【特別転載】入管長期収容問題を考える②ー長期収容問題とその解決に向けて(Mネット2020年4月号より)
政府は、昨年10月に、送還忌避者の増加や収容の長期化を防止する方策やその間の収容の在り方を検討する目的で、法務大臣の私的懇談会である第7次出入国政策懇談会の下に「収容・送還に関する専門部会」を設置しました。
2020年6月に公表された当専門部会からの「送還忌避・長期収容問題の解決に向けた提言」には、国外退去に応じない場合の罰則の創設などが盛り込まれており、政府は、早ければ、今秋開催が想定される臨時国会に入管法改定案を提出するとの見通しが報道されています。
移住連では、この提言のもとにすすめられる入管法改定に反対する立場から、さまざまな取り組みをすすめていきます。
その一環として、この問題について特集した移住連の機関誌「Mネット」209号「どうする?入管収容施設での長期収容問題〜その実態と解決に向けて」に掲載された記事の中から、関連のものを毎週公開します。
福島瑞穂参議院議員が法務省から提出を受けた2018年7月末現在及び2019年6月末現在の被収容者収容期間に関する資料によれば、いずれの年も、6月以上収容されている被収容者の割合は54パーセントであったが、2年以上の被収容者を見ると、前者は10. 5 パーセント(1309人中137人)であるのに対し、後者は20パーセントにも及んでいる(1)。
2018年2月28日に出された、法務省入国管理局長による「被退去強制令書発付者に対する仮放免措置に係る適切な運用と動静監視強化の更なる徹底について」という指示(以下「仮放免指示」)では、「仮放免を許可することが適当とは認められない者」を列挙しており、2年以上の長期間の被収容者の増加は、この指示の直接的な影響によるものと考えられる。
そして、2019 年10 月、送還忌避者の増加や収容の長期化を防止する方策やその間の収容の在り方を検討するため、法務大臣の私的懇談会である「出入国管理政策懇談会」の下に「収容・送還に関する専門部会」が設置された。
しかし、私たちは、そこでの議論が、送還の促進など、排除を強化する方向でのみ進められることを危惧する。そのような方向性だけではなく、受容の観点からも対策を検討すべきである。具体的には、以下のものが考えられる(2)。
長期収容解決のために~収容制度の法改正
・収容の上限を定めること
・収容の目的・要件を送還の準備のために必要不可欠な場合と法律に明記し、かつ司法審査を導入すること。
(理由)長期収容の最大の原因は、退去強制令書による収容の上限が定められていないことである。無期限収容は、国連からも度々改善勧告を受けている。入管法による収容は強制送還の準備のために認められるものであるから、その準備期間を超えた無期限収容は許されない。したがって、収容に上限を設けることで、長期収容は完全に簡単に解消できる。台湾では2013 年に無期限収容を憲法違反とする判決が下され、法改正がされた。韓国でも2018年に憲法裁判所で、無期限収容が違憲とする裁判官が5人と、合憲とする裁判官4人を上回る判断が下された。
また、法務省は、本来強制送還を実施することが目的の入管収容を、治安維持法下の予防拘禁のように用いている。日本で犯罪を行った外国人につき、既に服役し罪を償っているにも拘らず再犯可能性が高いとして入管に収容している。さらに、ハンストをしていた被収容者をいったん仮放免しながら、2週間で再収容している(山岸「サファリさんインタビュー」参照)。恣意的な拘禁を防止するため、収容の目的を送還のためということを明記し、かつ、収容するか解放するかの判断に迅速な司法判断の手続を導入すべきである(本誌の本多論考参照)。
「送還忌避者」の減少のために①~難民の保護
・難民申請者を救う制度改正~出入国在留管理庁から難民審査を切り離す
・送還禁止規定(入管法61条の2の6第3項)の改変に絶対反対
(理由)法務省が2019年10月1日に公表した「送還忌避者の実態」では、あたかも難民申請を繰り返したり、退去強制令書が発付された後に難民申請をした者が、難民制度を濫用し、それが長期収容・送還忌避者増大の原因であると指摘している。
しかし、その資料で掲げられた5ヶ国(イラン、スリランカ、トルコ、ナイジェリア、ミャンマー)は世界的に見れば難民出身のメジャー国ばかりである。救うべき難民申請者を救わないことが複数回申請の原因と考えられる。また、退去強制令書発付後に難民申請をするのも不思議ではない。例えるなら、歯が痛んでもすぐに歯医者に行かずに、痛みが堪えられなくなってから行くのと同じである。
濫用者の減少を考える前に、年間の認定者が数十人、認定率1%未満の「難民鎖国」と称される状況を変え、救われるべき申請者を難民と認定することが、「送還忌避者」の減少に繋がる。そのためには、水際で好ましくない外国人の受入を排除することで治安維持の一翼を担っている出入国在留管理庁から難民認定手続を切り離し、独立した機関で審査を担うなどの抜本的な法改正を行うべきである。
また、このようなお粗末な認定状況が変わらないまま、難民認定申請手続き中の送還禁止規定(入管法61条の2の6第3項)を改変することは、さらに救われるべき難民の保護を縮小し、彼らの生命・身体などの人権を危機にさらすことになる。強く反対する。
「送還忌避者」の減少のために②~非正規滞在者の一斉正規化の実施
・一定条件を充たす非正規滞在者に一律に在留特別許可を認めること(本誌の鈴木論考参照)
(理由)「送還忌避者」と国に称される人たちがどのような理由で送還を拒んでいるかははっきりしないが、長期間収容されていても帰国したくないという人たちには、例えば日本に家族がいる、長期間本国を離れて生活の基盤が日本にあるなど、離れられない事情がある方も相当数存在すると考えられる。
政府は2018年の臨時国会で外国人労働者の受入が「喫緊の課題」であるとして、極めて短期の審理期間で入管法を改正し、特定技能制度を導入した。5年間で34万5000人の受け入れを目標として掲げていた。単純に割り算をすれば、1か月当たり5000人を超える受入が必要である。
しかし、2019年9月末日現在で特定技能の在留資格が認められている人は219名に過ぎない。
一方で外国人労働力を必要としている産業界が存在し、他方で日本で仕事をしたい、家族と一緒に生活をしたいとして長期間の在留をしてきた人たちが存在するのである。
「送還忌避者」を減少させるための方策として、排除の方向だけを考えるのではなく、一定の条件を充たした非正規滞在者を正規化することにも比重を置いて検討すべきである。また、それ以外の非正規滞在者についても、個別の事情に照らして、人権の視点に立って、適切に在留特別許可を認めるべきである。諸外国では、1970年代から最近にかけて、数万人単位で非正規滞在者の正規化を実施している。アメリカでは1980年代270万、韓国では1992年に4万人、2003年に18万人の正規化が実施された。日本でも法務省は2004年から2008年まで「不法滞在者5年半減計画」を実施して不法残留者を削減したと強調しているが、この間、約5万人に在留
特別許可が認められたのである。日本でも一斉正規化が不可能ではない。
諸外国がこのような政策を実施しているのは、外国人の人権保障という観点だけではなく、必要な労働力を確保したり、税金や社会保険料の徴収を見込んだりという政府側にとっても利点が多いことも理由として挙げられている。
日本も、排除の論理だけにとらわれるのではなく、諸外国が実践している成熟した政策を学ぶべきである。
(1)2018 年7月末のデータ
http://mizuhoto.org/wp/wp-content/uploads/2018/10/b2b793afe20741e64f5cafb092efd5a4-1.pdf
2019 年6月末のデータ
http://mizuhoto.org/wp/wp-content/uploads/2019/08/d71b290ae7f1f00355844a40b0deabdc.pdf
いずれも2020 年2月13 日現在
(2)以下に述べる内容は、2019 年12 月18 日付で、特定非営利活動法人移住者と連帯する全国ネットワーク、全国難民弁護団連絡会議、日本カトリック難民移住移動者委員会、入管問題調査会、全件収容主義と闘う弁護士の会 ハマースミスの誓い、特定非営利活動法人 ヒューマンライツ・ナウによる共同提言として公表されたものに沿うものである。
httqps://migrants.jp/news/voice/20191218.html
2020 年2月13 日現在
お知らせ一覧へ