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2020.05.11 ブログ

新型コロナウイルス感染予防のために、摘発ではなく、包摂を!ー台湾からの報告(Mネット2020年4月号)

 2020年2月26日に台湾で確認された新型コロナウイルス感染者32名のうちの一人がインドネシア人の非正規滞在者で
あったことが判明しました。これを受け、翌日2月27日、TIWA(台湾国際労工協会)は、「非正滞在者と非正規雇用主へ
の非合法化の措置がウイルス感染予防の抜け穴を防ぐことができる」とする声明を発表しました。2)

民間ブローカーシステムではなく、G to G(送り出し・受け入れ双方政府管理雇用システム)を!


 2019年12月9日、2年に一度のMENT(台湾移住労働者連盟)による移民労働者のマーチが開催されました。マーチのテーマは 「民間ブローカーシステムを廃止し、送り出し・受け入れ双方政府管理雇用システムを!」でした。
 台湾で働くためにブルーカラーの移民労働者が多額の斡旋料をブローカーに支払わなければならばならないことはよく知られている悪評です。
 台湾で働く移民労働者は3年契約を結びます。契約期間が満了すると、台湾の法律に則って、移民労働者は少なくとも1日以上台湾から出国する必要がありました。この手続きを取らないと再入国申請ができなかったのです。さらに、再入国の際には、毎回、多額
の手数料をブローカーに支払わなければなりませんでした。MENTは「3年ごとに1日出国」ルール廃絶と移民労働者にのしかかる手数料の減額に向けて、長年にわたって抗議活動を行ってきました。そして、2016年10月21日、ついにこのルールの廃絶を達成したのです!
 しかしながら、「上に位置する人々は政策を持ち、下に位置する人々は対抗策を持つ」と言われるように、多くの人々がそのニュースに熱狂していた一方で、まもなくしてブローカーは「職業紹介料」と称して再び手数料を取るようになりました。どういうことかと言うと、移民労働者は台湾を出国する必要はなくなったけれども、ブローカーを通して改めて仕事を探す場合には、2万~7万NTD(新台湾ドル)(1NTDあたり約3.5円、2020年3月現在)を支払わなければならなかったのです。つまり、もともとは当事者のためを思って改善が目指された法改定が、当初想定した結果にならなかったのです。
 台湾政府は、転職(雇用先変更)の手順に関する多言語サービスを提供していません。就業サービスセンターなどの関係省庁は、中国語以外の多言語に対応したウェブサイトなどを準備しておらず、多言語に対応できる職員もいません。したがって、移民労働者には
十分な情報を得る手段がなく、移民労働者の雇用先変更ができるのは実質的に民間ブローカーだけになってしまっています。労働省は「職業紹介料」は違法だと発表していますが、移民労働者が自分で台湾国内の仕事を見つけることは事実上不可能であるため、結局は
ブローカーへの違法斡旋料の支払いが常態化しています。
 移民労働者の当初の喜びは怒りに転じました。MENTが2019年国際移民労働者デーのマーチで 「民間ブローカーシステムを廃止し、送り出し・受け入れ双方政府管理雇用システムを!」というテーマを掲げたのには、こうした背景があったからです。私たちは、違法かつ高額な手数料を吸い取る民間ブローカーが介在するシステムの廃止を30年以上にもわたって主張してきましたが、それらは未だ根強く残っています。また私たちは、移民労働者が安全に移動でき、過度の借金による足かせをはめられることなく安心して働ける環境を確保するため、送り出し国と受け入れ国双方の政府が責任をもって担当する組織または部署、そして両政府間をつなぐ情報共有ラインをつくるべきだと主張しています。

蔓延する感染症を予防するためには抜け穴を防ぐ;排除しない、処罰しない、法的地位を回復させる


 2020年2月26日に「逃亡移民労働者」が新型コロナウイルスに感染していることが確認されました。この人は介護労働者として仕事をしており、お世話をしていた高齢女性から感染しました。新型コロナウイルスによって社会全体に不安が広がっている中、個人の住宅内で働く外国人介護労働者が就業中に直面する危険は、その労働の価値を下げるだけでなく、移民労働者の「逃亡」状態に社会的な関心を集中させることにつながります。
 台湾ではブルーカラーの移民労働者には実質的に転職の自由がありません。そのことにより、移民労働者がブローカーや雇用者から過重な作業負担や給料からの不当な控除、違法な「仕事紹介料」を請求されるなどの問題ある扱いを受け、その際に適切な救済や公正
な扱いが受けられない場合には、「逃げる」という選択しか残されていないのです。そのことは、在留期限を超過して非正規滞在者、つまり非正規移民労働者となってしまうことにつながります。こうした状況において政府が「捜査と収容の強化」や「逃亡移民労働者
の通報を奨励」といった方策をとって、もっと多くの非正規移民労働者を「逮捕」しようとすれば、「木の梢から魚を探す」だけではなく、すでに社会の低層にいるこうした人々を、もっと奥底の誰も見つけることができないようなところへ押しやってしまうとTIWA は考えています。そして、これはウィルスを更に拡散することにもつながります。
 3月4日、TIWAは関連する団体を結集させ、行政院の前で記者会見を開きました3)。私たちは台湾政府に対して、もし政府が新型コロナウイルスの拡散を効率的に防ぎたいのであれば、システムの欠陥によって非正規へと追いやられている移民労働者がいることの問題に対処しなければならない、と訴えました。「移民労働者を排斥するな、処罰するな、彼/彼女らの法的地位回復を」。これが私たちの主張です。
 また、私たちは以下のアピールも行いました。「移民労働者への規制を緩和し、罰金や再入国の禁止などを廃止し、強制送還を停止し、非正規移民労働者の法的地位を回復させることによってのみ、新型コロナウィルスの大規模感染防止の取り組みの射程に非正規
労働者を連れ戻すことができる。」
 私たちの要求では法的地位の回復というのが最も重要な点です。台湾の移民局による「罰金の減額」、「再入国が禁止される期間の短縮」といった取り組みとは別に、労働省は「就業サービス法」と「審査基準」を緩和し、「非正規移民労働者」に「法的地位を取り
戻す」機会を与えるべきです。この方法によってのみ、非正規移民労働者を社会の陰から連れ戻すことができます。
 その他にも、非正規移民労働者だけでなく、こうした労働者を雇用する「違法雇用者」も処罰されないようにすべきです。そうすることで、処罰への恐怖を理由に違法雇用者が新型コロナウイルスに感染した非正規移民労働者を隠そうとすることを防止できます。
 もし私たちが本当に「排斥しない、処罰しない、法的地位回復」政策を実現した場合、非正規移民労働者に対して新型ウィルス感染防止のための情報を得るよう一定の呼び掛けをすることができます。このことは、感染が疑われる症状のある非正規移民労働者を迅
速に病院に行かせるよう「違法雇用者」に呼び掛けることができるので、更に包括的な感染症蔓延防止策につながります。これらの取り組みによって、非正規移民労働者が感染症流行の原因としてスケープゴート化されることを阻止することができるのです。

(翻訳:崔洙連・安藤 真起子)

1) TIWA は、台湾の移民エンパワーメントネットワーク(the Migrant Empowerment Network in Taiwan、以下MENT)構成団体の一つです。
2)https://reurl.cc/X6elm3
3)https://bit.ly/33rXQj0


<関連トピック>
移住労働者の権利と感染症対策をめぐる台湾の大学教員5名の共同声明

 2020 年3月2日に、台湾政府による非正規滞在者の取締り方針に対して台湾の研究者らによる声明が発表されました。日本
語版は以下からお読みいただけます。


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