけで実効性はない。健全な形で外国人建設就労者受入事業を実施するためには、技能実習制度と切り離して制度設計する必要がある。すなわち、この外国人建設就労者受入事業をよい契機として、独自に政府間で2国間協定を締結して政府間ルートでの受入れシステムを構築すべきだ。

 

(7)技能実習2号の対象職種は現在68職種126作業あるが、そのうち建設分野は21職種31作業ある。
このように全体の3割を超える職種を占め細分化されているが、国土交通省は、外国人建設就労者受入事業において、
技能実習を修了した職種だけでなく近隣の職種での就労も認める方向で検討している。

しかし、建設分野では賃金水準においても職種による開きが大きく、作業内容も異なっている。したがって、「近隣の職種」の判断基準を作成するに当たっては慎重な配慮が必要である。

 

(8)告示案では、送出し機関に関する要件が定められていないが、国土交通省は「技能実習送出し機関に限られない」としている。

そこで、送出し機関について、どのようにその適格性を確保するのかが大きな問題となる。従来も技能実習送出し機関については、送出し国の一定のスクリーニングがなされていたはずであるが、問題は多発していた。したがって、技能実習送出し機関とは関連させず、独自の政府間ルートを確立すべきである。

参考資料:技能実習制度の下で起こった最近の人権侵害の事例を示す新聞記事(毎日新聞6月28日)
以上
2014年7月24日
外国人技能実習生権利ネットワーク
移住労働者と連帯する全国ネットワーク(移住連)

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