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2020.03.19 ブログ

移住連シンポジウム報告 外国ルーツの子どもの高校進学を考える ~高校まで?高校から?~(Mネット2020年2月号)

移住連シンポジウム報告 外国ルーツの子どもの高校進学を考える ~高校まで?高校から?~

 2019年11月2日に、明治大学にお いて、シンポジウム「外国ルーツの子ど もの高校進学を考える~高校まで?高 校から?~」を開催しました。登壇者には、小島祥美さん(愛知淑徳大学准教授)、白谷秀一さん(房総多文化ネットワーク)、高橋清樹さん(多文化共生教育ネットワークかながわ)、ファシリ テーターに安場淳さん(首都圏中国帰国者支援・交流センター)をお迎えし、外国ルーツを持つ若者4名からアピールもしてい ただきました。この企画の背景には、2018 年入管法改定の議論によって外国人受入れに 関心が高まるなか、すでに日本には多くの移民が暮らし、その中には子どもも多くいる事実に目を向けてもらいたいという思いがあります。今回はそうした子どもを取り巻く様々な課題の中でも 「高校」に焦点を当てて教育問題を議論しました。


基調講演「外国ルーツの子どもの教育をめぐる課題の整理」 小島祥美さん

 最初に基調講演として、小島さんから外国ルーツの子どもの教育をめぐる諸課題についてお話しをしていただきました。まず、日本語指導が必要な児童生徒の実態についてです。その数は着実に増えており、全国の外国人児童生徒のうち約45%は日本語指導が必要な児童生徒であるそうです。同時に、日本国籍の日本語指導が必要な児童生徒数も多くなっています。文部科学省(以下、文科省)が 2018年度に初めて実施した調査結果をもとに、日本語指導が必要な高校生の中退や進路の現状についてもお話ししていただきました。高校中退率は9.6% と10人に1人が退学しており(全高校生等退学率1.3%)、高校進学にたどり着くまでも大変な中、入学後の中退も多いという課題があるようです。また、 高校卒業後に進学も就職もしていない割合も18.2%で、6人に1人はそうであるという厳しい現実も指摘されました。 さらに、教育にアクセスできていない子ども達の実態も今年初めて文科省が全自治体に対して行った調査によって明らかになり、およそ2万人、6人に1人は学校にアクセスできていない状況にあるということでした(サハラ以南の アフリカ地域では5人に1人)。
 次に、公立高校、とくに全日制高校における外国人生徒向けの特別措置と入学枠の有無や実際の運用の仕方によって、教育へのアクセスに影響が出ている問題があると指摘します。例として、地域によっては枠があっても定員があるために、合格者数が減ってしまう事態が発生しています。この制度や運用は都道府県に裁量があるため、地域によって異なっていることが課題だと指摘します。また、様々な理由で学び直しをしたい人々にとって重要な場である夜間中学についても、現在は首都圏と各地方都市の一部にしかないため、 地域によって教育のアクセスに差が生まれています。夜間中学がないがために高校にたどり着けない人もたくさんいるという課題もあるなど、外国ルーツの子どもの教育をめぐる課題について網羅的にお話をしていただきました。


外国ルーツの若者からの アピール

 本シンポジウムでは、幼少期に来日し、日本で教育を受けた若者4名に自身のご経験を話していただきました。タイ出身の諒さんは、小学校6年生の夏休みに来日してから、高校進学、そして就職までのお話しをしてくださいました。当時、日本語が喋れなかった 諒さんは、学校に加えて多文化共生センター東京での学習支援を受けながら高校に進学したそうです。コミュニケーションが一番大事だという諒さんは、まだ日本語に自信がなかった当時も、できるだけ日本語で周囲に話しかけるようにして友だちをつくったそうです。街で外国人に会ったら、怖がらずに、コミュ ニケーションを取ってほしいと伝えてくれました。
 フィリピン出身マイキーさんは、日本人とフィリピン人の両親のもとに生まれ、13歳で来日しました。マイキーさんも、来日してすぐに中学校に入学したため、多文化共生センターでの学習 支援も受けながら勉強をしていたそうです。マイキーさんは、多文化共生セン ターの先生がいなければ私はここにいなかったと語ります。一生懸命に勉強して得意の英語が強い高校に入学することができ、いまは日本語と英語を駆使して通信業界で働いているそうです。英語を使ってさらに日本で活躍したいと話してくれました。
 ナディさんはイラン出身です。出稼ぎ労働者だった両親と6歳のときに来日し、3ヶ月でビザが切れ、小学校にも通えずにいたそうです。小学4年生 になる年に3年生入学することができ、当時ビザがなかったナディさんは少しでも良い子ども、移民であるべく、とにかく努力を重ねたそうです。学校にい る間、学校でできた友だちのお母さんが進学について家族に働きかけてくれるなど、サポートをしてくれたと話します。そうした経験を経たナディさんは、 日本に労働力需要があるから親である外国人は来日したのであり、日本も彼 /彼女たちに対して責任を担っているはずであり、だからこそ、日本人のための教育ではなく、世界の見本となるよう、日本にいるすべての子どもがどこにいても平等に教育を受けられるよう な制度を創る必要性を訴えました。
 ジョアンさんはブラジル出身で 小学校6年生の年に来日しました。ジョアンさん自身も、日本語指導が必要な子どもとして学校に通い、高校は特別枠で入学したそうです。そこで同じような境遇にある友人と出会い、また進学などに関する情報を得るのが難しいなか、とても良い先生と出会えたことで進学に繋がることができたそうです。現在は、特に日本語が喋れないことで選択肢が限られてしまうことに問題意識を持っており、支援の 重要性を感じているそうです。また、 ご両親が出稼ぎとして来日し、労働市場の中でもとても弱い立場に置かれ、 搾取の対象になっていた状況を見てきた経験から、制度そのものの問題と、そこから派生する諸課題への包括的な支援の必要性を訴えました。

パネルディスカッション

 第二部ではファシリテーターに安場 さん、パネラーとして白谷さん、高橋さ ん、小島さん、そしてナディさんとジョアンさんをお迎えしてパネルディスカッションを行いました。まずは、白谷さんから千葉、高橋さんから神奈川の状況についてお話しいただきました。

報告:白谷秀一さん

白谷さんは、入試制度ついてお話しいただきました。現在、外国にルーツ を持つ子ども向けの高校入試制度として「特別枠」という制度がありますが、その中には定員外と定員内の募集があるそうです。定員外の制度は、神奈川や東京などで行われている募集方法で一般受験者とは別に特別選抜の合格者を決めます。一方、定員内は、外国人選抜の定員は大まかにしか決めず、その範囲内でどれだけ合格者を出すかは学校の裁量です。その結果、各特別選抜実施校は日本語ができない、あるいは指導が大変だという理由で、特別選抜者を減らそうとする傾向が見られると言います。現在、外国人特別選抜校は千葉県内の16校で実施されていますが、定員を全部合わせると約129名が入学できるはずが、実際の数字は非常に少なく、長年にわたって1人も合格者を出していない高校もあるそうです。ちなみに、同じ「特別枠」での定員内募集を実施している海外帰国生徒の高校在籍者数は、2018年の学校基本調査によると私立高校が120名に対して、公立高校はわずか7名で、これも「定員内」募集制度が影響していると指摘します。この結果、千葉県の公立高校はその社会的責任を果たしていないとも言います。これらの背景には、特別選抜をめぐる考え方に問題があるようです。神奈 川や東京ではしっかり体制を整えてか ら特別選抜校にするのですが、千葉県ではそうした体制を取らず、職員に大きな負担がかかるため、特別枠の外国人や海外帰国生徒を避ける傾向が生まれてしまうそうです。その結果、日本語が十分でない生徒たちが市民社会の目 の届かない立場に追い込まれてしまうことについての危機感を指摘します。定員を定めてその人数を合格させること、そして学校がその生徒たちをしっかりと受け入れて、日本語指導から卒業まで導くような体制を整えることの必要 性を訴えました。


報告:高橋清樹さん

 高橋さんは、神奈川県の状況についてお話ししてくださいました。神奈川県では教育委員会の方も積極的に取り組んでくれる状況があるものの、高校進学後の支援や出口支援、家庭の問題やDVの問題など、子どもたちが抱える様々な問題に対してしっかり関わって いく必要性があると言います。神奈川県の高校入試に関連して、高橋さん所属の団体(Me-net)は教育委員会との協働事業として入試説明会を県内6か所で実施し、約500名の保護者と生徒が参加しており、さらに多 言語ガイドブックも10言語で発行して高校進学サポートをしているそうです。 こういった活動の成果もあり、現在高校の外国籍生徒の在籍数が1665名となっています。そして、その内の47%にあたる785名は日本語指導が必要な 生徒です。そうした中で進路選択の困難さも課題です。大学は留学生など日本語が十分にできない者でも入学できますが、 日本生まれや幼少期に日本に来た子ど もは、日本語の習得や学習面での困難 さを抱えるため、高校入試が壁になり、多くは定時制高校に進学せざるをえず、結果として、大学進学が叶わない場合がほとんどです。また「家族滞在」ビ ザでは日本学生支援機構の奨学金を受けることができないなど、奨学金の問題もあります。さらに、就職に関しても改善されてきたとはいえ、未だに在留資格の壁があります。そうした理由から子どもたち自身も、日本社会で働き、自立することへのモチベーション が低い状態になってしまうことが大きな課題だと指摘します。このような状況の中で、Me-netでは、「多文化教育コーディネーター」を県内の高校26校に派遣しています。高校 での支援は多岐に渡るため、現場の先 生方も手探りでいろいろな支援を行っ ているので、そうした工夫や実践例の共有を促進したいそうです。さらに、校内相談カフェや進路相談のサポートなど、コミュニケーションの場を作るということもされているそうです。


オープンディスカッション

白谷さんと高橋さんから千葉県と神奈川県の状況についてお話ししてくださった後、会場をオープンにディスカッ ションをしました。 この時間ではさまざまな議論があり ましたが、とくに議論の中心となったのは「格差」の問題でした。住んでいる地域によっては支援が厚く、複数の支援を受けている子どもがいる一方で、 周囲にサポートがないために埋もれてしまう子どもがいる問題があります。セーフティネットとなる夜間中学や定時制高校もそもそも数が少なかったり、統廃合が進むことで更に数が減少したりする可能性があるようです。こうした地域 間の格差によって、教育現場がさらな る格差を再生産してしまうのではないかという強い懸念を表明する方もいました。 全体で一致したことは、現在の状況に対しておかしいと声を上げ、個人、そして自治体がしっかりとこの現状につ いて考え、取り組む必要があるということです。そして、今は多様な人がいる時代だということを認識し、子ども一人ひとりの背景や個性に合うような入試制度や教育制度が作ることの重要性が改めて確認されました。

(記録:崔洙連)
オープンディスカッション

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