政府は、昨年10月に、送還忌避者の増加や収容の長期化を防止する方策やその間の収容の在り方を検討する目的で、法務大臣の私的懇談会である第7次出入国政策懇談会の下に「収容・送還に関する専門部会」を設置しました。
2020年6月に公表された当専門部会からの「送還忌避・長期収容問題の解決に向けた提言」には、国外退去に応じない場合の罰則の創設などが盛り込まれており、政府は、早ければ、今秋開催が想定される臨時国会に入管法改定案を提出するとの見通しが報道されています。
移住連では、この提言のもとにすすめられる入管法改定に反対する立場から、さまざまな取り組みをすすめていきます。
その一環として、この問題について特集した移住連の機関誌「Mネット」209号「どうする?入管収容施設での長期収容問題〜その実態と解決に向けて」に掲載された記事の中から、関連のものを毎週公開します。
東京オリンピックを前に、被仮放免許可者の再収容、被収容者の仮放免の不許可と長期収容の継続、強制送還圧力の中で、2019年6月大村入国管理センター(以下「大村入管」)においてナイジェリア国籍のSさんが絶望のうちに命を落とした。そして彼に続く命
をかけた訴えが多くの被収容者により行われた。今も命の危険に曝され続ける被収容者たちがいる。
仮放免の激減と収容の長期化
左の表は、大村入管が、移住労働者と共に生きるネットワーク・九州(以下「ネットワーク九州」)と毎年12月に行っている意見交換会で回答した数字である。
2017年から18年にかけての数字をご覧頂きたい。①大村入管での収容が6カ月以上の被収容者の数と比率が大幅に増加し、②仮放免が激減、帰国準備を除くと1/3に、③国費送還が倍増し、うち送還忌避(強制送還)者の送還も増加し、④自傷行為の件数も増加している。こうして2019年を迎えた。
絶望する人を救うことの困難さ
2019年4月に、被収容者の支援者にとって活動の困難性を痛感させる事態が1カ月続いた。
中部空港で難民の告知をしたA国のBさんは、難民申請をしたが1年半たっても判断がなされず、入管の職員から母国に帰るよう言われ、大村へ移送となった。
日本だったら救ってくれると信じて何とか日本にたどり着いたが、難民認定どころか、収容が続き、仮放免も出ない、そして帰国を迫られるという日本の入管の全く逆の対応に絶望し、「(支援者の)みんなにも迷惑をかけた。もう(入管施設から)出られないなら、ここで死んでいい」と心が衰弱し、「食事もいらない、水も飲まない、医者の診察もいらない」という状態に至った。
20日余りの間でわずかな水は取り、4月末からやっと外部病院への入院を受け入れ、支援者は安堵したが、絶望して一切を拒否する本人を死から救うことはかなり困難だと痛感させられた。
Sさんの死、その後も続く命をかけた訴え
2019年5月末にナイジェリア国籍のSさんの摂食拒否の情報と支援の要請が、大村入管の別の被収容者から寄せられた。Sさんは隔離部屋におり、面会もうまく行かない中、後日Sさんの訃報を知った。
支援者は、Sさんの死を繰り返さないために、他の健康に懸念のある被収容者の状況把握に努め、入管に要請書を出した。摂食拒否、意思によらない摂食障害、摂食拒否後の突然の心停止のリスク、うつ病、精神不安定、自傷行為のリスク、精神疾患、脳血管系
の重篤な症状を発症する確率が高い高血圧症、癌、突然気を失うなど原因不明の症状等の命の危険に曝されていた被収容者が20人近くいた。
さらに、7月に入り、互いに申し合わせ摂食拒否をする被収容者が多数いる一方で、周囲の被収容者とは関係なく、自然発生的に摂食拒否を始め、水もほとんど飲まず、点滴等の医療も拒否する被収容者の状況も間断なく続いた。支援者間では月に2回のペースで、「健康懸念リスト」を作成し、「命の懸念」の情報を共有し、当事者への面会、大村入管への要請等を行ってきた。この緊張した状態がなんと同年12月末まで続いた。
「医者から死ぬから止めなさい、と言われても止めない。仮放免が出るまでする。」これは彼らの多くが揃って口にしたことばである。
直近の大村入管の対応
大村入管では、摂食拒否とは関わらない被収容者の許可期間28 日の仮放免も増えている。自傷行為が過去にあった、うつや高血圧などの病気の罹患等が主な理由である。この場合、再収容はまだ確認されていない。わずかではあるが、日本に家族がいる人でも自費
出国をしつこく促がされ、あきらめて自費で母国に帰る人もいる。
そして、2019年末の冬休みになってやっと摂食拒否者がゼロとなり、一応一連の行動は基本的に終息した。
年明けに摂食拒否者、あるいは摂食障害で仮放免になった数人が再収容されて大村に戻ってきており、1人は再々収容後に再々移送されて、大村に着いて間もなく強制送還された。食事を取ることがままならないまま病状を考慮されず地方入管に再収容された摂食障害の1人は、大村で医療を拒否して再度仮放免になった。地方入管による再収容の圧力はまだ強い。
一方で護送官5人付の強制送還をせっせと行っている。ブラジルの人が比較的多い。服役後で、難民を申請しておらず、係争中でない人が多いからだろうか。
Sさんの死後、自傷行為も含めると、「死者が出るかも」と支援者間で懸念したのが、数回と言わずあった。直近でも2020年2月初旬にある被収容者が倒れ、AEDが使われたと言われている。また数日後には別の被収容者が倒れ、外部の病院で脳の外科手術を
受けた。大村入管は、2月18日の国会議員との意見交換会で「2、3人が入院中」と回答している。
被収容者を死に追いやる「長期収容」は止めるしかない!
(参考)大村入管からネットワーク九州への毎年の回答は以下で閲覧可能
https://snwm-netwrokkyushu.jimdofree.com/ 活動報告- 大村入国管理センターとの意見交換会/