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声明・意見voice

2015.05.01 声明・意見

「出入国管理及び難民認定法の一部を改正する法律案」 在留資格取消制度拡大に対する意見を公開しました

「出入国管理及び難民認定法の一部を改正する法律案」

在留資格取消制度拡大に対する意見

2015年 5月

移住労働者と連帯する全国ネットワークは、日本で暮らし、働いている移住者の権利を守り、自立への活動を支え、多民族・多文化共生社会をつくることを目指している当事者、支援者、専門家、NGO、労組、キリスト教団体などによるネットワークです。これまで、私たちは人権の観点から、入管法に対する意見を表明してきました。今国会において入管法改定案が上程されましたが、多民族・多文化共生社会の確立の観点から、大いに問題があるものです。以下、改正案に対する意見を申し述べます。

1.改定案の問題点

 日本政府・法務省は3月6日、入管法改定案を国会に提出した。

 しかしこの改定案の、とくに第22条の4第1項5号は、現行法の在留資格取消制度をさらに、野放図に広げることによって、法務省の恣意的な運用を容認するものと言わざるをえない。この法案においては、日本で生活し労働し家庭を形成する在日外国人に対する人権擁護の観点が見られない。

在留資格の取消制度は、2004年の入管法改定で新設された制度である。ところが2009年の改定で、取消事由が大幅に追加され、さらに今回、第22条の4第1項に次の第5号が追加された。

 5 別表第一の上欄の在留資格をもつて在留する者が、当該在留資格に応じ同表の下欄に掲げる活動を行っておらず、かつ、他の活動を行い又は行おうとして在留していること(正当な理由がある場合を除く。)。

外国人が「在留資格に応じた活動をせず」、かつ「他の活動を行ない」あるいは「他の活動を行おうとしている」と法務省がみなしたとき、即座に在留資格を取り消すというのである。

しかも、その外国人が「逃亡すると疑うに足りる相当の理由がある」と法務省が判断した時は、出国準備期間も与えず退去強制に付すことができるようにしている(第22条の4第7項、第24条2号の3)。

この第5号では、在留資格に認められている活動以外の活動を現に「行っている」のみならず、これから「行おうとして」在留している外国人にまで取消の対象としている。このような、人びとの意思・意図までも取り締まろうとする規定は、その運用が無制限に拡大する危険性を意味する。

法務省は、どのようにして、またどのような判断基準をもって、“他の活動を行っていない”外国人に対して、「他の活動を行おうとしている」とみなすことができるのだろうか? これでは、まるで戦前の治安維持法の下での予防拘禁ではないのか。

 日本に定住し永住する外国人にとっては、在留資格が取り消されることは「居住権」のみならず「生存権」を剥奪されることでもある。法務省は、在留資格を取り消すと、同日のうちに市区町村に通知し、その外国人の住民票が消除される。そして、国民健康保険や児童手当、公営住宅入居など、その外国人が受けていた行政サービスのすべてが奪われるからである。

したがって、在留資格取消制度においては、その厳格かつ合理的な基準と要件が、法律に明記されなければならない。ところが、改定案にある第5号には、それを見出すことはできない。

この第5号が適用される外国人、すなわち、別表第一の在留資格(芸術/宗教/報道/文化活動/教授/投資・経営/法律・会計事務/医療/教育/企業内転勤/技能実習/留学/研修/研究/技術/人文知識・国際業務/興行/技能など)を持つ外国人は、現在、58万人以上になる。その数は今後、確実に増えていくだろう。このように多くの定住外国人が、法務省の自由裁量による恣意的な運用にさらされることになる。

ところで、現行の入管法第22条の4第1項6号には、こうある。

6 別表第一の上欄の在留資格をもつて在留する者が、当該在留資格に応じ同表の下欄に掲げる活動を継続して3月以上行わないで在留していること(当該活動を行わないで在留していることにつき正当な理由がある場合を除く。)。

今回の改定案は、この第6号に追加して第5号を設け、「3カ月」を待たずして即刻、在留資格を取り消すことができるようにする。その理由を、まず法務省は明らかにしなければならない。

すなわち、これまで第6号に違反するとして在留資格取消処分が年間60件出されているが(2013年:58件、2014年:64件)、その一つ一つについて、詳細かつ具体的な処分理由を明示しなければならない。それと共に、「正当な理由がある」と判断して在留資格の更新あるいは在留資格の変更を認めた事例についても、その許可理由を明らかにしなければならない。そうでなければ、第5号の立法事実、すなわち新設する根拠がないことになる。

日本が加入している自由権規約においては、外国人の地位と権利について、次のように解されている(自由権規約委員会「一般的意見15」para.15~16)。

「何人に自国への入国を認めるかを決定することは、 原則としてその国の問題である。しかしながら、一定の状況において外国人は、入国または居住に関連する場合においてさえ規約の保護を享受することができる。例えば、無差別、非人道的な取扱いの禁止、または家族生活の尊重の考慮が生起するときが、そうである」

「入国の同意は、たとえば移動、居住および雇用に関する条件を付して与えられる場合がある。国はまた、通過中の外国人に対し一般的な条件を課すこともできる。しかし外国人は、ひとたび締約国の領域に入ることを認められると、規約で定められた権利を享受することができるのである」

 すなわち在日外国人は、自由権規約の下で国政参政権を除く規約上の権利を、日本国民と同等に保障されているのである。

かつて50年前、日韓法的地位協定を強引に成立させた法務官僚は、こう言い放った。

「(外国人の処遇は)日本政府の全くの自由裁量に属することで、国際法上の原則から言うと『煮て食おうと焼いて食おうと自由』なのである」(池上努『法的地位200の質問』1965年)

 法務省は今、この暴言をみずから復活させたばかりではなく、この日本を半世紀前、一世紀前に引き戻そうとしているのではないのか。

2.現行の在留資格取消制度の問題点

先に述べたように在留資格取消制度は、2009年の改定で取消事由が大幅に追加され、2012年7月から施行されている。

7 日本人の配偶者等の在留資格をもって在留する者、又は永住者の配偶者等の在留資格をもって在留する者が、その配偶者の身分を有する者としての活動を継続して6月以上行わないで在留していること。

8 新たに中長期在留者となった者が、当該上陸許可の証印又は許可を受けた日から90日以内に、法務大臣に、住居地の届出をしないこと。

9 中長期在留者が、法務大臣に届け出た住居地から退去した場合において、当該退去の日から90日以内に、法務大臣に、新住居地の届出をしないこと。

各号には「正当な理由がある場合を除く」と付けられている。しかし第7号、「配偶者の身分を有する者としての活動を継続して6カ月以上行わないで在留している」場合、および第9号、「90日以内に新住所地の届け出をしない」場合に在留資格を取り消すとした規定は、とくに日本人と結婚している移住女性の日常生活に脅威を与えるものであり、実際、移住女性へのDVを助長し、彼女たちの人権状態を後退させている。

 法務省の統計によると、2012年7月から2014年12月までの2年半で、第7号違反として在留資格が取り消された件数は、49件にも上る。

しかし、日本カトリック難民移住移動者委員会が2014年11月から2015年1月にかけて実施したアンケート調査では、次のような事例が寄せられている。

ある移住女性の場合、日本人の夫が家を出て所在不明になったために、夫と住んでいたアパートを解約し、姉の家に滞在していた時に入管が訪ねてきた。「日本人の配偶者等」の在留資格にもかかわらず、夫と別居していることを問題だと言われ、在留資格が取り消され、「短期滞在」になった。

また、ある移住女性は、日本人夫からの暴力の後、遺棄されたために、子どもとフィリピンに半年以上一時帰国した後、再度、来日した。在留資格更新の手続きを行なったところ、夫と同居していないことなどを理由に、在留資格を取り消され、帰国準備の「特定活動」1カ月に変更させられた。

 上記2例は、夫の失踪や、夫からの暴力、遺棄などの理由があったにもかかわらず、夫と同居していないことを理由に、在留資格が取り消された事例である。条文にある「正当な理由がある場合は除く」との除外規定の運用に、大きな疑問が残るのである。

2014年8月、国連の人種差別撤廃条約委員会は、総括所見(para.17)でこう述べている。

「これらの条項は、夫によるドメスティック・バイオレンスの被害者である外国人女性が、虐待的な関係性から逃れ、支援を求めることを妨げている」

「締約国は、日本人あるいは永住資格を有した日本人でない者と婚姻している外国人女性が、離婚や絶縁と同時に国外追放されないように、また法律の適用は、事実上、女性たちを虐待的な関係性のなかにとり残さないように、法律を見直すべきである」

3.在留資格取消制度の見直し

現行法(2009年改定法)の附則第61条には、「政府は、この法律の施行後3年を目途として、新入管法及び新特例法の施行の状況を勘案し、必要があると認めるときは……必要な措置を講ずる」とある。「施行後3年」とは、今年、2015年7月8日である。

「見直し」にあたっては、これまで国連の自由権規約委員会や人種差別撤廃委員会、女性差別撤廃委員会から、繰り返し出されている是正勧告に従って、少なくとも、次のことが必要である。

➀いま国会に上程されている入管法改定案の在留資格取消・退去強制条項を、削除すべきである。

➁「住居地変更届出が90日を超えた」とき/「配偶者の身分を有する者としての活動を継続して6月以上行なわないで在留している」ときには在留資格を取り消す現行制度を、見直すべきである。

日本の地域社会でかけがえのない構成員となっている外国人住民は、それにふさわしい地位と権利が保障されなければならない。それが、市民社会の総意であり、国際社会から日本が求められていることなのである。

以上

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