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【特別寄稿】入管法制によって分かたれる私、私たち(中村一成)
2021.05.14
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【特別寄稿】入管法制によって分かたれる私、私たち(中村一成)
1990年代、私が駆け出し新聞記者としてキャンペーンを張った一つは、人身売買の被害者であるタイ人女性が被告とされた殺人事件です。観光ビザで入国し、入管法が生み出す「不法滞在者」であることを逆手にとられて自由を奪われ、自らと家族に危害を加えると脅されて毎日十数人もの客を取らされる、いうなれば「性奴隷」にされた彼女が、逃げるためにボスを殺したことが、この社会ではない、彼女の罪に問われたのです。
その後は大手冷凍食品メーカー「加ト吉」で、旅券や外登証、通帳を取り上げられて使役されていた中国人実習生たちの処遇問題や、「日本人」に連なる者という「血」を基準に「輸入」され、不況になれば何時でも馘首される日系人労働者たちを取り巻く問題を取材してきました。その向こうには、「忘れられた皇軍」や「慰安婦」、徴用工などの姿が見えました。
「人間とはこのように扱われてはいけない」
。彼/彼女らと出会う中で痛感したことです。人を「人間以下」に見做し、扱って恥じない。その発想を支え、強化するのが出入国管理制度。人間の越境を管理し、居住国民ではない者を「在留資格」で振り分け、その生をほしいままにする法制です。私と前述の人たちの間には、常に入管法制という「最低のゴロツキ」が介入してきました。
本質において入管制度とは、封建制廃止後も続く身分制であり、奴隷解放後も続く奴隷制です。他者との「共生」を拒むこの国では、制度の本質が一層グロテスクに顕現します。「煮て食おうが焼いて食おうが自由」を体現する現行制度の淵源は、植民地出身者への政策にあり、その権限は、かつて朝鮮人らを監視、管理、拷問、殺害していた特別高等警察の思想・人的流れを汲む入管在留管理庁に引き継がれています。やりたい放題の拘束や暴力、「拷問」の数々はその証左でしょう。彼らの「業務」はまさに官製ヘイトクライムであり差別煽動です。それは官民の間を循環し、レイシストたちをエンパワーし、それでなくとも最悪な状態にあるこの社会を更に壊していきます。
そんな歴史的不正が改められるどころか、その権限が更に強化されようとしています。そもそも非・日本国民に対するこの国の人権状況は「恥」以外の何物でもありません。「内外人平等」(国際人権規約)や「内国人待遇」(難民条約)、難民を彼彼女らが危険を晒される恐れのある所に帰国させたり、強制送還してはいけないと定めた「ノン・ルフーフマン原則」(同)など、自ら批准、加入したはずの国際人権条約の理念を踏み躙り、それに司法が「お墨付き」を与える。国内司法で救済されなかった者が被害を条約機関に訴える「個人通報制度」は批准せず、「親からの分離禁止」(子どもの権利条約9条)や「差別の禁止」(人種差別撤廃条約4条a、b)については、解釈宣言や留保を行使し、国際人権から程遠い「国内秩序」を維持してきました。そんな「煮て食おうが焼いて食おうが自由」の人権状況を更に強化し、紛うことなき反社会的集団たる「出入国在留管理庁」の権限を際限なく強化するのが今回の改悪です。
先日、僅かな時間ですが議員会館前の座り込みに連なりました。そこには
入管法制によって分かたれる私、私たち
がいました。私は、同じ社会を生きる者たちが、同じ「人間」として扱われない社会、いつ終わると知れない収容生活で自殺に追い込まれたり、必要な最低限の医療すら受けられずに衰弱死するような社会には生きたくありません。私、私たちはこんな回路を通じてしか「他者」と知り合うことができないのでしょうか? いつまで植民地帝国からの連続を生きるのでしょうか? 私/私たちは、もっと違う出会いが可能なはず、入管法に隔てられた私と彼彼女らではない平等、自由な人間としての対等で豊かな関係があるはずなのです。この闘いは、「生きるに値する社会」を築く闘いであると同時に、「不正」の上に築かれた社会、そして今も贖われずに続く歴史の転換をも射程に収めています。既に「共に生きている」社会を「共に生きられる社会」に変えるため、この稀代の改悪法を廃案にすることはもちろん、この制度が持つ思想を「過去」にするために書き、語っていきます。
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