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2019.03.30 声明・意見

【声明】「新たな外国人労働者受入れ制度スタートを前に」を発表しました

移住連は、2019年3月29日に厚生労働省にて行った記者会見において、2019年4月から始まる「新たな外国人材受入れ」に向けて、以下の声明を発表しました。


<声明全文(PDF)>
190329 新たな外国人労働者受入れ制度スタートを前に

新たな外国人労働者受入れ制度スタートを前に

4月1日より、在留資格「特定技能」として新たな外国人労働者受入れ制度がスタートする。これまで正面からの受入れを認めてこなかった業種で、受入れ制度が整えられた。しかし、検討を始めてから1年もかけず拙速に作られた制度であり、積み残された課題はあまりにも多い。
 「特定技能」による受入れは、その半数ほどを技能実習からの移行者が占めると想定されており、数多くの深刻な人権問題が指摘されてきた技能実習制度を引き継ぐものとなっている。周知のように、技能実習制度では、技能修得=移転を目的とするため転職の自由が認められず、労働者としての権利が著しく制限されている。同時に、この制度は、技能実習生が労働市場から離れて暮らすことを原則として認めていない。これにより、彼・彼女らを「労働力」としてしか存在させないようにし、技能実習生の「人間」としての暮らしを困難にさせてきた。
 特定技能1号による受入れでは、一定程度の転職が認められたものの、在留期間は通算5年までとされ、家族帯同も認められず、定住への道もきわめて限られている。こうした規制もまた、特定技能労働者が労働市場から離れて暮らすことを難しくさせ、彼・彼女らの「人間」としての暮らしを制約するものとなりかねない。
 くわえて問題なことは、政府は、この受入れを「移民政策ではない」という新しい建前の下に敢行しようとしていることである。だが、この建前は、特定技能による受入れの問題点のみならず、すでに270万人を超える移民が日本に暮らしているという現実を覆い隠すものだ。しかしこれでは結局、「単純労働者は受け入れない」という建前の下、移民政策を打ち立ててこなかった過去30年の「失敗」を繰り返すだけだろう。
 今必要なことは、移民・外国にルーツのある人びとが「ここにいる」という事実を認識し、彼・彼女らが「人間」として暮らせるための権利と尊厳を保障する政策をつくることである。

I .「特定技能」でも人権侵害は続く!

変わらない送出し国での借金

 特定技能で来日しようとする場合、その多くは自国の送出し機関に頼ることになり、雇用しようとする受入れ機関の多くも、海外にルートを持つブローカーに依頼することになる。また、送出し機関に対する直接的な規制は放棄されており、送出し段階での手数料等による多額の借金が生み出す「債務奴隷」とも言うべき状況に陥らない保障はない。つまり、特定技能労働者の日本への移動でも、従来の技能実習や留学同様、人権侵害が引き起こされる構造になっている。

脆弱な規制策

 改定入管法による特定技能に対する規制は、技能実習法の手段を踏襲しているものの、法律レベルではないため技能実習法よりも脆弱である。技能実習法では、技能実習生を搾取してきた監理団体に対する規制も盛り込まれている。一方、特定技能での登録支援機関は、多くの場合、技能実習の監理団体の横滑りが予想されるにもかかわらず、登録支援機関への規制は見当たらない。結果として、特定技能労働者は、低賃金での長時間労働、賃金不払い等に甘んじなければならず、また権利主張した場合の強制帰国のおそれからも逃れられない。これに対する監視体制も、技能実習機構のような専属的な組織はなく、十分ではない。

低賃金労働を抜け出せるか疑問

 日本人と同等以上の報酬をうたっているが、その実現性は疑わしい。技能実習法でも同様の要件が課されているが、実際には各地の最低賃金レベルに張り付いている。つまり、こうした抽象的な定めだけでは、低賃金労働を規制することはできず、客観的かつ具体的な数値基準を定めることが必要不可欠である。

転職の自由も形骸化するおそれ

 特定技能では、転職の自由が「同一業務区分内」という限定された範囲であれば認められるので、転職の自由が認められない技能実習よりは、受入れ機関への従属度がやや軽減されるという。しかし、転職の際には、新たな受入れ機関は支援計画の作成が必要となり、通常の転職に比べハードルは高い。くわえて、日本人や他の外国人労働者と同様に、自発的な転職は自助努力によることが想定されており、特定技能労働者にとって容易ではない。
 したがって、転職の自由を形骸化させないためには、公共職業安定機関が特定技能に特化した求人情報の収集及び多言語による情報提供などを実施し、職業紹介機能を強化すべきである。

特定技能と技能実習とは制度的に不整合

 技能実習2号を「良好に修了」すれば、無試験で特定技能1号に移行できるが、これは技能実習の技能移転という目的に明らかに反する。また「良好に修了」とされるため、裁量の働く余地が生まれ、恣意的な運用を招きかねない。他方、技能実習2号修了者は、一定の期間帰国することなく、継続して特定技能1号として働くことが認められる。これは制度的不整合と言わざるをえない。さらに言えば、技能実習制度の終焉を宣言したに等しい。

家族の帯同は人権である

 特定技能1号では、基本的人権のひとつである家族の帯同が認められておらず、「人間」としてあたりまえの生活が奪われる制度になっている。ここには、特定技能1号で働く労働者を単に「労働力」としてのみ受け入れ、定住を可能な限り制限したいという政府の姿勢が端的に表れている。家族の帯同を認めるべきである。

II . 総合的対応策について

目指すべき「共生」のビジョンを明確にすべきである

 「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策」は、「共生」をうたいつつ、健康保険の被扶養者や国民年金の第3号被保険者の制限(施策番号94)、法務省と厚生労働省間の情報共有による就労管理・在留管理の強化(施策番号116,117)など、排除を目的とする施策が少なくない。「共生」のビジョンを定めた基本法を制定し、そのビジョンのもとで取組みを検討する必要がある。


自治体・NPO/NGO任せで、国が責任をもって取り組むという姿勢がない

 生活サービスや日本語学習機会の提供の主体は自治体であり、国の主な役割は、交付金や

補助金等による自治体支援にとどまっている(施策番号7,8,16,18,48~52,61~66など)。さらに、補助金等の申請対象の自治体は、都道府県や政令指定都市等に限られ、取組みが進んでいない小規模自治体が含まれていないことから、外国人支援の地域格差が拡大することも懸念される。

差別の現実に対する実効性ある取組みが必要である

 法務省の外国人住民調査からも、就職差別や雇用差別、入居差別など深刻な差別の実態が明らかになった。しかし、啓発活動、人権相談や救済手続きの多言語化、要請やリーフレットの配布など、従来型の取組みが列挙されているのみで、実効性ある取組みが示されていない(施策番号3~6,41,42,87など)。差別の現実を踏まえれば、差別禁止法の制定が必要である。

格差(社会経済的不平等)の現実に向き合っていない

 不安定な雇用、低い高校進学率や高い高校中退率など、労働市場や教育達成において、外国人と日本人との間に明らかな格差が存在していることに対する現状認識がない。客観的統計を整備したうえで、格差の現実を直視し、積極的差別是正措置の導入が必要である。

異なる文化的背景を尊重すべきである

 受入れ社会の公用語である日本語教育に関する取組みがある一方で、母語や母文化を評価し、その継承を支援する取組みがない。マイノリティのアイデンティティや自尊心の保障という個人の視点からも、豊かな多文化社会の実現という社会の視点からも、異なる文化的背景を尊重する政策と基本法が必要である。

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