2019年1月18日深夜、居房で、睡眠薬交付を拒否されて抗議をしたデニズ氏は、職員らによって持ち上げられ、意思に反して別室(処遇室)に連行された。国側は、この過程で職員の一人が腹を蹴られる等したと主張し、デニズ氏は否定している。それ以外に「デ ニズ氏が暴れた」とは国側も主張していない。
処遇室の映像である動画②1分40秒~1分55秒、③29秒~ 50秒等で、デニズ氏はうつぶせに制圧され、動画 ②1分55秒~2分10秒、③50秒~1分3秒で、後ろ手に手錠をされる。センター内部の報告書に「処遇室に連行後も四肢に力を入れるなどして激しく抵抗 を続けたから制圧した」、「なおも四肢に力を入れて激しく抵抗したことから、受傷事故防止のため、他に方法がないので、後ろ手に手錠をした」と記録されている。だが、デニズ氏は動いておらず、「激しく抵抗」とは到底見えない。
動画①の冒頭と49秒、②2分25秒、③1分35秒~1分55秒、④12秒~22秒で、職員が親指でデニズ氏の首を押している。センター内部報告書で、 職員自身が「首の顎の境目の付け目の部分に2箇所痛点があり、そこを押すとかなり痛いので、今回のように話を全く聞 こうとしない場合などに使用する」と説明している。首を押す際、他の職員が手筈よく後ろからデニズ氏の頭を固定している。予め痛点を研究した上で、反復的に行っている共同暴行の手法ということだろう。
動画③2分40秒、④56 秒~1分23秒では、デニズ氏が腕を締め上げられている。
国側は裁判で、上記の暴行について、「脱力させ、落ち着かせる」ために行ったと主張している。抗議を黙らせる目的と言った方が正確と思われるが、いずれにしても、強要のために苦痛を与えることは被拘禁者への体罰であり、拷問である。これは犯罪であり、拷問禁止条約でも絶対的に禁止される。
面会時に動画を見せて打合せをしようとした際に、デニズ氏は、涙が流れ、 体 が震え、フラッシュバックによる痛みを訴え、視聴継続ができなかった。 PTSDであろう。仮放免中に診察した医師から、不安、抑うつ、衝動性自殺 念慮、幻聴、幻視、悪夢等がみられ、治療が必要と診断されている。
上記暴行について、国側も「不当な行為」と認めている。だが、補償もリハビリもなく、デニズ氏を暴行した職員は、処分を受けないばかりか、事件から数ヶ月、デニズ氏の処遇を担当し続け、新たな制圧行為にも参加した。本件については国賠訴訟となっている(東京地裁令和元年(ワ)第 21824号)。上記の各動画は、訴訟で国側が提出した動画の一部である。
被収容者への隔離措置、制止措置は、収容の長期化に伴い、増加している(法務省ホームページの「退去強制業務について 平成30 年12月」5頁参照)。デニズ氏と同様、抗議を黙らせる等のために多数の隔離措置や制止措置が行われていると推測される。処遇に関する不服制度や収容施設視察 委員会など諸制度の不備もある。それだけでなく、入管の収容長期化の方針が、被収容者を苦しめて帰国を強いるものであり、原理的に被収容者の尊厳を否定しているのだから、現場の処遇担当の中に、被収容者を虐げる者が生 じても、当然と思われる。
デニズ氏は、2016年5月から収容されているが、難民認定申請者である上、 日本人女性と婚姻をしており、帰国する意思はない。デニズ氏は2019昨年、ハンガーストライキの末2度、各2週間だけの仮放免許可を受け、その際には妻と数年ぶりにふれ合えた。デニズ氏は、妻との生活を取り戻すために、逃亡する気が全くなく、実際、2 度にわたり、再収容の危険を判った上で出頭し再収容されている。 デニズ氏には暴行の前科があるが、泥酔の上での行為である。動画を見ても、デニズ氏からの積極的暴力はなく、復讐を予告する発言すら一言も発していない。職員と比較しても、粗暴危険な人物とは言えまい。解放して問題があると思われない。
デニズ氏は収容中に何度か衝動的に自殺を試みている。上記の病的な原因が疑われ、精神的健康上、収容に耐えられない状態と思われる。少なくとも速やかに仮放免を許可をするべきである。 下の手紙は、2019昨年8月、1度目の2週間仮放免の際に、妻が書いた嘆 願書である。
YouTubeには、2019昨年11月、2度目の2週間仮放免の時に本人が話した様子も挙げられている(「デニズさんと大橋弁護士記者会見 2019年11月5日入管による長期収容、ハンスト、2週間の仮放免と再収容について」)。
追記: 本稿を書いた後に、2020年3月24日にデニズ氏が仮放免許可される予定となった。だが、仮放免期間や、今後の期間延長の可否は、不明である。