政府が「入管法改正案Q&A」を発表しました。ここでは、退去強制命令を受けていながら帰国できない、また、収容されている外国人について、「ルールを守らない人たち」であるから、「国外退去」すべきとの主張が展開されています。しかし、国際人権のルールを守っていないのは、政府(入管)のほうです。
以下、移住連より反論します。なお、ここに反論が示されていないQ1, 2 ,6, 8については、ページの一番下に掲載しました参考リンクをご参照ください。
〇 日本に在留する外国人の中には,ごく一部ですが,他人名義の旅券を用いるなどして不法に日本に入国した人,就労許可がないのに就労(不法就労)している人,許可された在留期間を超えて日本に滞在している人(※),日本の刑法等で定める様々な犯罪を行い,相当期間の実刑判決を受ける人たちがいます。
当庁の役割の一つは,このような日本のルールに違反し,日本への在留を認めることが好ましくない外国人を,法令に基づいた手続により強制的に国外に退去させることです。
(※)これらの行為は,不法入国,不法残留,資格外活動などの入管法上の退去を強制する理由となるだけでなく,犯罪として処罰の対象にもなります。
オーバーステイ、不法入国、不法就労をするに至る外国人にはさまざまな事情があります。それを前提として、入管法も、退去強制事由に該当する人であっても、日本への在留を認めるべき特別な事情がある場合には「在留特別許可」により在留を認めることが予定されています。法務省(現入管庁)の公表しているガイドラインや、過去の許可事例によれば、日本に配偶者や子がいること、本人や子が日本で長年在留していること等が、積極要素として考慮されることになっています。このように、日本に在留を認めるべき事情がある人については、これを適切に考慮して在留を認めることも、入管庁の重要な役割の一つです。
在留特別許可の判断については、国に一定の裁量があるとされてはいますが、恣意的な判断は許されず、裁量権の逸脱・濫用として裁判で違法とされたケースもあります。しかし、近年、判断が厳格化し、以前であれば許可されたようなケースに許可がされない場合が多くなっています。退去強制令書が発付されても帰国できない外国人の多くは、国籍国に送還されると迫害の危険があるケースのほか、配偶者や子が日本にいる、外国人自身が長年日本で生活してきた(子どものころから日本で育ったケースも)など、帰国が難しい事情があります。
1980年代ころから、さまざまな国の人が、さまざまな事情から日本にやってくるようになりました。1990年から2000年代はじめころまでは、日本の労働力不足を背景に、「不法」就労者が一定程度黙認・放置され、重要な労働力となっていました。また、1990年以降、表向きは「日本人との家族的つながり」を根拠に日系人を大量に受け入れましたが、教育などの適切な受入れ環境の整備を怠ったため、子どもや若者が日本社会に適応できないケースを生み出してしまいました。
国際貢献の美辞麗句で、さまざまな人権侵害を引き起こしている技能実習制度の構造的問題に対する根本的解決を先送りし続けているため、劣悪な環境に耐えかねて実習先を離れた技能実習生が不法就労やオーバーステイに追い込まれるという構造が生じています。
留学生30万人計画を掲げておきながら、奨学金などの支援体制を整えないまま、受入れ促進を市場に委ねたため、多額な借金をかかえてアルバイトに追われ、不法就労に追い込まれる等、留学生自身がその犠牲となっています。日本のルール自体に問題があり、その結果、退去強制事由に該当する外国人が生み出されてきたのです。入管庁は、このような構造を生み出したことを、まず反省するべきです。
なぜ「ルール」が守れない状況に追い込まれたかを考えてください。
現行法の下でも、入管は、退去強制令書が発付された外国人をその意思に反して強制送還することができます。実際、退去強制令書が発付された外国人の大半は、発付後すぐか、しばらくたってからかといった違いこそあれ、自主的に帰国するか、送還の執行を受けて帰国しており、入管庁のいうところの「送還忌避者」が滞留して増加していくという状況は生じていません。「退去強制の対象になった外国人を国外に退去させることができない」という状態は、現行法の下でも生じていませんし、今後、生じるおそれもありません。
退去強制令書が発付された後も、帰国することができない外国人は、数として多くはありませんが、日本の外国人受け入れ政策の長年にわたる歪みの犠牲となった人たちです。
国際人権規約、子どもの権利条約等の国際人権条約により保護された権利を尊重せず、外国人を犯罪者扱いしてより強硬な手段を導入することは、日本が必要とする外国人(入管庁のいう「ルール」を守る外国人)にとっても、あるいは諸外国からみても「日本は外国人の人権を軽視する国」という不信感につながります。つまり外国人の人権を尊重しない入管の姿勢は、人権や民主主義という価値を重視しない国という日本のイメージを生み出しかねず、それは、日本人も含め、日本に暮らすすべての人々にとって好ましいことではありません。
上で述べたとおり、現行法上も、退去強制令書が発付された外国人が退去を拒んだとしても、強制的に国外に退去させることは可能です。法改定は必要ありません。
また、難民やこれに準じた事情がある人については日本で庇護すること、日本に家族がいる・本人が日本で長年暮らしている等の事情も送還するかどうかの判断にあたって適切に考慮するのが、日本が批准している条約(難民条約、国際人権規約、子どもの権利条約等)に定められたルールです。
Q4 日本からの退去を拒む外国人は,本国に帰れない事情や日本にとどまらなければならない事情があるから,退去を拒んでいるのではありませんか?
この問いー「日本からの退去を拒む外国人」には、「本国に帰れない事情や日本にとどまらなければならない事情」があるのですかーに対する答えはシンプル、当然YESです。「日本からの退去を拒む外国人」はそれを訴えるために、難民申請をしたり、在留特別許可を求めたり、裁判をしているのです。また、帰れないからこそ、収容されながら退去を拒否しているのです。
政府の説明は、そうした外国人のうち主に難民申請者に焦点をあてたものになっていますが、この場合、まず確認すべきは、日本の難民認定率は0.5%以下ということです。
政府の説明では、あたかも難民認定制度が完璧で、かつ、適正に運用されているかのようなアピールをすることによって自分たちの判断を正当化し、不認定になった者たちがまるで「偽装」であったかのような印象を与えています。しかし「偽装」しているのは制度のほうではないでしょうか。
また難民以外でも、すでに日本に長く暮らしていたり、あるいは、日本に家族がいたり、日本生まれの子どもがいたり、あるいは人身取引の被害者など帰るに帰れない事情がある人もいます。しかし彼らの在留を認めるかどうかの判断においても、入管は、国連自由権規約が保障する子どもの最善の利益や家族の結合権といった権利を守っていません。くわえて、こうして在留資格がないまま働いてきた外国人を「安い労働力」として利用してきたのは日本社会であるにもかかわらず、「不要」になったら追放しようとするのはあまりにも無責任です。
さらに、彼らに在留資格をみとめる在留特別許可については、「在留を希望する理由,人道的な配慮の必要性などの諸般の事情(本国事情も含みます。),これらを総合的に勘案して」求めることができるとされていますが、かつては在留特別許可が認められていたようなケースが、今では認められなくなっています。入管の恣意的な判断ではなく、国際的なルールに沿って在留を認めるべきです。
<参考>
l 児玉晃一弁護士による反論(note)
Q1-2 https://note.com/koichi_kodama/n/ncd844ad72d32
Q3-4 https://note.com/koichi_kodama/n/nafba9b5fae59
Q5 https://note.com/koichi_kodama/n/n22c4617445c7
Q6-8 https://note.com/koichi_kodama/n/nabd37886abe9
l 難民支援協会による反論(twitter)
https://twitter.com/ja4refugees/status/1377108032627167232?s=20