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2018.11.15 声明・意見

【緊急要請】健康保険・年金における扶養家族の国内居住要件設置について

移住連は、今国会において審議されている「新たな外国人材の受け入れ」に関連し、健康保険や年金における扶養家族への給付に国内居住要件を設ける案が提起されていることにかんし、以下のように緊急要請を提出しました。

(PDF版)

扶養家族国内居住要件設定に関する緊急要請


<緊急要請>

内閣総理大臣 安倍 晋三 様
厚生労働大臣 根本 匠  様

 

外国人労働者の受け入れ拡大を理由として、健康保険や年金における扶養家族の国内居住要件を設けることを直ちに中止してください!!

 今国会において、新たな外国人労働者受け入れ拡大法案の審議が進む中で、健康保険や年金における扶養家族への給付について、国籍を問わず一律に国内居住要件を設ける案が提起されています。
この根拠として、外国人増加による健康保険の「不適正利用」や「財政悪化」などの懸念が示されています。またその背景には、一連の「外国人健康保険ただ乗りキャンペーン」等のデマやフェイクニュースがあると考えられます。
 しかし、外国人労働者の受入れ拡大が、公的保険制度の不適正利用の増加や財政悪化につながるということは全く実証されていません。雇用される労働者であれば勤め先の健康保険に、留学生であれば、居住する地域の国民健康保険に加入し、保険料を支払う義務が生じます。そして、給付される医療の内容もレベルも日本人と全く同じです。
 にもかかわらず、出身国や入国期間、入国の経緯において給付内容に差異を設けることは、負担と給付の不公平が生じ、だれもが能力に応じて負担し、必要に応じて給付を受ける、という皆保険制度の理念に反します。

 今回の健康保険、年金の見直し論議において、国会議員や一部のメディアは「海外に住む家族も保険を使える今の制度のままだと、外国人労働者の増加に伴い医療費負担が膨らむ」と主張しています。しかしこれについても、何ら実証データはありません。

 そもそも海外に住む家族が健康保険や年金に加入し利用しているのは、外国人だけではありません。日本人で海外居住の健康保険家族資格者や、海外療養費制度の利用者、あるいは海外に居住して年金を受給して生活している人もいます。これらの人たちの権利を犠牲にしてまで、外国人労働者受け入れのために、あらたに給付制限を設ける意味が、いったいどれだけあるというのでしょうか。
報道によれば、厚生労働省は、海外で暮らす留学生駐在者などに一部例外措置を検討しているようです。とはいえ、留学や駐在にも様々なパターンがあるため、差別にならない形で合理的な線引きを行うことは困難である、という声は厚労省内からも上がっています。また、配偶者の年金受給権に国内居住要件を設けることも、生活スタイルの違いによって、年金給付を受けられるケースとそうでないケースとが発生することにより、年金保険料負担と年金受給権との間に重大な不公平を持ち込む結果となります。
 さらに、山下法務大臣は、11月9日の衆議院法務委員会において、新たな制度で受け入れる外国人の社会保険料の滞納が悪質な場合には、在留を認めない方向で検討している、と答弁しています。しかし労働者の健康保険料は給与からの天引きされるものですから、滞納のしようがありません。むしろ現実には、少なからずの外国人労働者が、企業から社会保険に加入させてもらえていません。それゆえ取り締まるべきは、労働者を社会保険に入れない雇用主の方でないでしょうか。国民健康保険についても、滞納者の在留資格をはく奪し、強制的に送還すれば、多額の未納債権が保険者である自治体に残され、結果的にそれは市民の税金によって賄われることになります。先の法務大臣の答弁は、まさに「木を見て森を見ない」主張であるとのそしりを免れえません。

 新たに受け入れる外国人労働者にも平等に公的保険制度を適用することは、制度の安定性を増すことにつながります。今回の外国人労働者の受入れ拡大の背景には、人口減による労働力不足がありますが、「働き手が不足している」ということは、公的医療保険である健康保険、国民健康保険の担い手(保険料を払う人)も少なくなってきていることを意味します。したがって、受け入れた「働きざかり」の外国人労働者に健康保険に加入してもらうことは、日本の公的医療保険を財政面から強化することにもつながります。そして当然のことながら、保険料の負担を求める以上、給付内容に差異を設けることがあってはなりません。

 今後、国境を越えた「人」の移動が一段と活発になる中で、公的保険制度の在り方も、移動や移住を視野に入れた制度へと変貌を遂げていく必要があると考えます。しかし前述のように、すでに働いている外国人労働者のなかにもこの制度から漏れている人が少なくありません。くわえて国連からも度々勧告を受けている在日高齢者・障がい者の無年金問題も解決していません。
なお健康保険や年金保険における扶養の在り方については、従前から「女性の社会進出」の観点からも見直しが提起されてきました。このような本来取り組むべき課題を放置したまま、「海外に住む家族も保険を使える今の制度のままだと、外国人労働者の増加に伴い医療費負担が膨らむ」という、何の根拠も必然性も、そして合理性もない一部の主張に応える、というだけの理由で制度を「見直す」ことは、公的医療保険、年金保険制度をいっそう不公平、不平等なものとし、また新たに受け入れる外国人労働者への差別、労働者間の分断にもつながり、到底看過できるものではありません。


 私たち移住連は、外国人労働者受入れ拡大を理由とした、健康保険や年金における扶養家族の国内居住要件を設けようとする、拙速な論議、場当たり的な対応を、直ちに中止することを強く求めます。

2018年11月15日

(特非)移住者と連帯する全国ネットワーク
代表理事 鳥井 一平

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