移住者と連帯する全国ネットワーク(移住連)は、「国家戦略特別区域農業支援外国人受入事業 に関する指針(案)」に関する意見募集にあたり、2017年10月3日付で以下のパブリックコメントを提出いたしました。
●意見募集(パブコメ)
「国家戦略特別区域農業支援外国人受入事業 に関する指針(案)」に関する意見募集案件詳細
http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=095170960&Mode=0
「国家戦略特別区域農業支援外国人受入事業 に関する指針(案)」に関する意見
《意見》
1.指針案第3 適正受入管理協議会について
(1)第3第2項について
<意見>
「適正受入管理協議会は、前項に定める構成員の協議により、必要に応じて、当該構成員以外の機関をその構成員として加えることができる」とされているが、人権保護に関わるNGOや労働組合等の参加も可能とするべきである。
<理由>
外国人労働者は、一般的に、言語面での困難があったり、日本の社会状況への不案内などから、日本人労働者と比べて権利の脆弱性がある。さらに、農業の場合は、閉鎖的な空間に置かれることも考えられ、また農業経営体が労働契約関係について認識が十分でないことも多い。そうした農業をめぐる特性に鑑みて、的確な対応を促すことのできるNGOや労働組合等の参加は欠かせない。
2.指針案第5 特定機関による外国人農業支援人材の雇用
(1)第5第1項について
① 「フルタイムで雇用」という場合の、「フルタイム」の定義を具体的に明確にすべきである。
家事労働者の場合は、その「政令及び指針に関する解釈」において、フルタイムは「労働日数が週5日以上かつ年間217日以上であって、かつ、週労働時間が30時間以上(利用世帯との間の移動時間を含む。)」とされている。
農業支援人材の場合は、1年間よりも短い期間も想定されるので、例えば、「労働日数が週5日以上かつ6ヶ月間に120日以上(月平均20日以上)であって、かつ、週労働時間が35時間以上」とすることなどが考えられる。
② 「雇用契約を文書により締結しなければならない」とあるが、これを「雇用契約を当該外国人農業支援人材が理解できる言語を用いた文書により締結しなければならない」とすべきである。
なぜなら、農業支援人材自身が、十分に契約内容を理解することが、契約上の合意の大前提だからである。
(2)第5第2項について
「渡航に要する費用その他の費用の負担者、負担割合等を関係当事者の合意により明確かつ適切に定め、これを文書により締結しなければならない」とされているが、労働契約の期間が一定期間(6ヶ月)以上でない場合、また特定機関あるいは派遣先農業経営体の責めによる事情で渡航費用が発生する場合には、第一次的には特定機関(派遣元会社)が負担すべきである。
なぜなら、もし外国人農業支援人材がすべての渡航費用を負担する場合、短期間で往復するようなこととなれば、渡航費用の負担が極めて大きくなり、実質的に日本人と同等の報酬ということが実現できなくなるからである。また、受入れ側の責めによる事情で渡航費用が発生する場合は、第一次的には労働契約の当事者であり、また外国人農業支援人材を保護する責任があり、負担能力も相当有すると想定される特定機関において負担すべきである。
(3)第5第3項について
「第1項の報酬額は、同等の農業支援活動に日本人が従事する場合の報酬と同等額以上でなければならない」とされているが、少なくとも地域別に最低基準となる報酬額を定めるべきである。
なぜなら、農業においては、もともと家族的労働が多く雇用労働者は少ないため、比較すべき日本人労働者がいないということも生じうる。また、同じく「日本人が従事する場合の報酬と同等額以上」とされる技能実習生においては、高卒初任給をはるかに下回る最低賃金レベルというのが実態である。したがって、熟練作業者とされる外国人農業支援人材においても、同様の事態となることが懸念されるからである。
(4)第5第4項について
① 「農業支援活動を通算して3年以上行わせてはならない」とあるのは、「農業支援活動を通算して3年を超えて行わせてはならない」とすべきである。
なぜなら、農業支援活動を通算して3年まで認めるなら、「3年を超えて」と表現すべきであるから。
② また、農業支援活動に従事する最短の期間は、少なくとも1期6ヶ月以上とすべきである。
なぜなら、外国人農業支援人材の雇用を安定させるためには、通算ではなく、1期において最短の雇用期間に関する制限を設けるべきだからである。
(5)第5第7項について
「外国人農業支援人材による農業支援活動の提供に著しい支障を来すおそれがあり、かつ、外国人農業支援人材が同意するときは、派遣先農業経営体が保有する住居を外国人農業支援人材の住居とすることができる」とされているが、こうした例外は認めるべきでない。
なぜなら、外国人技能実習の実態からみると、農業において派遣先農業経営体の住居を利用させることは、外国人農業支援人材を、セクシュアルハラスメントをはじめとする様々な人権問題を生起しやすい環境に置くことにもなるからである。
(6)第5第8項について
「当該外国人農業支援人材と合意し」とあるところは、「当該外国人農業支援人材と文書をもって合意し」とすべきである。
なぜなら、食費、居住費、その他の費用負担は労働契約内容の一部であり、また争いを避ける意味でも「文書をもって」確認すべきだからである。
(7)第5第9項について
「必要な研修」は、特定機関により農業支援活動を行う上で必要なものとして、業務上の指示に基づいて実施されるものであるから、争いを避けるために、法的に労働時間に含まれ賃金支払いの対象となることを労働契約上も明確にすべきである。
また、日本語研修については、最低限の実施時間数、その内容、目指すべき日本語能力水準(例えばN2レベル)等について、具体的に定めるべきである。
(8)第5第10項について
「特定機関は、外国人農業支援人材が、居住地域において安心して日常生活を営むために必要な支援を適切に実施しなければならない」とされているが、この点は特定機関の要件として、事務所の配置、人的体制等について客観的な基準を設けるべきである。
なぜなら、「必要な支援を適切に実施」とされるだけでは、その内容が不明であるばかりでなく、農業地域は交通の便が悪かったり、日用品の購入が容易でなかったり、休日の余暇にもこと欠く場合があり得るのであり、日常生活の支援には様々な考慮すべき事項がある。こうした事項に対応できる体制を確保するためには、一定の客観的な体制整備を要求すべきである。
3.指針案第6 外国人農業支援人材による農業支援活動の提供
(1)第6第3項について
「特定機関は、派遣先農業経営体が・・・外国人農業支援人材に農業支援活動以外の業務をさせないようにしなければならない。」とされているが、派遣による農業支援活動においては実際に業務上の指示をするのは、派遣先農業経営体である。したがって、派遣先農業経営体に関して定める第7において、「派遣先農業経営体は、外国人農業支援人材に農業支援活動(これに付随する業務を含む。)以外の業務をさせてはならない」との規定を設けるべきである。
4.指針案第7 特定機関による外国人農業支援人材の派遣
(1)第7第1項(1)について
① 「過去5年以内に労働者を一定期間以上雇用した経験がある者」とあるが、少なくとも3年以上の雇用経験とすべきである。また、この雇用経験に技能実習生の雇用は含めるべきでない。
なぜなら、もしこの期間を不適切な短期間で設定すれば、労働契約関係についての認識が弱いものが派遣先農業経営体となり、様々な問題を生起する可能性が高くなってしまうからである。また、技術・技能等の移転を目的とする技能実習における雇用と、熟練作業者を想定した特区制度による雇用は、その質を異にするばかりでなく、特区では派遣によるという特別な事情も加わるため、同一に扱うべきではないからである。
② 「派遣先責任者講習その他これに準ずる講習を受講した者を派遣先責任者とする者」とあるが、「これに準ずる講習」は除外すべきである。
なぜなら、もし派遣先責任者講習の要件を緩和すれば、ただでさえ労働契約関係について認識が弱いと想定される農業経営体において、派遣先としての責任を十全に果たせなくなる可能性が高いからである。また、一定期間の雇用経験があるところでも、派遣という形態に対する理解があるという保証はないのであり、派遣先責任者講習を受けさせるべきである。
③ 外国人農業支援人材を受け入れている農業経営体においては、技能実習生との同時利用を認めるべきでない。
なぜなら、技術・技能等の移転を目的とする技能実習における雇用と、熟練作業者を想定した特区制度による雇用は、その質を異にしており、同時利用を認めると、業務上の指示に混乱をきたす恐れがあり、それぞれの本来の目的が果たせない可能性があるからである。
(2)第7第1項(4)について
「労働時間、休憩及び休日について適切に配慮」とされているが、技能実習における農林水産省通知(2000年3月農林水産省農村振興局地域振興課通知「農業分野における技能実習移行に伴う留意事項について」、 2013年3月28日 農林水産省経営局就農・女性課長通知「 農業分野における技能実習生の労働条件の確保について 」)を踏まえた対応を、外国人農業支援人材に対しても適用すべきである。
なぜなら、同通知は「労働生産性の向上等のために、適切な労働時間管理を行い、他産業並みの労働環境等を目指していくことが必要」との観点から、「労働基準法の適用がない労働時間関係の労働条件についても、基本的に労働基準法の規定に準拠するものとする」としており、外国人農業支援人材の労働条件確保のためにも極めて妥当な対応だからである。
5.指針案第11 派遣先農業経営体への現地調査
(1)第11第1項について
「特定機関は、・・・派遣先農業経営体に、適正受入管理協議会による現地調査を受けさせなければならない」とされているが、現地調査は派遣先農業経営体だけでなく、外国人農業支援人材と直接面接して聞き取ることが必要である。また、その方法として、派遣先農業経営体及び特定機関の関係者がいない状況で行われるべきである。
そうでないと、外国人農業支援人材は、雇用の喪失等を恐れて真実を述べることが困難となるからである。
6.指針案第12 外国人家事支援人材の保護
(1)第12第1項について
「特定機関は、・・・派遣先農業経営体において外国人農業支援人材が不当に扱われた場合等に対応して、外国人農業支援人材を保護する仕組みを設けなければならない」とされているが、特定機関には具体的にどのような「仕組み」を要求するのか、例示的にでも明記すべきである。また、今後想定される「政令及び指針に関する解釈」において、具体的な仕組みを明らかにすべきである。
他方、適正受入管理協議会においても、各国家戦略特別区域において苦情及び相談窓口を設置するとともに、「外国人農業支援人材を保護する仕組み」を用意すべきものと考える。そして、その苦情及び相談窓口は、少数言語を含む外国人農業支援人材に対して母語対応を可能とするとともに、平日夜間や土日にも対応できるようにすべきである。また、「保護する仕組み」としては、緊急時に備えたシェルターの設置や、関係機関の間のスムーズな連携を実現するため、適正受入管理協議会の中に恒常的な対応ができる枠組み乃至組織の設置も含めるべきである。
7.指針案第14 外国人農業支援人材の雇用の継続が不可能となった場合の措置
「雇用の継続が不可能となった場合において、・・・新たな特定機関を確保するよう努める」とされているが、そもそも外国人農業支援人材が自らの意思で他の特定機関へ移動する自由があることを明記すべきである。
以上