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2020.04.13 ブログ

「トランスジェンダーも人間だ」-東京入管被収容者Mさんからの訴え(Mネット2020年4月号)

Mネット209号「どうする?入管収容施設での長期収容問題〜その実態と解決に向けて」(2020年4月発行)より、2020年4月13日現在、東京入管の施設に収容されているフィリピン国籍のトランスジェンダー、Mさんの状況を報告した記事を転載します。






 2019年7月から東京出入国管理局の施設に収容されているフィリピン人のMさん(仮名)は、男性として生まれ、女性の性自認を持つトランスジェンダー(MTF)。現在27 歳。
 収容されて以降、ホルモン治療も受けられず、また、他の女性の被収容者と接触しないように隔離されるなど差別的な扱いを受けていることから、入管に対し、処遇の改善を求めている。

 

来日から収容まで

 Mさんは、日本に長く暮らしていた父親(フィリピン国籍)がガンになり、余命宣告されたことを受け、2015 年1月に来日した。父親とは、父が日本に旅立った3歳の頃から離れ離れになっていたが、日常的に連絡をとりながら、たまに顔を合わせるなどして親子関係を築いてきた。母親とはその頃にフィリピンで生き別れて以来、会っていない。日本では、父の家に身を寄せ、義母(父の配偶者)、実兄とともに暮らしてきた。Mさんは、2019 年7月某日、路上で警察の職務質問に遭い、超過滞在であったことを理由に東京出入国管理局の施設に収容された。
 収容の際、入管からのインタビューで、Mさんは自身が男性として生まれたが、幼少期に女性であることを自覚したトランスジェンダーであることを告げた。これにより、入管はMさんを女性のエリアに収容したが、他の女性の被収容者と接触をさせないよう、異なる処遇を施し、また、Mさんが希望するホルモン投与も認めないなど、不遇な扱いをしているとMさんは訴える。

懲罰房、自由時間制限等の「隔離」

 Mさんは、入管施設に収容される際、最初から女性のエリアではあるが、当初、入管にとって問題と思われる行動などをした被収容者を収容するために各ブロックに設置されている「懲罰房」に収容された。そのブロックに設置されていたもう一つの「懲罰房」には、当時ハンストをしていたフィリピン人女性が収容されていた。Mさんはハンスト行動には参加していなかった。また、他にも入管から「懲罰」を受ける理由はなかったことから、彼女は、自身がトランスジェンダーであるゆえにここに入れられたと感じている。
 懲罰房には入管職員が監視するためのカメラが設置されており、部屋の中にあるトイレの場所も映ってしまうなどの問題がある。昨年(2019年)11 月の国会では、法務委員会において、初鹿明博衆議院議員が人権上問題ではないかと森まさこ法務大臣に質問し、Mさんも同様の問題を指摘をする。Mさんはその懲罰房に6カ月間収容された。
 Mさんは、今年(2020年)1月から一般の部屋に移されたが、通常は数人の相部屋に入れられるところ、Mさんだけは一人部屋にされている。また、他の収容者は、自由時間として午前9時半から12 時までと、午後1時から4時半までの合計6時間あるのに対し、Mさんには昼間の1時間と夕方の1時間の合計2時間しか与えられていない。しかも、その時間帯は、他の収容者と接触しないように異なる時間で設定されている。自由時間には、洗濯や外部への電話、運動などそれぞれが収容生活の中で必要なことをして過ごすのだが、施設内において、とりわけフィリピン人の被収容者などは、談話室などに集まっておしゃべりをしたり、差し入れを分け合ったりすることも多い。ストレスの多い収容生活の中で、そうした仲間たちとの限られた交流、とりわけ、クリスマスやニューイヤーのパーティーなどは唯一の楽しみであるにもかかわらず、「隔離状態」に置かれるMさんには、そうした場所に参加する機会さえ許されていない。

許されないホルモン投与

 Mさんは21歳の頃からホルモン治療をはじめた。より女性らしくなりたいと思った。ホルモン剤投与をはじめてから、自分の体がどんどん変わっていくのがわかった。本来の自分に近づいていくことがうれしかった。
 ところが、入管施設ではホルモン剤の使用が認められていない。これまで6年間毎日服用してきたホルモン投与ができなくなったために、Mさんの体には異変が生じている。胸は小さくなり、肌の調子も悪くなった。毎朝、吐血があり、心拍数が上がっているのを感じる。のどの腫れもある。Mさんは入管職員にホルモン剤の使用を認めてほしいと何度も訴え、手紙も出したが、入管からは「できない」の一点張りで断り続けられている。
 ストレスのせいか、Mさんには鬱の症状がでてきている。視野が狭くなったり、物が落ちてくるのが見えるような幻覚を体験するようになった。
 Mさんにとってホルモン投与は、本来の性を生きる上でなくてはならないものだ。収容施設内でのホルモン投与が認められないのであれば、仮放免を認めるべきだとMさんは訴える。仮放免許可申請はすでに2度却下された。他にも痔ろう、逆流性食道炎、胃炎などの診断を受けており、痔ろうについては手術が必要とされているが、入管から手配される気配はない。


トランスジェンダーとしての訴え

 Mさんの父は、2017年に亡くなったが、日本には、まだ、義母(父の配偶者)と実の兄が暮らしている。入管に収容されるまでずっと同居していた。フィリピンに妹がいるが、妹はもうすぐ結婚し、嫁いでいくため、同居することはほぼ不可能だ。
 フィリピンはLGBTに寛容な国と言われることもあるが、Mさんにとって、フィリピンはカトリックの影響を大きく受ける社会であり、実際にLGBTの権利保障の制度は日本よりも脆弱だと感じる。フィリピンでトランスジェンダーとして暮らすストレスは大きい。そして何より、同居できる家族がいるのは日本なので、自分にとっては日本で暮らすことがもっとも自然な選択であると感じる。
 Mさんは1月末に退去強制令書を受けた。2月下旬には申請していた2回目の仮放免申請が却下された。状況は極めて厳しい。それでもMさんは、収容から7カ月間、自身がランスジェンダーとして受けてきた入管施設内での処遇について、リスクを承知した上で日本社会へ訴えることを希望している。
 インタビューの最後に、社会に向けてのメッセージを尋ねると、Mさんは静かな口調でこう話した。
 「私は女性ブロックに置かれながら、ずっと隔離されてきた。今も隔離されている。ひどい差別だ。ホルモン投与も許されていない。これは女性として生きることを許されていないのと同じ。入管の対応は極めて非道。トランスジェンダーも人間であることを日本社会に向けて訴えたい。」
 最近は、虹色の明るいイメージでメディアなどに取り上げられることも多くなったLGBTだが、日本社会のトランスジェンダーに対する偏見と無理解はことさら深刻だ。そして制度上の不備は、さらに人々を苦しめる。
 今回収容施設の中からトランスジェンダーからの訴えがあったことを入管は正面から受け止め、一刻も早く処遇の改善に取り組むべきだ。そして、私たち社会の側もまた、そうした声をつなぎながら、より細やかに、複合差別の問題に向き合っていくべきだろう。

トランスジェンダーとしての訴え


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