
2026年4月21日の衆議院法務委員会で移住連理事・弁護士の鈴木雅子が参考人として意見陳述を行いました。
下記、原稿全文を掲載いたします。
当日の法務委員会の様子は衆議院HP(https://www.shugiintv.go.jp/jp/index.php?ex=VL&deli_id=56191&media_type=)から録画をご視聴いただけます。
意見陳述(原稿全文)
本日は、発言の機会をいただき、ありがとうございます。鈴木雅子と申します。
移住連、特定非営利活動法人移住者と連帯する全国ネットワークの理事をしております。また、弁護士として、25年以上、様々な国籍の方の事件を扱ってきております。
現在審議されております入管法改定法案のうち、手数料の引き上げについてお話をさせていただきたいと思います。
入管庁は、在留諸申請手数料について在留資格の付与という「恩恵」の「対価」であると説明しています。しかし、同手数料はわずか一年前にも引き上げられているところ、ある特定の財やサービスの対価が、わずか一年で突然10倍になったり、20倍になったりすることは、安定した国家においては通常起きません。
にもかかわらず、このような値上げがされようとするのは、外国人の適正かつ円滑な受入れや秩序ある共生社会の実現に向けた受入れ環境整備等に係る各種施策を強化・拡充することが不可欠であり、そのため、受益者負担の観点から外国人に相応の負担を求める必要があるからと説明されています。これを受け、入管庁が説明するとおり現在までの入管法における手数料が実費を中心に定められていたのに対し、改定法案においては、実際の額を決める際に勘案する要素として、「実費並びに外国人の適正な在留の確保に関する事務に要する費用、本法に適法に在留する外国人が安定的かつ円滑に在留することができるようにするための支援に関する事務費用、その他の外国人の出入国及び在留の公正な管理に要する費用の額及び諸外国における同種の手数料」が挙げられています。
つまり、この改定法案は、在留諸申請の手数料額の定め方を根本的に変えようとするものです。
また、これまでの審議で、手数料額の決定にあたり、「外国人の出入国及び在留の公正な管理に要する費用」の具体的内容として、入管庁から、デジタル技術の活用による出入国在留管理行政のDXの推進、難民等の適切かつ迅速な保護支援、国民の安全安心のための不法滞在者ゼロプランの強力な推進、外国人が日本語や我が国の制度・ルール等を学習するプログラムの創設の検討、情報発信・相談体制の強化などの外国人が日本社会に円滑に適応するための取組などが挙げられています。
しかしながら、ご留意いただきたいのは、今回の値上げの対象に、新たに日本に入ってくるために必要な手続は入っておらず、既に日本にいる方の正規の在留継続のための手続のみが対象であるということです。日本は出生地主義をごくわずかな例外を除き取っていないので、これらの手続をする方の中には、日本生まれの、いわゆる移民2世3世もいます。日本語が母語である人もいます。
にもかかわらず、こうした人たちをすべて「外国人」としてひとまとめにしてこれらの施策の「受益者」とするのは、論理的ではありません。共生社会、つまり日本国籍を持つものと持たない者とが共に生きていく社会の実現の受益者は、日本社会全体のはずです。その実現に向けた負担を一方的に外国人に押し付けようとする限り、共生社会は決して実現しないのではないでしょうか。また、言うまでもなく「国民の安全安心のための不法滞在者ゼロプランの強力な推進」の受益者が、正規在留を継続しようとする外国人であるはずもありません。
このように「外国人」としてひとまとめにしてこれらの施策の「受益者」として、手数料という形でその負担を負わせようとするのは、論理的でないだけでなく、憲法上、国際人権法上も深刻な疑義を生じさせます。
第1に、租税法律主義との関係です。
憲法84条は、「あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする。」と定めています。
在留諸申請にかかる手数料は、「税」という名目ではありませんが、そのことは直ちに租税法律主義と無関係であることを意味しません。国民健康保険料に関する平成18年3月1日最高裁大法廷判決は、「課税権に基づき,その経費に充てるための資金を調達する目的をもって,特別の給付に対する反対給付としてでなく,一定の要件に該当するすべての者に対して課する金銭給付は,その形式のいかんにかかわらず,憲法84条に規定する租税に当たる。」としています。その上で、国民健康保険の保険料は,「保険給付を受け得ることに対する反対給付として徴収される」ことを理由として、憲法84条の規定が直接に適用されないとしたものの、「強制加入とされ,保険料が強制徴収され,賦課徴収の強制の度合いにおいては租税に類似する性質を有するものであるから,これについても憲法84条の趣旨が及ぶと解すべき」としています。
上記に照らして入管の手数料を検討すれば、外国籍者が日本に正規在留しようとする限り、その支払いは必須であり、実質的には強制です。また、手数料は、一般財源に組み入れられるものであって、使途が限定されていません。この点、政府は、「外国人関連施策」に充てる予定であるとはしていますが、入管庁があげている具体的施策を見れば明らかなとおり、施策の中には、合法的に日本に滞在する外国籍者には無関係な施策が少なくなく、ましてや長年日本に居住する者や日本生まれの外国籍者に至ってはほぼ無関係なものばかりであって、「反対給付」として徴収されるものとも考えられません。したがって、在留諸申請手数料は、実質的に「租税」にあたる、少なくとも、憲法84条の趣旨が及ぶように思われます。にもかかわらず、本改定案では、かなり高額な上限と抽象的な考慮要素のみを定め、在留期間による額の区別や減免の対象を含め、全面的に政令に白紙委任していることからすれば、憲法84条の趣旨に反し、許容されないと考えられます。
第2に、憲法14条や自由権規約26条が定める平等原則との関係です。
今般値上げ予定の手数料のうち、実費相当分は1万円ないし2万円であり、その大部分が実費以外にあてられることが見込まれています。しかしながら、既に述べたとおり、その施策は長年日本に居住する者や日本生まれの外国籍者にはほぼ無関係なものばかりであって、「反対給付」でも「恩恵」に対する「対価」でもありません。それにもかかわらず、日本国籍を有していないというだけの理由で、自身と無関係な施策のための費用を「手数料」という名目で強制的に徴収し、負担させるのは、憲法14条や自由権規約26条の禁ずる平等原則に抵触するのではないかとの疑念を強く想起させます。
既に述べたとおり、昭和56年の制定時は実費を基本として手数料額が定められたことから、これらの点は、これまで一度も国会で議論されたことがありません。本改定案については、国会において、憲法や条約との適合性についても、十分な議論が必要です。
なお、入管庁は、手数料収入を充てる予定の具体的施策の一つに、「難民等の適切かつ迅速な保護支援」を挙げています。しかしながら、難民認定や難民保護は日本が難民条約締約国の責務として行うものであり、国の裁量に基づく出入国管理手続とは全く別の手続ですから、難民認定や難民保護にかかる費用を、改定法案67条2項に挙げられている「外国人の出入国及び在留の公正な管理に関する費用」に含むことも、誤りです。
もう一つの考慮要素である「諸外国における同種の手数料の額」についても、大きな疑義があります。これまで諸外国の例として挙げられているのは、仕事を理由とする在留資格のみであり、国籍者の配偶者などその身分や地位に基づく在留資格についての例は挙げられていないようです。しかも、円安や日本との賃金や物価の差も考慮されていません。これで「諸外国における同種の手数料」が検討されたとは、とても言えません。資料2においても、台湾やドイツに住む日本国籍者の方から、自分たちの支払う手数料に比べても、今回の改定案が高すぎるというメッセージも寄せられています。
急激な引き上げの実際上の影響も、極めて深刻です。
日本国籍を持たない人が日本で生きていくために、在留資格は、水道や電気、住居と同様、あるいはそれ以上に欠かせないものです。とりわけ政府・入管庁は「不法滞在者ゼロプラン」を掲げ、在留資格のない非正規滞在を容認しない姿勢を明確にしています。また、日本では出生による国籍取得や帰化が、法律上も実務上も他の先進国と比べて非常に限定されているうえ、政府・入管庁は永住や帰化の要件をこれまで以上に厳格化する方針であると報じられています。すなわち、日本国籍を持たない多くの人々は、在留申請を繰り返さざるを得ない状況に置かれています。
そのような状況において、生きていくために不可欠な在留資格を維持するための費用が、このように急激に引き上げられれば、当事者やその家族の生活に極めて深刻な影響を及ぼします。場合によっては、これまで日本で築いてきた生活を奪ったり、家族の分離を招いたり、迫害のおそれのある国に帰ることを事実上強いることになりかねません。
例えば、収入が低い場合、一回の更新や変更で与えられる在留期間は短くなる傾向にありますが、入管庁が予定しているところによれば、在留期間が1年の場合手数料は3万円、4人家族なら12万円です。収入の低い家庭が無理なく賄える額でしょうか。また、3カ月以下の人は更新毎に1万ということですが、3カ月以下の在留資格の人の多くはそもそも働くことも認められていません。
受益者負担ということばかりが言われていますが、負担能力を無視するのは、安定した制度につながらないのではないでしょうか。
金額の具体的な決定や減免の対象を行政に委ねるというのも、既に述べた法的な観点のほか、実際上も極めて大きな問題です。
現在の法案では、永住許可にあたっての減免を日本人、永住者、特別永住者の配偶者と子、難民・補完的保護対象者に限定するとしている以外、減免の対象については、政令に委ねるとしています。つまり、法案では、何を減免の対象としてはいけないかのみを決め、後は全て行政に委ねています。そして、現在までに、具体的にどのような者が減免の対象となるのかは全く明らかになっていません。定められ方によっては、難民条約や子どもの権利条約等との抵触も問題になるほか、人道上きわめて過酷な事態が生じることが懸念されます。
2023年の非正規滞在者を主たる対象とした法改定、2024年の永住資格の取消事由の拡大と管理・排除を強化する法改定が立て続けになされ、さらには、昨年秋ころから、外国人を巡る政策については、嵐のような方針の変更が行政のレベルで続いています。これらの方針変更については、国会で全く議論をされることもなく、その必要性や影響についての説明すら、ほとんどあるいはまったく公の場でされていません。多くの外国籍者の人生、生活が極めて大きな影響を受けるにもかかわらずです。当事者たちは本当に混乱し、振り回され、落胆しています。
さらに追い打ちをかけるのが本改定法案、すなわち、特別永住者と永住者を除くすべての外国籍者に影響を与える急激かつ大幅な手数料の引き上げです。まじめに日本で生活してきた外国籍者の人生、生活があまりにないがしろにされているように思われます。
改定法案が目指す急激かつ過大な手数料の引き上げが、憲法上や条約上問題を生じないのか、外国籍者に対する実際上の影響は許容されうるものか、さらには本当に日本社会にとって望ましいものであるかなど、国会で十分に議論いただく必要があると考えます。
移住連では、3月16日、在留審査手数料を過大に引き上げる法案に反対する声明を発出し、また、この法案に関するメッセージを募集しました。わずか10日ほどで、120件以上のメッセージが寄せられました。声明については資料1、メッセージについては資料2としてお配りしています。最後に、メッセージの中からいくつかご紹介します。
【21才 特定技能 インドネシア】
・・・現場で働く外国⼈の声を無視しないでください。・・・私たちは数字や統計の⼀部ではありません。それぞれが⽣活を築き、責任を背負って働いています。このような決定が続けば、⽇本で働き続けること⾃体を⾒直さざるを得ない⼈も増えていくはずです。・・・そもそも、私たち外国⼈労働者は、⽇本側の⼈⼿不⾜を補うために、⼤規模に受け⼊れられてきた存在です。⾃分の意思だけで来たわけではなく、⽇本からの求⼈や制度に応じて来⽇しています。そのために、多くの時間とお⾦をかけて⽇本語を学び、慣れない環境の中で必死に努⼒してきました。家族と離れ、⺟国での⽣活を⼿放し、⼤きな覚悟を持って⽇本で働いています。
【27才 技術・人文知識・国際業務 ベトナム】
手数料の引き上げ自体は理解できますが、適正な範囲であるべきだと思います。現在の引き上げ額は高すぎて、家賃や光熱費など多くの生活費を負担する外国人、特に家族世帯には大きな負担です。合理的な金額を望みます。
【59才 永住者 フィリピン】
⽇本⼈夫の家庭内暴⼒で幼い⼦どもたちを連れて逃げないといけなかったフィリピン⼈⺟親が精神•⾝体がボロボロになっている中で⼦どもたちを育てるためにフラッシュバックが繰り返しながら働かなければならない状況で在留資格の⼿続きの⼿数料の引き上げでどんなに頑張っても貧困に成りかねない。⽇本で暮らすため、⽇本国籍の⼦どもたちと離ればなれにならないために在留資格⼿続きをしないといけない、この⼿数料を払うために働かないといけなくなる。⻑時間⺟親が働かないといけなくなる。ここでネグレクト、ヤングケアラー、虐待等の問題が起きる可能性が⾼い。
【56才 日本国籍(夫が外国籍)】
夫は、⽇本⼈の嫌ういわゆる3Kの仕事をして、妻の私も働いて、2⼈の多くはない給料で、夫婦それぞれの親を⽀えて、真⾯⽬に税⾦、年⾦を払って、物価の⾼騰…⽣活に余裕はありません。それでこのビザ更新料です。これを払えなければ、夫は帰国しろということです。
国が夫婦を離婚‧別居に追い込むのですか?それとも、そんなに外国⼈と婚姻⽣活続けたいなら、私も⽇本から出て⾏けということでしょうか?
時間の関係上すべてをご紹介することはできませんが、外国籍者に与える具体的な影響や、日本社会にとっての悪影響を及ぼす懸念など、様々な声が寄せられています。ぜひ、お目通しください。
ご清聴ありがとうございました。