本日(2018年11月22日)、衆議院法務委員会にて、移住連代表理事の鳥井一平が参考人意見陳述を行いました。陳述の全文をアップします。
2018年11月22日
衆議院法務委員会参考人意見陳述
Ⅰ はじめに
移住連の代表理事を務めています鳥井一平と申します。特定非営利活動法人移住者と連帯する全国ネットワーク、略称、移住連といいます。本日はこのような場で発言をさせていただくことに、冒頭、まず感謝申し上げます。
実は私は、この法務委員会で意見陳述をさせていただくのは4回目となります。2009年の入管法改正、2014年、2016年技能実習法案審議、そして今回となります。ただ、これまでの3回に比べて、国会での審議が殆ど重ねられないうちに、お呼びいただいたというのが実感ですし、そのいことが本法案審議の問題を象徴している一つでもあるのではないかと憂慮しています。
さて、私たちの移住連は、1980年代からこの日本の労働市場の求めによって急増した移住労働者とその家族、ニューカマーの人々に対する差別、人権侵害や労働問題をとりくんできた全国各地のNGO や労働団体によって1997年につくられた全国ネットワークで、2015年にNPO 法人として再スタートしています。現在、全国の142の団体会員と研究者、弁護士、地域の活動家など483人の個人会員に参加していただいております。
また、私自身は個人加盟の労働組合、全統一労働組合の特別中央執行委員であり、バブル経済化のニューカマーの外国人労働者との関わりは30年を超えています。直接的に労働問題に取り組んだのが1990年からです。
そして同時に外国人技能実習生権利ネットワークの運営委員をスタート当初から務めており、人身売買禁止全国ネットワーク(JNATIP)の共同代表として、政府の人身取引対策に関する関係省庁連絡会議との情報提供、意見交換も行わせていただいております。
さて、本法案について述べていきます。限られた時間での陳述ですから、どの程度私の考え、30年間の思いを伝えられるのか不安ですが。
Ⅱ ゆがんだ移民政策
本法案審議は、直接的には本年2月のタスクフォース設置からスタートしている訳ですが、移民かどうか、移民政策というのか否かなどの非論理的議論があったことにまず強い違和感を抱きます。すでにこの日本社会には多くの外国籍住民、そして移民が存在しています。移民の存在や活躍を無視した「移民政策ではない」と強弁することは、今、この社会に居る移民の人権、人格権、生活権を顧みない、あるいは否定を宣言しているようなものです。今社会問題となっているヘイトスピーチの原因のひとつも移民の存在を否定する政治的リーダーシップにあると考えます。
この約30年をとってみても、移民政策がないのではなく、ゆがんだ移民政策をこの社会はとってきたのです。「受入れ」政策でいうと、まず、1980年代後半からバブル経済を背景に「オーバーステイ容認政策」をとりました。1993年には30万人を越える非正規滞在者が働いていたことは「容認政策」と言う以外に説明がつきません。次に1990年からの「日系ビザ」の導入政策です。「(おもに中南米に)出稼ぎに行った移民に帰ってきてもらえばいい」という安直な政策で、「来てみたら外国人」だったという愚かな政策です。そして1993年からひたひたと拡大させてきた外国人研修・技能実習制度です。2010年には、国際社会からの奴隷労働、人身売買との批判をかわす意味も含めて、研修制度を分離し、労働者受入れ制度として、外国人技能実習制度を活用することに大きく舵を切りました。更に留学制度を悪用した労働者受入れも拡大させてきました。
お手元の「絵解き」をご覧下さい。今の外国人労働者「受入れ」の歪みが数字として表れています。労働者としての在留資格で入国し働いている外国人労働者が19%で、働くことを目的としないはずの技能実習生と留学生で40%を越えています。これを「おかしい」、「ゆがんでいる」となぜ言えない、言わないのでしょうか。
農業では外国人労働者の内、79.2%が、そして建設では66.3%が技能実習生です。おかしいのです。留学では、在留数との単純比較で83%の留学生が働いていることになります。こんな国は世界中探してもどこにも見当たらないでしょう。おかしいのです。ゆがんでいるのです。目的外の在留資格に偽装しているのは外国人労働者ではなく、私たちの社会であること、私たちが偽装しているのです。(かつての「興行」問題に対する国際社会からの厳しい批判)
ゆがんだ移民政策、「受入れ」政策は、人権侵害、労働基準崩壊をもたらし、民主主義を壊しています。その象徴的な歪みが外国人技能実習制度です。奴隷労働構造(絵解き)のもとに外国人労働者を置いています。「開発途上国への技術移転」など微塵のかけらもありません。今なお続く「時給300円」や「強制帰国」など劣悪な労働条件、人権侵害にも、残念ながら、私たちの社会は、私たち自身は、なかなか「おかしい」と「ゆがんでいる」と言わずに来ました。
まず「おかしい」と、声を上げたのは国際社会でした。2007年のアメリカ国務省の人身売買年次報告書での指摘に始まり、国連などから厳しい改善の勧告が重ねられてみました。
この技能実習制度については後ほど詳しく述べられる参考人もおられるようですので譲ることにしますが、百害あって一利無しの技能実習制度の速やかなる廃止を強く求めます。
Ⅲ 移住連としての基本的考え方
お手元にあります移住連としての「意見」をご参照ください。
(1) まず申し上げたいのは「外国人材」ではない!ということです。
「おかしい」ことのひとつが、いつの間にか「外国人労働者」が「外国人材」に単語として置き換えられたことです。第二次安倍内閣の発足以降、「外国人材」という表現が政府内で用いられるようになりました。このことは、労働力を「商品」として捉え、その有用性のみを「活用」しようとする姿勢を端的に表しています。労働者・生活者としての権利を保障し、同じ社会で共に生きる「人間」として迎え入れるという大前提のもと、「外国人材」という用語の使用はやめるべきです。
(2) 外国人労働者に家族帯同の権利の付与を!
法案では、「深刻な労働力不足」に対応し、日本社会の「経済・社会基盤の持続可能性」に寄与するために、「相当程度の知識又は経験を必要とする技能を要する業務に従事する活動」(在留資格「特定技能1号」)には、家族の帯同が認められていませんが、最長5年間、家族が離れ離れになる可能性があることは人道的に極めて問題です。また、「担い手」を求める善良な経営者たちからも「安定的に働いてもらうには家族帯同を」との声があることに傾聴すべきです。見直しを強く求めます。
(3) 技能実習制度の廃止を!
法案には明記されていませんが、すでに公然と技能実習制度において技能実習2号修了者が、「特定技能1 号」へ無試験で移行することが可能とされています。こんなおかしな話はありません。技能実習制度は、開発途上国への技能等を移転することを本来の目的としてきましたが、実際には人手不足対策に利用され、さまざまな人権侵害を引き起こしてきたことはすでに述べてきました。私たちの批判にも、厚労省や法務省は「目的」を盾に詭弁を弄してきましたが、「技能実習」から「特定技能」への移行は、建前、看板を放り投げ、技能実習制度が「労働力補充システム」であることを認めたことを意味します。技能実習制度は、ただちに廃止されるべきです。
(4) 雇用の調整弁として外国人労働者を利用すべきではない!
新たに受け入れる外国人労働者の雇用形態について法案には明記されていないが、「政府基本方針骨子案」では、原則として直接雇用としながらも、分野の特性に応じて派遣形態も可能としています。外国人雇用状況の届出(2017年10月)によれば、外国人労働者の21.4%が間接雇用であり、労働者全体の3%程度と比較して間接雇用比率が高くなっており、そのことが、外国人労働者の就労の不安定さの原因にもなっています。新制度における受入れは、直接雇用に限るべきです。
さらに、法案では、「特定産業分野において必要とされる人材が確保されたと認めるときは」「一時的に」受入れ停止措置をとることとされています。これは、新たに受け入れる外国人労働者を雇用の調整弁として利用することを容認するものです。見直しを強く求めます。
(5) 外国人労働者への「支援」は国や地方自治体が行うべき!
受入れ機関や登録支援機関に、新たに受け入れる外国人労働者に対する一次的な「支援」を担わせるべきではありません。受入れ機関と登録支援機関の役割は、技能実習制度における企業単独型の実習実施者、及び団体監理型の監理団体のものに類似しています。技能実習制度において見られたような「支援」の名を借りたブローカーの介在を許してはなりません。「支援」は「支援」として国と地方自治体が行うべきです。新たに受け入れる外国人労働者に対する「生活のための日本語習得の支援」についても、受入れ機関や登録支援機関にまかせるのではなく、国や自治体など公的機関が責任をもって行うべきで、そのために必要な予算措置を講じるべきです。
(6) 悪質な紹介業者の介在を排除するしくみの構築を!
「悪質な仲介業者等の介在の防止策」が、法案には明記されていません。技能実習制度の経験、教訓が示すように、民間の送出し機関に頼っていては、悪質な紹介業者を実質的に排除することは不可能です。新たな外国人労働者の権利を保障するためには、技能実習生や留学生の送出しと切り離し、公的な送出し機関と国レベルで契約することが求められます。
2 法務省は司令塔的役割を果たすべきではない!
「骨太の方針」には、「外国人の受入れ環境の整備は法務省が総合的調整機能を持つ司令塔的役割を果たす」とありますが、法務省設置法の改定案では、法務省の任務は「出入国及び外国人の在留の公正な管理を図ること」とされています。そして、当該任務を担うことを目的として、法務省の外局として「出入国在留管理庁」が設置されることで、管理強化のみが進行することが懸念されます。実際すでに、事実に反したデマの「健康保険ただ乗り」論で、医療現場、自治体窓口での入管との連携による外国人監理が強化されようとしています。この際、はっきり申し上げますが、この30年を限って言っても、外国人労働者が税金や社会保険料、労働保険料を払いっぱなしです。見合った行政サービスを受けていません。また、外国人労働者を社会保険加入させない派遣会社など事業主の問題がずっと続いています。
外国人労働者の新たな受入れにあたっては、「管理」よりも「支援」や「共生」が優先されるべきであることから、「総合的調整機能を持つ司令塔的役割」は、既存の省庁においては「内閣府」が担うべきです。内閣府において対応が難しい場合は、専門的省庁が別途設置されるべきです。
外国人労働者とその家族は、すでにこの社会において、事業の担い手、産業の担い手、地域の担い手として活躍しています。この事実を直視した移民政策こそが求められています。
外国人労働者の「受入れ」とは、「人間」の「受入れ」です。移住者とその家族をはじめ日本社会に生きるすべての人々が対等な立場で社会に参加し、主体的に議論することで、まっとうな移民政策を確立していかなければなりません。そのためには、出入国管理及び難民認定法だけでは不十分であることは、少なくともこの30年間に引き起こされた外国人労働者とその家族の人権問題、労働問題等の事実から明らかです。これらを教訓とし、よりよい多民族・多文化共生社会に向けた、包括的な「移民基本法」と実質的な差別解消を担保する「差別禁止法」を制定することをあらためて提言したいと考えます。
Ⅳ 最後に
私は、1993年3月8日の「外国人春闘」以降、毎年各省庁と交渉(意見交換)を行ってきました。今年で26回目となりました。1998年には千葉県銚子事件で外国人研修・技能実習制度問題に出会い、2005年に「時給300円」の実態を知らされ、「強制帰国」にも遭遇しました。この約30年、現場で様々な「事件」と向き合ってきました。「100の相談に100の物語」がありました。労働問題だけではありません。生活全般にわたる「事件」です。子どもの教育、差別に苦しむ子どもたち。恋愛や結婚、妊娠や出産、病気、交通事故、住宅ローンやクレジットカードなど日々の生活に関わる様々な事柄です。先にも述べましたが、この社会の一員としての見合った行政サービスや参加する権利が保障されていません。
ただもう一方で、外国人労働者とその家族こそが、私たちのこの社会の労働基準、福祉、行政、教育などの課題を顕在化させたことも事実です。外国人労働者問題は外国人が引き起こす問題ではなく顕在化させたこの社会の問題、課題なのです。25年間の省庁交渉(意見交換)で、この社会の課題は明らかとなっています。
外国籍住民や家族への人権侵害の一番の大きな原因が、移民がいないことにしている政治的リーダーシップにあります。そして外国人労働者を労働者として正面から受け入れないことにあります。この社会の1人1人に多民族・多文化共生社会の意識を醸成させていない要因です。
外国人労働者を使い捨ての「即戦力」でなく、この社会、産業の担い手として、働く仲間、同僚、地域の一員、隣人として受け入れることが求められます。
民主主義を深化させるのか否か。奴隷労働と対決、決別するのか否か。まやかしの外国人技能実習制度を温存し、活用したゆがんだ「受入れ」を続けるのか否か。労働者を名実ともに労働者としてこの社会に受け入れる、まっとうな移民政策こそが求められています。
戦争という大きな失敗を教訓化してきた70年がある私たち、この30年の外国人労働者とその家族による活躍と顕在化した課題を知っている私たちにこそ、地球規模的共通課題である移民政策を、正面から議論し、労使対等原則が担保された多民族・多文化共生社会、つまり民主主義の深化が実現できるはずです。
今、チャンスです。「人手不足」、2020年東京オリンピック・パラリンピックを契機に実現するべきは、民主主義の深化のはずです。
多民族・多文化共生社会はすでに始まっています。移民はすでにこの社会で活躍しています。違いを尊重し合う労使対等原則が担保された多民族・多文化共生社会は必ず実現できます。まずは労働者を労働者として受け入れる制度設計です。みなさん、政治的リーダーの決断で必ず実現できます。
ご静聴ありがとうございました。
特定非営利活動法人 移住者と連帯する全国ネットワーク
代表理事 鳥井一平